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第四十七話;第一次ディベート大戦終結

これにて、「ディベート編」は終了です。・・割と大変でした。

「さあ、次でこの短いようで長かったディベート対決も終了だ!肯定側第二反駁担当、安倍晴明!前に出るのだ!」

閻魔様のお決まりの掛け声を受け、晴明はゆっくりとお立ち台へと向かっていく。晴明が前を向いたところで、再び閻魔様の声が響く。

「肯定側第二反駁、準備はいいか?」

「もちろんですとも閻魔様。」

「よし、それでははじめ!」

閻魔様からのスタートの合図が出されると同時に、晴明は驚きの行動に出た。

「さて、この度は一部の例外を除き女性ばかりに囲まれてディベートが出来る幸せに感謝したいと思います。ありがとうございました。」

晴明はそう言うとまるで貴族に仕える執事の如く優雅な一礼をしてみせたのだった。私は、「一部ってオイラのことっスか?」とぼやくカワちゃんは無視して“ご隠居”に晴明のこの謎の行動の説明を視線で求めた。すると、“ご隠居”がディベートの邪魔にならない程度の小声で説明してくれる。

「・・あれは、『サンクスワード』といってジャッジなどに感謝の言葉を述べるというものじゃ。これをするメリットはほとんどない故、使う奴はめったにおらん。じゃが、晴明は対戦相手が女ばかりじゃと必ずあのセリフを言うな。全く、とんだ時間の無駄遣いじゃ・・。」

え?つまりあの謎の行動は第二反駁には全く関係ないってこと?何やってんのうちのリーダー!?この試合一応私達全員の命かかってるんですけど!?

思わず晴明の頭を殴ってやろうかとも思ったが、流石にディベートの邪魔をするつもりはないので自重する。私って我慢できる子!

私がそんな葛藤を一人している間にも晴明の第二反駁は続いていた。

「では、まず否定側の議論からおさらいしていきましょう。否定側の主張としては、人間と妖怪が共存するというプランを立てれば争いが起こるというものでしたが、肯定側質疑、第一反駁でも再度確認したように、そうった争いが起こるのは妖怪、人間ともにごく一部でしかない上に、憶測で判断している部分が多く本当に争いが起こるのかすら信憑性が低いものでした。それに対し、肯定側の議論をおさらいしてみますと、実際に実例を挙げ、人間と妖怪が共存できる根拠として述べており、否定側さんがこの事実を第二反駁でも完全に否定しきれていない以上今でも十分人間と妖怪は共存できる、この筋道は残っております。」

先ほどの謎のサンクスワードから一転、晴明はディベート初心者の私でも思わずおお・・と唸るほどこれまでのディベートの流れを綺麗にまとめてみせた。しかも、相手の主張は否定しつつこちらの立論の筋道はしっかり確保している。その上、晴明の声は何故かよく耳に残るので、より一層肯定側が優位なように聞こえてくる。

・・あれ?晴明の声を聞いて感じるこの感覚、どこかで覚えがあるような・・。

そんな私の一瞬の疑問を置き去りに、晴明はまるで歌うように反駁の言葉を紡いでいった。

「さて、ここまで議論の流れを確認した上で、肯定側と否定側、どちらの意見がより優れているか、ここで一つ比較基準を出したいと思います。それは、『プラン前後の差異』です。まず否定側。否定側は、人間に恨みを持つ妖怪や、マッドな思考を持つ人間によって争いが起こるとおっしゃっていましたが、少し考えてみてください。人間に恨みを持っているような妖怪は、人間と妖怪が共存するというプランを建てる前から人間に危害を加えるのではないでしょうか?実際、私も仕事柄そういった妖怪とは出くわすこともありますし、これはプラン前後の差異がありません。マッドな思考を持つ人間にしても同様です。妖怪を捕まえて実験体にしてやろうなんていう危ない思考の人物なら、自ら山に入って妖怪を捕獲しようとしても不思議ではありません。つまり、否定側が述べていたデメリットはプラン導入によるものではないのです。それに対し、肯定側の利益を得る妖怪というのは、住処をなくし困っている妖怪達です。彼らは、プラン導入により人間と共存することが出来れば住処に食料も手に入り、また人間も妖怪の力で得をすることもあるでしょう。このメリットは、プランを導入しなければ発生しないものであり、肯定側にはプラン前後で明確な差異があります。」

晴明が一言一言言葉を発する度に、その言葉がまるでシャボン玉のように飛んでは弾けていく。この時、私はようやく晴明の反駁に感じていたものに気が付いた。晴明は、以前怨霊を成仏させた時のように、言霊を使っているのだ。道理で、晴明の反駁が歌っているかのように感じるわけだ。

・・あれ?これって術使っているってことじゃないの?え、ちょ、大丈夫?閻魔様次誰かが術を使ったらその時点でそのチームは失格って言ってなかったっけ!?

