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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


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6/10

第三十話「東側の小道に、誰かの痕跡があった」

三十話目です。


東側の麓を歩く話です。百年前に使われていた小道を探しながら、誰かが残した痕跡を見つける。


行き詰まったと思っていたところに、思わぬ道が開けることがある。ただし、それがどこに続くかは、歩いてみないと分からない。


では、どうぞ。

朝、霧が出ていた。


ガロン山の東側は、北側より穏やかな雰囲気だった。


北側は岩が多くて、荒れた印象だった。東側は、岩も多いが、低い木が点々と生えていた。乾いてはいるが、完全に死んでいるわけではない植生だった。


オルトが地図を見ながら歩いた。


「百年前の地図では、このあたりに道があったはずだ」


「探しながら歩きます」


シロが、先頭を歩いた。


鼻を地面に近づけながら歩いていた。


「シロ、何か分かるか」


シロが少し止まって、また歩き始めた。


何かを追っているような歩き方だった。



一時間ほど歩いたとき、シロが止まった。


岩の間に、何かがあった。


石が、並んでいた。


自然に並んだのではない、明らかに人の手で並べられた石だった。


「道の跡か」とオルトが言った。


「そうだと思います。石を並べて、道の境界を示していた」


「百年前の道が、残っていた」


「残っていました」


ミアが、記録帳に書いた。


「続きは、どこに向かっていますか」


石の並びを追った。


山の斜面を、なだらかに登っていた。


北側の直行路とは違う。急ではなく、斜めに山腹を巻くように続いていた。


「上に向かっています。ただ、途中で分からなくなる場所があります」


石の間隔が、広くなっていた。


百年の間に、崩れたり、土に埋まったりした部分があるらしかった。


「全部は、追えないかもしれない」


「どこまで見えますか」


「あの岩の手前まで」


百メートルほど先に、大きな岩があった。


そこで、石の並びが見えなくなっていた。


「行ってみます」



石の並びを辿って、大きな岩まで歩いた。


嵐は来なかった。


北側への直行路とは違って、ここでは空が穏やかなままだった。


「昨日のような嵐が来ないですね」とミアが言った。


「この方向には、来ないのかもしれない」


「竜が、この方向は気にしていない、ということですか」


「か、気づいていないか」


「気づかれていない」


「もしそうなら、この道から入れるかもしれない」


「まだ、分からないですが」


大きな岩のところまで来た。


岩の向こうを見た。


石の並びは、岩の向こうにも続いていた。


「続きがあります」


ただ、岩を越えるのが、少し難しかった。


岩の横を回れないことはなかったが、斜面が急になっていた。


シロが、ひょいと岩を飛び越えた。


「早い」


シロが振り返って、こちらを見た。


早く来い、という顔だった。


「待ってくれ」


岩の脇を、慎重に回った。


オルトが、私の腕を支えてくれた。


ミアが、記録帳を閉じて、両手を使って登った。


全員で、岩を越えた。



岩の向こうに、思わぬものがあった。


小さな、平らな場所があった。


岩に囲まれた、ちょうど四人が座れるくらいの広さの場所だった。


そこに、何かが置いてあった。


石で作られた、小さな台のようなもの。


台の上に、何かが乗っていた。


近づいて見た。


木でできた、小さなものだった。


かなり古くて、腐りかけていたが、形は残っていた。


人の形をしていた。


「人形か」とオルトが言った。


「そうだと思います。誰かが、ここに置いた」


「百年前の人間が」


「かもしれない。それ以前の可能性もあります」


ミアが、それを見た。


「何のために置いたんでしょう」


「お供え物か、それとも、何かの目印か」


台の周りを見た。


台の石に、何かが彫ってあった。


「文字です」


「読めますか」


読んだ。


古い字体だったが、読めた。


「目覚めよ、とあります」


「目覚めよ」


「それだけです。一言だけ」


オルトが、その文字を見た。


「誰に向けて書いたのか」


「分かりません。竜に向けて書いたのか、山に向けて書いたのか」


「百年以上前に、誰かがここに来て、これを置いた」


「そうです」


ミアが、台と人形と文字を、詳しく記録帳に書いた。


図も描いた。


「凪さん、この場所、何か感じますか」


地面に手を当てた。


感じた。


かすかだったが、確かに感じた。


「水がある」


「水」


「地面の深いところに。細い流れが、ここを通っています」


「山の中から来ている水ですか」


「そうだと思います。ここは、地下水脈の上にあります」


オルトが地面を見た。


「水脈の上に、誰かが台を置いた」


「意図的だと思います。水を感じて、ここに置いた」


「百年以上前に、水脈を感じ取れる人間がいたということか」


「いたのかもしれないです」


シロが、地面の匂いを嗅いだ。


それから、顔を上げて、山の上の方を見た。


「何か、分かるか」


シロが、小さく鳴いた。


何かがいる、という感じの鳴き方だった。


見上げた。


岩の上に、影があった。


大きな影だった。


翼の形をしていた。


「いる」


オルトが気づいた。


「竜か」


「そうだと思います。こちらを見ています」


「嵐が来ないな」


「来ていないです」


「なぜだ。昨日は来たのに」


「この場所が、特別なのかもしれない」


影は、動かなかった。


ただ、こちらを見ていた。


攻撃してくる気配はなかった。


嵐を起こす気配もなかった。


ただ、見ていた。


「話しかけてみます」


「大丈夫か」とオルトが言った。


「分かりません」


大きな岩に向かって、声を出した。


「聞こえますか」


影が、動いた。


翼を少し広げた。


