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18/27

神城伊月という男

その日、政府専用機は東京から大阪へ向かっていた。

機内は静かだった。総理は資料に目を通し、随行スタッフたちは各自の業務をこなしている。神城は総理の斜め後ろの席に座り、目を閉じていた。

眠っているわけではない。常に周囲の気配を読んでいた。

巡航高度に達した頃だった。

機内の空気が、僅かに変わった。

神城は目を開けた。

窓の外、機体の右翼付近に、空間の歪みが見えた。肉眼では確認できないほど微細な揺らぎ。しかし神城には分かった。

(来るか)

次の瞬間、機体が激しく揺れた。

乗客たちが悲鳴を上げる。資料が床に散らばり、スタッフたちが席にしがみつく。

「総理、伏せてください」

神城は静かに言いながら立ち上がった。

機体後部のドアが内側から破られた。冷たい空気が機内に流れ込む。そして、影が入ってきた。

侵略者だった。

人型をしているが、体表は黒く硬質化しており、両腕が刃のように変形している。その目には知性がなく、ただ殺意だけが宿っていた。

「神城さん!」

随行スタッフの一人が叫ぶ。

「全員、前方に移動してください。総理を守れ」

神城はそれだけ言った。

侵略者が動いた。刃と化した腕を振り下ろす。神城は一歩だけ横に動き、それをかわした。最小限の動作で、無駄が一切ない。

「波動」

神城が右手を前に出した。

掌から放たれた衝撃波が、侵略者の胸を直撃した。侵略者が後方に吹き飛び、機体後部の壁に激突する。

しかし次の瞬間、機体前部のドアも破られた。

2体目だった。

さらに窓が割れ、3体目が機内に侵入してくる。

神城は表情を変えなかった。

「3体か」

呟きながら、両手に魔力を集中させた。掌が淡く光り始める。

「波動・三連衝」

3方向に同時に衝撃波を放った。

1体目が通路で吹き飛ぶ。2体目が天井に叩きつけられる。3体目が窓から外に弾き出される。

しかし機体がバランスを崩した。破られたドアと割れた窓から、猛烈な風が吹き込んでくる。計器が狂い、機体が急降下し始めた。

「高度が下がっています!このままでは——」

パイロットの声が機内スピーカーから流れた。

神城は機体後部に向かった。破壊されたドアの縁を掴み、外を見る。眼下には雲海が広がっている。高度はまだ8000メートルを超えていた。

機内では侵略者が再び立ち上がっていた。

神城は振り返った。

「波動・収束」

両手を合わせ、全ての魔力を一点に集中させた。掌の光が白く輝き始める。周囲の空気が震える。

侵略者たちが一斉に向かってきた。

神城は動じなかった。

「——放」

一言だけ言った。

白い閃光が機内を貫いた。

3体の侵略者が同時に消滅した。砂のように崩れ、風に散った。

静寂が戻った。

しかし機体の損傷は深刻だった。エンジンの異音が響き、機体は制御を失いかけていた。

「脱出してください!」

パイロットの声が響く。

神城は機内を見渡した。総理、スタッフ、乗務員——全員で32名。

「全員立ってください」

神城の声に、震えながらも全員が立ち上がった。

神城は目を閉じた。全身の魔力を練り上げる。波動を、機内全体に展開する。

それは途轍もない集中力を要する技だった。一人一人の体重、位置、動き——全てを魔力で把握し、同時に支える。

「波動・全域展開」

神城が目を開いた瞬間、機体が空中分解した。

32名の体が、宙に投げ出された。

しかし誰も落ちなかった。

神城の波動が、全員を見えない膜で包んでいた。まるで重力を無視するように、32名は静かに宙に浮いている。

総理が呆然と周囲を見渡した。

「神城……お前は」

神城は答えなかった。ただ静かに、全員をゆっくりと地上へと降下させ始めた。

雲を抜け、街が見えてくる。

その時、神城の目に映ったのは——煙に包まれた街だった。

黒い煙が空を覆い、炎の光が揺れている。

神城の目が細まった。

(黒瀬たちの街だ)

着地と同時に、神城は総理に向かった。

「総理、申し訳ありませんが離れます」

総理は神城を見た。その目には、問いかける色があった。

「……行け」

一言だけ言った。

神城は頷き、走り出した。

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