私は、冷や汗を流しながらそうっと閻魔様の様子を見る。しかし、閻魔様は晴明を止める様子はなく、むしろ晴明のディベートを楽しんで聞いているようにも見えた。

何故閻魔様が何も言わないのかは分からないが、失格にならないのならば問題はない。私も、閻魔様と同じく晴明のディベートを楽しむことにした。・・正直、こういう時のうちのリーダーはかなりカッコいいのだ。さあ、最後までその第二反駁を聞かせてくれ!

「・・以上の点から、プラン前後の差異という観点で判断して、肯定側はしっかりとしたメリットが存在するのに対し、否定側はプランにより発生するデメリットが存在しません。よって、肯定側の方が議論として勝っていると言えるでしょう。これで、この私、安倍晴明の肯定側第二反駁を終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました。」

最後にそう言って晴明が一礼した瞬間、一部からスタンディングオベーションが沸き上がった。その実行犯は、カワちゃんと何を隠そうこの私である。いや、だって久しぶりに人の話を聞いただけでこんなに興奮したんだもん。あ、ちなみにぬり壁も何故かスタンディングオベーションをしようとしていてチームメンバーに止められていた。顔が赤くなっているところを見るに、あれは晴明に惚れたのかもしれない。まあ、気持ちは分からないでもないよ?実際カッコよかったし。

「どうだ?俺の第二反駁は。カッコよかっただろ?」

私達のところに戻った晴明がドヤ顔でそんなことを言ってきた。・・うん、確かにカッコよかったけど、自分で言ったせいで若干台無しだね。素直に「先輩カッコよかったっス!」と言うカワちゃんは偉いと思う。

「今から、どちらの議論が優れていたかの審議タイムに移る!三十秒だけ待つがよい!」

晴明が席に座ったタイミングで閻魔様が場にそう告げる。なんだか某大佐の台詞を彷彿とさせる。あれ?あの大佐は三分間待ってくれたっけ?

まあそんなことはどうでもいい。私は、三十秒の猶予の間に晴明に気になっていたことを尋ねた。

「晴明、第二反駁で言霊使っていましたよね?なんで閻魔様に止められなかったんですか?」

「あ、やっぱり出てたか?まあ、ディベートやる時は高確率で出てるからな~。」

まるで自分では言霊を使おうとしていなかったかのような言い方に、思わず首を傾げる。私の疑問にちゃんとした答えを返してくれたのは、“ご隠居”だった。

「晴明の使う言霊は、無意識で作られる物じゃ。『唄い手』である晴明は、無意識で言霊を使う能力を持っておる。唄を歌えば必ず言霊は出るが、それ以外の会話では言霊は必ず出るとは限らん。これは術ではなく一種の体質のようなモノ故、閻魔であっても感知できぬというわけじゃ。」

ちなみに、言霊となった言葉は普通の言葉よりも人の心を揺さぶる力があるという。つまり、晴明は無意識のうちに他人の思考を誘導することも出来るというわけだ。

何その能力怖い。道理で、ディベートで負けなしなわけだ。最初からそのことを知っていればもっと楽な気持ちで試合に臨めたのに・・と文句を言ったら、「最初から勝てると思ってたらお前はあそこまで本気で質疑をやろうと思わなかっただろ?」と言われ、何も言い返せなくなった。

そして、結果はもちろん私たちのチームの勝利。晴明は、ディベートですっかり晴明のファンとなってしまったぬり壁達に自分の代わりに自称イケメン妖怪の豆腐小僧、ハンサムの電話番号を渡すことでなんとかぬり壁達にはトンネルから出ていってもらった。

最後に、「今回も楽しいディベートであったぞ!またディベートをすることがあれば呼ぶのだ!」そう言って、ハ―ハッハッハ!という高笑いと共に登場してきた穴から帰る閻魔様を見送って、私達もBARへと帰って行ったのだった。

次回は、河村視点の閑話です。時間的にはBARに戻ってきた後の話となります。

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