表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

第二十八話「山に入ったら、嵐が来た」

二十八話目です。


起承転結の「承」です。山に入って、嵐に遭います。ただ逃げるだけではない。その中で、気づくことがある。


凪が、初めて本当に追い詰められる場面があります。これまでは、難しくても「やってみます」で何とかなっていた。今回は、そう簡単にいかない。


では、どうぞ。


山の麓に着いたのは、昼前だった。


晴れていた。


風もなかった。


穏やかな天気だった。


「今日は大丈夫そうですね」とミアが言った。


「そうですね」


「嵐が来るのは、山の中腹から、という記録があります。麓は、大体穏やかです」


「中腹に着いたら、変わるかもしれない」


「そうです。過去の記録では、中腹に差し掛かったあたりで、突然風が強くなり始めたとあります」


オルトが地図を確認した。


「中腹まで、歩いて二時間ほどだ」


「行きましょう」


シロが、先頭を歩いた。


耳が立っていた。



最初の一時間は、何も起きなかった。


山道を歩いた。


岩が多かった。


植物は少なかったが、ないわけではなかった。低い草と、丈の短い木が、岩の間に生えていた。


ガロン山の植物は、ガルの集落の近くの森とは全然違った。


乾いていた。


でも、乾き方が、何か違った。


アルドの山で見た、人間の採掘が原因の乾き方ではなかった。


もっと古い、長い時間をかけた乾き方だった。


「ここ、昔は違いましたか」とミアに聞いた。


「百年前の記録では、もう少し植物が多かったようです」とミアが答えた。


「百年で、減ったんですね」


「竜が来てから、人が入らなくなった。人が入らなくなると、維持されなくなる部分もあるということですか」


「人が入ることで、維持される自然と、人が入らない方が良い自然があります。ここは、どちらかは分からないですが、何かが変わってきたのは確かです」


オルトが、険しい顔で歩きながら聞いていた。


「竜が来る前は、人が入っていたのか」


「記録に、そういう記述があります」とミアが言った。「百年前は、薬草を採りに入る人がいたと」


「それが、竜が来てから途絶えた」


「そうです」



山の中腹に差し掛かったとき、空が変わった。


さっきまで青かった空に、雲が集まり始めた。


速かった。


自然な雲の動きではなかった。


まるで、集まれと命令されたように、四方から雲が来た。


「来ました」とオルトが言った。


風が吹いた。


強い風だった。


体が、少し押された。


「引き返しますか」とミアが私に聞いた。


「もう少し、行ってみます」


「危険です」


「竜が、何かしているなら、近づけば分かるかもしれない。自然現象なら、もう少し行っても、それ以上は変わらないはずです」


オルトが、前を見た。


「どちらだと思う」


「竜が、関係していると思います。ただ、追い払おうとしているのか、別の理由があるのか、まだ分かりません」


「追い払おうとしているなら、近づけば嵐が激しくなる」


「そうかもしれない」


「それでも行くか」


「行きます」



さらに進んだ。


風が、強くなった。


雨が降り始めた。


横から叩きつけるような雨だった。


道が、見えにくくなった。


シロが、私の横についた。


風に飛ばされないように、体を低くして歩いた。


ミアが、記録帳を服の中にしまった。


「書けないですね」と、風の中で叫んだ。


「後で、覚えていることを書いてください」


「分かりました」


雷が、遠くで鳴った。


光が、空を走った。


その一瞬の光の中で、山の上の方が見えた。


岩だけの、荒れた斜面が続いていた。


その岩の間に、何かがいた。


大きかった。


光が消えて、また暗くなった。


「見えましたか」とオルトが言った。


「見えました」


「竜か」


「たぶん」


「どのくらい大きかった」


「この山の、上の方の岩と同じくらいの大きさでした」


オルトが黙った。


「岩と同じ大きさ、というのは、かなり大きいな」


「かなり大きいです」


雷が、また鳴った。


今度は、近かった。


