表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/10

第二十九話「竜に会う方法を、意外な人が知っていた」

二十九話目です。


正面から入れなかった。だから、別の方法を探す話です。


行き詰まったとき、答えは意外なところにあることがある。知識を持っているのが、専門家とは限らない。長く生きてきた人が、忘れられた記憶を持っていることがある。


では、どうぞ。

翌朝、オルトが険しい顔で来た。


「昨夜、考えた」とオルトは言った。


「何を考えましたか」


「竜に会う方法だ。だが、思いつかなかった」


「私も、考えました」


「何か分かったか」


「分かりませんでした。ただ、一つ、聞いてみたいことがあります」


「なんだ」


「百年前、竜が来る前、この山に入っていた人たちは、今もセルドにいますか」


オルトが、少し考えた。


「百年前の人間は、もういないが」


「その人たちの子孫は」


「いるかもしれない。ただ、百年前のことを覚えている人間は」


「記録に残っていなくても、話として伝わっていることがあります」


オルトが、ミアを見た。


「調べられるか」


「やってみます」とミアは言った。



昼前に、ミアが戻ってきた。


「一人、いました」


「話を聞いていた人が」


「直接ではないですが、おじいさんから聞いたという人が、都の外れにいます。その人自身は、八十代です」


「会えますか」


「会いに行きましょう」



都の外れに、小さな家があった。


古い家だった。


壁が石でできていて、屋根に草が生えていた。


ミアが戸を叩いた。


しばらくして、出てきたのは、背の曲がった老人だった。


白い髪で、目が小さくて、でも光があった。


名前はデルといった。


「転生者が来るとは、珍しいな」とデルは言った。


「会ってもらえてありがとうございます」


「オルトが丁寧に頼んできた。断れん」とデルは言った。


家の中に通してもらった。


狭かったが、清潔だった。


古い道具が、丁寧に並んでいた。



お茶をもらいながら、話を聞いた。


「竜の山のことを、おじいさんから聞いた、と聞きました」と私は言った。


「そうじゃ」とデルは言った。「わしのじいさんが、子どもの頃に、竜が来る前の山に入ったことがあると言っていた」


「どんな山でしたか」


「水が豊かだったと言っていた。今とは全然違う。滝があって、川が何本も流れていて、植物が深くて、動物も多かった」


「竜が来てから、変わったんですね」


「変わった。じいさんは、竜を憎んでいた。あの竜が来てから、山が死んだと言っていた」


「山が死んだ」


「じいさんの言葉じゃ。水が減って、動物がいなくなって、植物が減った。竜のせいだと言っていた」


私は少し考えた。


「おじいさんは、竜が直接、山を壊したと思っていましたか」


「そう言っていた。竜が嵐を起こすたびに、山が削られると」


「嵐で、山が削られる」


「そうじゃ。じいさんは、竜を恐れていたが、同時に、なぜ竜がそんなことをするのか、不思議に思っていたと言っていた」


「なぜ不思議に思っていたんですか」


デルが、少し目を細めた。


「竜は、最初から嵐を起こしていたわけじゃない、と言っていた」


私は、手にしていたお茶を、置いた。


「最初から、ではなかった」


「最初の数年は、竜が来ても、嵐が来なかったそうじゃ。じいさんが子どもの頃は、まだ山に入れた。竜がいるのに、入れたと言っていた」


「どういうことですか」


「竜が来た頃は、嵐を起こさなかった。人が入っても、何もしなかった。ところが、ある時から、突然、嵐を起こすようになったと」


「ある時から、何かが変わった」


「そうじゃ。じいさんは、その理由を知らなかった。ただ、変わったのは、山の中で何かが起きてからだと言っていた」


「山の中で、何かが」


「じいさんは、直接見ていない。ただ、竜が嵐を起こし始めた少し前に、山の奥の方で大きな音がしたと言っていた。それ以来、竜が人を入れなくなったと」



外に出て、オルトと話した。


「聞いたか」とオルトが言った。


「聞きました。竜は、最初から嵐を起こしていたわけじゃなかった」


「何かが変わった、ということか」


「そうです。山の奥で何かが起きて、それ以来、竜が人を入れなくなった」


「山の奥で何かが起きた、というのは」


「分かりません。でも、これで、竜がただ人を追い払いたいだけではない、と分かりました」


「守っている、ということか」


「そう思います。山の奥に、何かがある。それを守るために、竜が人を入れていない」


ミアが、記録帳に書きながら言った。


「守っているものが分かれば、竜と話せるかもしれない」


「そうです」


「でも、山の奥に入れない」


「正面からは、入れない」


「別の入り口がありますか」


「ここに来る前に、地図を見ました。北からの直行路しか、記録にはなかった。でも、百年前の地図に、別のルートが描いてありました」


「別のルート」


「東側に、かつて小道があったようです。今は使われていないかもしれない。でも、もし残っていれば、別の方向から近づける」


オルトが、地図を広げた。


「どこだ」


地図を指さした。


「ここです。百年前の地図では、東側の斜面に、細い道が描いてありました」


