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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


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9/13

第三十三話「セルドの農地を、歩いた」

三十三話目です。


セルドに残った一か月の話です。川が戻り始めてから、凪は農地を歩き始めました。竜の問題が解決したら終わり、ではなかった。川が戻っても、土は五年分の傷を受けていた。


カナが来ます。ミアと一緒に動く二人の記録係が、この話で大事な役割を持ちます。


では、どうぞ。

川が増え始めてから、一週間が経った。


水位は、まだ完全には戻っていなかった。


でも、毎日少しずつ増えていた。


川沿いに住む人たちが、岸に来て、水を見ていた。


朝、川を見に行くと、必ず誰かがいた。


「見に来るんですね、みんな」とミアが言った。


「五年間、減っていくのを見ていたから」


「増えていくのを見たくて、来ている」


「そうだと思います」


川の音が、大きくなっていた。


最初に来た日より、ずっと大きかった。



カナが来たのは、川が増え始めてから八日目だった。


オルトが使いを出してから、思ったより早かった。


「すぐ来ました」とミアが言った。


「急いでくれたんですね」


カナが、都の入口で私を見て、少し手を上げた。


「久しぶりです、凪さん」


「久しぶりです。早かったですね」


「竜の話を聞いたら、来ないわけにいかなかった」


「竜が目当てですか」


「記録係として、この話は現地で見ないと、嘘になります」とカナは言った。きっぱりと言った。


ミアが、カナを見て、少し目を輝かせた。


「先輩」


「ミア、ちゃんとやってたか」


「やっていました。記録、見てください」


カナが、ミアの記録帳を受け取った。


少し読んだ。


「よく書けている」


「ありがとうございます」


「竜との会話の部分、特に良い。言葉ではない会話を、こう書いたか」


「不完全かもしれないですが」


「不完全でいい。完全に書こうとすると、嘘になることがある」


カナが記録帳を返した。


ミアが、大事そうに受け取った。



翌日から、カナとミアと一緒に、川沿いの農地を歩いた。


オルトが案内してくれた。


最初の農地は、川から一番近い場所にあった。


土を触った。


固かった。


水が減っていた五年間で、土が乾燥して固まっていた。


「どうですか」とカナが聞いた。


「固いです。水が届いていなかったから、土の中の生き物が減っています」


「生き物が減ると、どうなりますか」


「土が固くなります。固くなると、また水が染み込みにくくなる。悪循環が起きています」


「川が戻っても、土はすぐには戻らない」


「そうです。水が来ても、固い土には染み込めない。まず、土を柔らかくする必要があります」


カナが、土に手を当てた。


自分でも確認していた。


「乾き方が、通常の乾燥とは違いますね」


「そうです。急に乾いた土と、長期間乾き続けた土では、固まり方が違います。ここは、五年間かけて固まっています」


「どうすれば、戻りますか」


「いくつかの方法があります。落ち葉や草を積んで、土の表面を覆う。植物の根が入ることで、少しずつほぐれる。時間をかければ、戻ります」


カナが、記録帳に書いた。


「どのくらい時間がかかりますか」


「早くて一年。しっかり戻るには、三年から五年かもしれないです」


「川が戻っても、農地が戻るのはもっと先、ということですね」


「そうです」


カナが、農地の向こうを見た。


「農民の人たちに、説明しますか」


「説明した方がいいと思います。川が戻ったのに、作物がすぐに戻らなかったとき、理由が分からないと、また別の問題が起きます」


「説明が必要」


「そうです」



農地を歩きながら、農民の人たちと話した。


話しかけてきたのは、五十代くらいの男性だった。


顔が、乾燥した土のように固かった。


五年間、心配し続けてきた顔だった。


「川が戻ってきた。これで、来年は元に戻るか」と聞かれた。


「来年は、まだ難しいかもしれません」と私は答えた。


男性が、顔をしかめた。


「なぜだ。川が戻れば、水が来る。水が来れば、作物が育つんじゃないのか」