直後に、岩の表面を走る光が見えた。


落雷だった。


私たちのいた場所から、三十メートルほどのところに、雷が落ちた。


衝撃で、体が揺れた。


ミアが、よろけた。


オルトが支えた。


シロが、私の体に体を押しつけてきた。


倒れないように、支えてくれていた。


「ありがとう」


シロが低く唸った。


危ない、という声だった。


「分かってる」


もう少し先に進もうとした、そのとき。


岩が、落ちてきた。


上から、大きな岩が落ちてきた。


道の上に、ぶつかった。


粉砕された岩の破片が、飛んできた。


「伏せて」と叫んだ。


四人と一頭が、地面に伏せた。


破片が、上を飛んでいった。


しばらくして、静かになった。


顔を上げた。


道の先が、岩で塞がれていた。



道が、塞がれていた。


「前に進めません」とミアが言った。


「そうですね」


「引き返すしかないです」


私は、塞がれた道を見た。


自然に落ちた岩ではない気がした。


大きさと、落ちた場所が、あまりにも正確すぎた。


道の真ん中に、ちょうど通れなくなるくらいの大きさの岩が落ちていた。


「狙って落とした」と私は言った。


「竜が、か」とオルトが言った。


「たぶん」


「殺そうとしたのか」


「殺そうとしたなら、私たちの上に落とすはずです。道を塞いだ、ということは、来るな、という意思表示だと思います」


オルトが、塞がれた道を見た。


「追い払っているということか」


「そうだと思います。殺したいわけではなく、来てほしくない」


「なぜ来てほしくないんだ」


「分かりません。でも、理由があるはずです」


ミアが、記録帳を出した。濡れていたが、書き始めた。


「凪さん、今見えたこと、感じたことを教えてください。今、書きます」


「嵐は、明らかに人工的なものでした。自然の嵐とは動き方が違う。集まり方が速すぎる。それから、岩の落とし方が正確すぎる。殺意ではなく、阻止の意思を感じました」


「阻止の意思」


「来るなということです。でも、殺さない。ということは、来てほしくないが、私たちを傷つけるつもりもない」


「どういうことですか」


「守っているのかもしれない」


「何を」とオルトが言った。


「山の中に、何かあるんだと思います。竜が守っているもの」


オルトが、山の上の方を見た。


雷は、おさまっていた。


雨は、まだ降っていた。


「引き返そう」とオルトは言った。「今日は、ここまでだ」


「そうします」


下り始めながら、上を見た。


雲の間から、一瞬だけ、何かが見えた。


大きな翼だった。


翼が広がって、また雲に消えた。


「見ましたか」とミアが言った。


「見ました」


「竜、でしたか」


「そうだと思います」


「飛んでいきましたか」


「消えました。どこかに戻ったのかもしれない」


雨が、少し弱くなった。


道を、静かに下った。


麓に戻ったとき、また晴れていた。


まるで、何もなかったような天気だった。


「嵐が消えた」とオルトが言った。


「山の中腹より下には、来なかった嵐でした」とミアが言った。


「やっぱり、意図的なものだと思います」と私は言った。


「それで、どうする」とオルトが言った。


「今日は、分かったことを整理します。明日、また考えます」


「明日、また山に入るのか」


「入りません。別の方法を考えます」


「別の方法とは」


「分かりません。でも、正面から入るのは、今日で限界が見えました」


オルトが、山を見た。


「答えが見つかるか」


「分かりません。でも、考えます」


シロが、私の横を歩いた。


濡れていたが、疲れた様子ではなかった。


「シロ、ありがとう。支えてくれて」


シロが尻尾を振った。


当たり前だ、という顔だった。



宿に戻って、濡れた服を着替えた。


ミアが、記録帳を乾かしながら、書き続けていた。


「凪さん」とミアが言った。


「なんですか」


「今日、諦めずに進もうとしたとき、怖くなかったですか」


少し考えた。


「怖かったです」


「でも、進みました」


「竜が何をしているか、知りたかったので」


「知りたい気持ちが、怖さより強かったんですか」


