戦闘の代償
西条が動いた。
音もなく地を蹴り、黒瀬との距離を一瞬で詰める。黒瀬はマグナムを構えようとしたが、それより早く右腕を掴まれた。
そのまま地面に叩きつけられる。
「陽翔!」
郷原が駆け寄ろうとした瞬間、ルゥが割り込んだ。
「そっちは私の担当だよ」
軽やかな声とは裏腹に、その一撃は重かった。郷原が吹き飛び、校門の鉄柵に激突する。
久我が雷槍を構え、ルゥに向かって飛んだ。
「俺の相手はお前だろ!」
「あはは、積極的だね」
ルゥは笑いながら久我の槍をかわす。そしてカウンターで久我の脇腹を蹴り上げた。久我が空中で体勢を崩し、アスファルトに落下する。
藤堂は冷静に状況を分析していた。
(西条は黒瀬を、ルゥは郷原と久我を同時に抑えている。戦力差が大きすぎる)
「ウォーターバスター」
地面を叩き、水龍を展開する。3体の水龍が西条に向かって突進した。
西条は振り返りもせず、片手を横に払った。
水龍が、霧散した。
「……っ」
藤堂の思考が止まった。策が、通じない。
その一瞬の硬直を、西条は見逃さなかった。
藤堂の胸倉を掴み、そのまま壁に叩きつける。藤堂は壁にひびを入れながら崩れ落ちた。
「藤堂!」
黒瀬は痛む体を押して立ち上がった。炎を全身に纏い、マグナムを西条に向ける。
「まだ終わってない——!」
「終わっている」
西条の声は静かだった。
次の瞬間、黒瀬の視界が暗転した。気づいた時には地面に倒れていた。どこを攻撃されたかも分からなかった。
体が動かない。
グラウンドに4人が倒れる中、空気が変わった。
正門の奥、空間に亀裂が入り始める。パリン、という音とともに裂け目が広がり、そこから一人の人物がゆっくりと姿を現した。
銀白色の髪。黒を基調とした装い。整った顔立ちの奥に、深い疲労と——ほんの僅かな悲しみを宿した目。
西条が一歩引き、頭を下げた。
「ザイロス様」
黒瀬は朦朧とする意識の中で、その人物を見上げた。
ザイロスは4人を一瞥し、それから街の方へ静かに手を向けた。
「現代の人間に告げる」
低く、静かな声が響く。
「これは侵略ではない。我々が生きるための、唯一の選択だ」
次の瞬間、街の方角に巨大な閃光が走った。
轟音が響き、地面が揺れる。
黒瀬は震える腕で体を起こし、街の方を見た。
炎だった。
街が、燃えていた。
「——っ、日野原さん」
黒瀬の声が掠れた。
意識が遠のいていく。燃え盛る街の光景が、瞼の裏に焼きついたまま——黒瀬の体は力尽き、地面に沈んだ。
ザイロスはその場に立ち尽くし、燃える街をただ静かに見つめていた。その横顔に浮かんだ表情を、もう誰も見ていなかった。