嵐にはならなかった。


ただ、広げた。


「私は凪といいます。セルドの川が減っている理由を、知りたいと思って来ました」


影が、また動いた。


翼を閉じた。


それから、動かなくなった。


「返事はないですね」とミアが言った。


「言葉は、返ってこないかもしれないです。でも、聞いていると思います」


「根拠は」


「嵐が来なかったから」


「嵐が来ないのが、聞いている証拠ですか」


「昨日は、近づいたら嵐が来た。今日は、来ていない。この場所に来たことを、許可してくれているのかもしれない」


「許可」


「来てもいい、という意思かもしれない。ただ、まだ話す気にはなっていない」


影が、また動いた。


今度は、ゆっくり、岩の上から消えた。


翼の音が、かすかに聞こえた。


それから、静かになった。



その場所で、しばらく話し合った。


「どうする」とオルトが言った。


「明日も来ます」


「また来るのか」


「来ます。今日は、来てもいいと許可してくれた気がします。明日も来れば、また様子が違うかもしれない」


「毎日来て、どうなるんだ」


「慣れてくれるかもしれない。竜が、こちらを敵だと思わなくなれば、話せる可能性が上がります」


「時間がかかる」


「かかります。でも、正面から入ろうとするより、可能性があります」


オルトが、腕を組んだ。


「ガレス王が、急げと言っている」


「急いで失敗するより、時間をかけて進む方がいいです」


「王に、そう言えるか」


「言います」


オルトが、少し驚いた顔をした。


「言えるのか」


「正直に言わないと、後で困ることが多いので」


オルトが、ため息をついた。


「分かった。毎日来よう。ただ、王には私が説明する。お前は、竜のことに集中してくれ」


「ありがとうございます」


「礼はいい。ただし、本当に可能性があると思っているか」


「あると思っています。嵐が来なかった。それだけで、昨日より可能性が上がった」


「どのくらい」


「五分五分より、少し上になった気がします」


「相変わらず、正直だな」とオルトは言った。


「正直でないと、後で」


「困ることが多い、だろう。分かった」



下山する前に、台の前にもう一度立った。


「目覚めよ」という文字を、もう一度見た。


百年以上前に、誰かがここに来た。


水脈を感じ取って、台を置いた。


竜に何かを伝えようとしたのか。


山に何かを伝えようとしたのか。


それとも、来る誰かのために残したのか。


分からなかった。


でも、この場所が、昨日より先に進む糸口になった。


「ありがとう」と台に向かって言った。


誰もいなかったが、言った。


百年以上前の誰かに、言った。


ミアが、その様子を見ていた。


「誰かに言ったんですか」と、静かに聞いた。


「ここを作った人に」


「もういない人に、ありがとう、と言うんですね」


「いなくても、残してくれたので」


ミアが、少し黙った。


それから、記録帳に何かを書いた。


「何を書きましたか」


「台を作った人への、凪さんのありがとう、です。残しておきたかった」


「ありがとうのありがとうを、記録したんですか」


「そうです。こういうことも、残す価値があると思いました」


シロが、私の横に来た。


山を見た。


竜は、もういなかった。


でも、今日、ここに来たことを知っている。


明日、また来る。


何度でも来る。


いつか、話せるかもしれない。


その可能性が、今日より少し大きくなった。


それで、十分だった。



宿に戻る道で、ミアが言った。


「デルさんに、今日のことを話しに行きますか」


「行きます。小道が残っていたこと、台があったこと、竜が嵐を起こさなかったことを、伝えたい」


「デルさんが、喜ぶと思います」


「おじいさんの話が、役に立ったということが伝わるといいです」


「大事な話は、聞く人間が来るまで待つしかない、と言っていましたね」


「来ました」と私は言った。


「今日の私たちが、聞きに来た」


「そうです」


ミアが、記録帳を抱えて歩いた。


今日だけで、かなり書いたらしかった。


「凪さん、一つ聞いていいですか」


「なんですか」


「竜が、最終的に話してくれると思いますか」


少し考えた。


「分かりません。でも、話してくれるかどうかより、話しかけ続けることが大事だと思っています」


「話しかけ続けることが、大事」


「話してくれなくても、来ることをやめなければ、いつか変わるかもしれない。変わらなくても、来続けることで、何かが分かるかもしれない」


「続けることに、意味がある」


「そうです」


ミアが、それを記録帳に書いた。


「凪さんの言葉、書きとめておきます」


「記録するほどのことじゃないですが」


「記録するほどのことです」とミアは言った。きっぱりと言った。


カナに似ていた、と思った。


記録することに、誇りを持っている人の言い方だった。


都の外れに、デルの家があった。


明かりがついていた。


老人が、まだ起きていた。


「話しに行きましょう」


四人と一頭で、その明かりに向かって歩いた。

三十話目、書きました。


東側の小道に、百年以上前の台と「目覚めよ」という文字が残っていた場面。知識は、書物だけに残るのではなく、場所にも残ります。誰かが、何かを感じ取って、そこに置いていった。それが百年後に、別の誰かの糸口になる。自然補完科学が語る循環の思想と、通じるものがあります。


竜が、この場所では嵐を起こさなかった。それが重要な変化です。正面から来た昨日は、嵐が来た。東側の小道から来た今日は、来なかった。竜に、この場所への特別な感情がある可能性が出てきました。


「ありがとうのありがとうを記録した」というミアの行動。記録係が、何を記録すべきかを、自分で判断した場面です。言葉だけでなく、言葉の周りにある感情も、残す価値がある。


次話では、デルへの報告と、竜への次のアプローチを考えます。もう少し謎が深まります。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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