「そうかもしれないです。あと、岩が落ちたのが、道の上だったから」


「道の上、というのが、重要だったんですか」


「殺すつもりなら、私たちの上に落とすはずです。道を塞いだ、ということは、私たちを傷つけたくないという意思だと思った。だから、危険が半分になった感じがしました」


ミアが、それを書いた。


「半分の危険、というのは」


「竜が敵意を持っていれば、完全な危険です。でも、傷つけたくないなら、こちらが無茶をしなければ、死ぬことはないと思いました」


「それで、怖さが半分になった」


「なりました」


ミアが、頷きながら書いた。


「凪さんの見方は、独特ですね」


「独特ですか」


「普通は、嵐が来て、岩が落ちてきたら、怖くて引き返します。凪さんは、岩の落とし方を分析して、危険を計算した」


「気になることが多かったので」


「竜が、何を守っているか、まだ気になっていますか」


「気になっています。むしろ、今日より気になっています」


「なぜ」


「守っているものがあるということは、竜に、何かを大切にしている理由がある。大切にしている理由があるということは、話が通じるかもしれない」


ミアが、それを書いた。


「話を通じさせる方法が、今日以外にあるということですか」


「あると思います。ただ、何かは、まだ分かりません」


「明日、考えますか」


「考えます。一晩かかるかもしれないですが」


ミアが、記録帳を閉じた。


「私も考えます。別の視点から、何か分かるかもしれない」


「ありがとうございます」


「記録係の仕事は、記録だけじゃないと思っています。考えることも、仕事だと思っています」


「カナさんと、同じようなことを言いますね」


「カナ先輩に、よく言われました。記録は、考えるためにあると」


「カナさんに、師匠がいるんですね」


「カナ先輩は、私の師匠です」


ミアが、少し笑った。


初めて見る、ミアの笑いだった。


それまで、ずっと真剣な顔をしていたから、笑うと印象が変わった。


「明日、一緒に考えましょう」と私は言った。


「はい」とミアは言った。


シロが、すでに丸くなっていた。


濡れた体が乾いたら、もう寝るつもりらしかった。


「お前は、早いな」


シロが片目を開けた。


それから、また閉じた。


今日は疲れたので、早く寝る。


そういう顔だった。



夜、眠れなかった。


竜のことを考えていた。


嵐を起こせる。岩を正確に落とせる。翼がある。大きい。


でも、殺さなかった。


道を塞いだ。


守っているものがある。


百年間、人を入れていない。


五年前に、山で地震があった。


その後、川が減った。


全部が、つながっているはずだった。


でも、つながり方が、まだ見えなかった。


「何を守っているんだろう」


シロが、寝ながら耳を動かした。


「お前も気になるか」


シロが、尻尾を少し振った。


気になる、という動きだった。


「明日、考えよう」


シロが動かなかった。


寝ろ、という感じだった。


「そうだな、まず寝よう」


目を閉じた。


でも、しばらく、竜のことが頭から離れなかった。


何を守っているのか。


なぜ、殺さないのか。


なぜ、百年前から人を入れていないのか。


それが分かれば、何かが動く気がした。

二十八話目、書きました。


起承転結の「承」です。山に入って、嵐に遭って、道を塞がれた。前進できなくなった場面です。ただ、凪は諦めていない。引き返したのは、限界ではなく、別の方法を考えるためです。


「岩の落とし方が正確すぎた」という凪の観察が、この話の核心です。殺そうとしているなら、私たちの上に落とす。道を塞いだのは、来るな、という意思表示。その観察から、竜が敵意ではなく、別の意図を持っていることに気づいた。


ミアというキャラクターが、この話で少し動き始めました。記録係だが、考えることも仕事だと言う。カナの弟子、という設定を入れることで、アルドとセルドのつながりも作りました。


「守っているものがある」という竜への謎が深まりました。次話で、その謎を解くための別の方法を探します。「転」に向けて、準備が整い始めます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