「川の水が来ても、土がまだ固いままです。固い土には、水が染み込めない。土が柔らかくなるまで、もう少し時間がかかります」


「どのくらいかかる」


「土の状態によりますが、一年から三年かもしれないです」


男性が、黙った。


「そんなに待てない」とつぶやいた。


「全部の農地が、同時に戻るわけではないです。川に近い場所から、順番に戻ってきます。川から近い農地は、早く戻る可能性があります」


「ここは、川から近い」


「そうです。ここは、比較的早い方だと思います」


「一年は待てるか」


「待てると思います。ただ、待っている間にも、やれることがあります」


「やれること」


「土の表面に、落ち葉を積む。草を生やす。土が直接乾かないようにする。それだけで、回復が早くなります」


男性が、土を見た。


「落ち葉を積むだけでいいのか」


「それだけじゃないですが、まず始めやすいことから」


男性が、少し考えた。


「分かった。やってみる」


「カナさんが、もっと詳しく教えてくれます」と私はカナを示した。


カナが頷いた。


「一緒に考えましょう」とカナは言った。


男性が、カナを見た。


カナが、記録帳を持って立っていた。


専門家の雰囲気があった。


「頼む」と男性は言った。



その日の夕方、川のほとりに座って話した。


カナとミアと私の三人だった。


「農民の人たちが、苦しそうでした」とミアが言った。


「五年間、苦しかったと思います」と私は言った。


「川が戻っても、すぐには楽にならない」


「そうです。戻るまでに、また時間がかかる」


「それを聞いて、どう思いましたか。男性が、そんなに待てない、と言ったとき」


「辛い、と思いました」


「凪さんも、辛いと思うんですね」


「思います。気にならない、ということはないです」


ミアが、少し驚いた顔をした。


「気にならないと思っていました」


「なぜですか」


「いつも、淡々としているので」


「淡々としているのは、焦っても変わらないからです。気にならないわけじゃないです」


カナが、川を見ながら言った。


「それが、続けられる理由かもしれないですね」


「どういう意味ですか」


「気になるが、焦らない。感情はあるが、流されない。その両方があるから、続けられる」


「そうかもしれないです」


カナが、川の流れを見た。


「凪さん、一つ聞いていいですか」


「なんですか」


「森の集落に帰るとき、どんな気持ちになると思いますか」


「帰りたい、と思います」


「帰りたい」


「ルナとガルさんが、待っています。クロとキョロも。北の池の精霊も」


「会いたい、ということですか」


「会いたいです」


カナが少し微笑んだ。


「帰る場所があるということは、強みですね」


「そうですね」


「私には、帰りたい場所があるかどうか、分からなかったです。ずっと、記録することだけを考えていた」


「今は、分かりますか」


カナが少し考えた。


「ミアのところかもしれない」とカナは言った。「弟子が、ここにいます」


ミアが、カナを見た。


何も言わなかったが、少し耳が赤かった。


「良いですね」と私は言った。


「凪さんみたいには言えないですが」


「人それぞれでいいと思います」


川が、流れていた。


昨日より、また少し増えていた。


毎日、少しずつ増えていた。


劇的な変化ではなかったが、確かに変わっていた。



三週間が経った。


カナとミアは、農地を回り続けた。


農民の人たちと話して、土の回復方法を教えた。


私は、時々山に行った。


東側の小道から、台のある場所まで。


竜は、いつもそこにいた。


卵の近くにいた。


言葉は通じなかったが、近くにいた。


ある日、竜が私を見て、低い音を出した。


「元気だ、と言っています」


シロが、尻尾を振った。


竜がシロを見て、また音を出した。


「お前も元気だ、と言っています」


シロが、胸を張った。


竜が、小さく笑うような音を出した。


竜が笑うというのが、正確かどうか分からなかった。


でも、そういう音だった。



四週間が経ったころ、ガレス王に呼ばれた。


「山の保護区の指定が、正式に決まった」とガレスは言った。


「ありがとうございます」


「竜がいる山を、国として守る。記録にも残す。百年後の人間が読んでも、理解できるように書く」


「ミアさんが書いてくれます」


「カナという女性も、手伝ってくれている。良い記録ができそうだ」


「そうですね」


ガレスが、少し間を置いた。


「凪、もう少し、セルドにいてもらえるか」


「難しいです」と私は言った。


「理由は」


「森の集落に帰る約束があります。ルナという子に、帰ると言いました」


ガレスが、少し驚いた顔をした。


「王に頼まれても、子どもとの約束の方が大事なのか」


「約束は、約束です」


ガレスが、また少し驚いた顔をした。


それから、笑った。


「そうか。では、仕方ない」


「カナさんとミアさんが、残ってくれます。農地の回復は、二人に任せてください」


「分かった」


「それと、山に時々行ってほしいです。竜が、孤独にならないように」


「竜のところに、人が行くということか」


「嵐は、もう来ないと思います。東側の小道から、台のある場所まで。そこまでなら、行けます」


「誰が行く」


「ミアさんが、行ってくれると思います。竜とのことを、記録し続けたいと言っていたので」


「そうか。頼んでみよう」



出発の前日、デルのところに寄った。


「帰るか」とデルは言った。


「明日、帰ります」


「遠いところから来て、遠いところへ帰るんだな」


「そうです」


「竜は、どうだった。最後に会ったのは」


「一昨日です。卵の近くにいました。元気そうでした」


「そうか」とデルは言った。「あの竜、名前はあるのか」


「聞いていないです」


「竜に、名前はあるのかな」


「あるかもしれないですし、ないかもしれないです」


「聞けばよかったな」とデルは言った。


「次に来たとき、聞いてみます」


「次に来るのか」


「来られるうちは、来ます」


デルが、少し笑った。


「お前は、来る、と言うな。する、と言う。できる限りとか、かもしれない、ではなく」


「ルナに練習させてもらいました」


「また子どもの話をする」とデルは言った。


「良い師匠でした」


「そういうことにしておこう」


デルが、窓の外を見た。


山が見えた。


「あの山が、変わった気がする。気のせいかもしれないが」


「気のせいじゃないと思います。竜が、もう泣いていないと思うので」


「泣いていない竜の山は、違って見えるかもしれないな」


「そうかもしれないです」


デルが、また笑った。


「また来い」


「来ます」



出発の朝、川を見た。


来たときより、ずっと増えていた。


完全には戻っていなかった。


でも、流れていた。


音がしていた。


農民の人たちが、何人か川のそばにいた。


みんな、川を見ていた。


誰も何も言っていなかった。


ただ、見ていた。


「帰ります」と、川に向かって言った。


誰にでもなく、言った。


川が、流れていた。


それが、返事だった。


シロが、前を向いた。


帰ろう、という顔だった。


歩き始めた。


セルドの都が、後ろに遠ざかった。


山が、見えていた。


ガロン山。


青い竜がいる山。


卵がある山。


いつか、子竜が生まれる山。


「また来ます」と山に向かって言った。


山は、何も言わなかった。


でも、変わらずそこにあった。


それで、十分だった。

三十三話目、書きました。


セルド編の後日談と、帰還の準備の話でした。竜の問題が解決した後に、土の問題が残っていた。大きな問題を解決しても、積み重なった傷はすぐには消えない。それをカナとミアが引き継いでいく構造が、この物語全体のテーマと重なります。一人が全部やるのではなく、次の人に渡す。


「気になるが、焦らない。感情はあるが、流されない」というカナの観察。凪が淡々としているように見えても、気になっていないわけではないことが、ここで示されました。感情を持ちながら、それに流されない。その両方があるから続けられる。


「王に頼まれても、子どもとの約束の方が大事なのか」というガレス王の驚き。凪にとって、約束は約束です。相手が誰かは関係ない。ルナとした約束は、王の要請と同じ重さを持つ。


セルド編が終わりました。次話から、森への帰還が始まります。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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