「今は、記録にない」


「記録にないだけで、道自体は残っているかもしれない」


オルトが地図を見た。


「確認できるか」


「行ってみないと、分かりません」


「また山に入るのか」


「今回は、中腹まで行かなくていいです。東側の麓を歩いて、小道の痕跡を探すだけです」


「嵐は来ないか」


「麓なら、来ないと思います。昨日の経験から、嵐は中腹以上の場所に来ていました」


オルトが、また地図を見た。


「分かった。明日、東側の麓を歩こう」



夕方、宿に戻る前に、デルのところに寄った。


「また来てすまない」と私は言った。


「構わん。珍しいことが起きているからな」とデルは言った。


「もう一つ、聞かせてください。おじいさんが、竜を見たことは、ありましたか」


デルが少し考えた。


「見た、と言っていた。遠くからだが」


「どんな竜でしたか」


「大きくて、青かったと。空の色に似た青だったと言っていた」


「青い竜」


「怖かったが、美しかったとも言っていた」


「美しかった」


「そうじゃ。じいさんは、竜を憎んでいたが、同時に、美しいとも言っていた。どちらも、本当のことだったんじゃと思う」


「怖くて、美しい」


「そういうものは、この世界に色々あるじゃろ」


デルが、お茶を一口飲んだ。


「一つ、わしが思っていることを、言っていいか」


「どうぞ」


「竜は、悪い存在だとじいさんも言っていたが、わしは少し違うと思っている」


「どう違いますか」


「山に入れなくなってから、百年経った。その百年で、竜が人を傷つけたという記録は、一つもない」


「そうですか」


「嵐で、死んだ人間はいない。引き返した人間は、みんな無事に帰ってきている。傷ついた人間も、いない」


「昨日も、岩が落ちてきましたが、道の上でした」


「そうじゃろ。殺そうとしているなら、百年間で一人くらいは死んでいる。でも、死んでいない」


「追い払いたいだけで、傷つけたくない」


「そう思っている。だから、わしは竜が悪いとは思っていない。ただ、何かを守りたいんじゃと思っている」


私は、デルを見た。


八十代の老人が、百年前のことを、おじいさんから聞いた話として持っていた。


それが、今、役に立っていた。


「ありがとうございます」


「役に立ったか」


「とても」


「そうか。じいさんの話を、誰かに伝えられて、良かった」


デルが、また一口お茶を飲んだ。


「若い頃は、誰も聞いてくれなかった。老人の昔話だと思われていた」


「大事な話でした」


「そうじゃな」とデルは言った。静かに言った。「大事な話は、急いで語ると伝わらない。聞く人間が来るまで、待つしかない」


「待っていてくれたんですね」


「待っていたわけじゃないが、話せる機会がなかった。今日、初めて話せた」


デルが、窓の外を見た。


ガロン山が、遠くに見えた。


「あの竜、わしが死ぬ前に、話が通じるといいな」


「通じるように、やってみます」


「頼むよ」とデルは静かに言った。



宿に戻る道で、ミアが言った。


「デルさんの話、大事なことが多かったですね」


「そうですね。竜が最初から嵐を起こしていなかった、というのが一番大事でした」


「何かがあって、変わったということですよね」


「そうです。その何かが分かれば、竜の行動の理由が分かります」


「百年前の話を、まだ覚えている人がいるとは思いませんでした」


「忘れられた記憶が、大事なことを持っていることがある」


「記録係として、そういう話を拾い上げることも、大事だと感じました」


「ミアさんは、記録の仕事が好きですか」


ミアが少し驚いた顔をした。


「好きです。なぜですか」


「聞いたことがなかったので」


「記録することで、忘れられるはずのことが残る。それが好きです。デルさんの話が、もし記録されていれば、誰かが早く気づけたかもしれない」


「今日、記録しましたね」


「しました。これは、残ります」


「良かった」


シロが、私の横を歩いた。


夕暮れの都の道を、四人と一頭が歩いた。


山が、遠くに見えた。


青い竜が、その山のどこかにいる。


何かを守っている。


百年間、人を入れないで、守っている。


明日、東側の麓を歩く。


小道が残っていれば、別の方法で近づける。


小道がなければ、また別の方法を考える。


気になることが、また増えていた。


でも、気になれば、動ける。


それだけで、十分だった。

二十九話目、書きました。


デルという老人のキャラクターを作りました。専門家でも、権力者でも、若者でもない。八十代の老人が、おじいさんから聞いた話を、百年間持っていた。それが今、役に立った。


「大事な話は、急いで語ると伝わらない。聞く人間が来るまで、待つしかない」というデルの言葉は、この物語全体に流れているテーマと重なります。マスターの思想も、理解される前に蒔かれた種です。種は、聞く人間が来るまで、待っている。


「百年間で、一人も死んでいない」という観察が、竜への見方を変える重要な情報でした。悪竜は傷つける。でも、この竜は傷つけない。ということは、理から完全に外れた存在ではないかもしれない。


「転」に向けて、東側の小道という新しい糸口が見つかりました。次話で、その道を歩きます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