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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


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第二十七話「セルドの王は、焦っていた」

二十七話目です。セルド編、本格的に始まります。


セルド編は、起承転結を意識した一つのアークとして書きます。今回は「承」の前段階、セルドの国に着いて、状況を詳しく知る話です。


王様が出てきます。焦っている王様です。焦りというのは、人を急がせます。急いだ判断が、必ずしも正しいとは限らない。それをどう扱うかが、このアークのテーマの一つです。


では、どうぞ。

セルドへの道は、五日かかった。


アルドより、ずっと遠かった。


山を一つ越えるルートだった。森を抜けて、平原を進んで、また山道に入った。


その山道の向こうに、別の大きな山があった。


「あれが、竜のいる山ですか」とミアに聞いた。


「そうです」とミアは言った。「セルドの北にある、ガロン山です」


遠くから見ても、その山は他の山と違って見えた。


雲が、頂上付近に常にかかっていた。


霧か、それとも別のものか、分からなかった。


シロが、その山を見て、少し耳を立てた。


「何か感じるか」


シロが動かなかった。


集中している顔だった。


「ただ事じゃない感じがするか」


シロが、小さく鳴いた。



セルドの都は、アルドの都より小さかった。


でも、活気はあった。


ただ、市場を歩くと、野菜の少なさが目立った。


果物も、種類が少なかった。


「収量が落ちている、というのは、本当ですね」と私はオルトに言った。


オルトが、案内しながら言った。


「五年前は、もっと品揃えが豊富だった」


「川の水が減ったのが、五年前」


「そうだ」


王宮に通された。


セルドの王宮は、アルドより質素だった。


豪華さより、機能性を優先したような造りだった。


「節約しているように見えます」


「水不足で、農業が落ち込んでいる。国の財政も、苦しい」とオルトは言った。



王の間に通された。


王は、四十代後半くらいの男だった。


顔に疲労が見えた。


王の名前は、ガレスといった。


私が入ると、ガレスが立ち上がった。


「お前が、転生者の凪か」


「そうです」


「オルトから、報告を受けている。アルドでの実績を聞いた」


「報告通りかどうかは、分からないですが、できることをやってきました」


「単刀直入に聞く」とガレスは言った。「川を、元に戻せるか」


私は少し考えた。


「分かりません。まず、原因を確認する必要があります」


「原因は、竜だ」


「竜が原因だと、確定しているんですか」


「五年前に、山で大きな地震があった。その後、川が減った。竜の縄張りで地震が起きた、ということは、竜が何かしたとしか考えられない」


「地震は、自然現象としても起きます。竜が原因とは限らないです」


ガレスが、少し苛立った顔をした。


「では、何が原因だと言うんだ」


「分かりません。山に入って、確認しないと」


「お前が確認できるのか」


「やってみます」


「いつできる」


「明日から向かいます。確認するのに、どのくらい時間がかかるかは、まだ分かりません」


ガレスが、少し机を叩いた。


「悠長なことを言っている時間はない。来年の収穫が、さらに落ちれば、国民が飢える」


「分かっています。だからこそ、急いで間違えるより、確実に進めたいです」


「確実に進めている時間が、ない」


ガレスの目が、少し血走っていた。


焦っていた。


それも、当然だった。国民の生活がかかっている。


「ガレス王」と私は言った。「焦る気持ちは分かります。でも、原因を間違えると、対処も間違えます。竜が原因ではなく、別の理由で水脈が変わっていたら、竜を倒しても川は戻りません」


「竜を倒す、という選択肢を、考えているのか」


「考えていません。竜が原因だと分かっても、まず話してみます。倒すのは、最後の選択肢です」


「話が通じる相手なのか、竜は」


「分かりません。だから、まず会ってみます」


「会えるのか。今まで誰も近づけなかった」


「私が近づけるかどうかも、分かりません。でも、試してみないと、何も始まりません」


ガレスが、しばらく黙った。


「お前は、私に確実な答えを与えてくれないのか」


「確実な答えは、まだ何も持っていません。でも、不確実なことを確実だと言うより、正直に分からないと言う方がいいと思っています」


ガレスが、私を見た。


「アルドの王は、お前のことを変わった転生者だと言っていた。理由が分かった」


「悪い意味ですか」


「分からない。だが、今までの誰よりも、正直だ」


「正直に言わないと、後で困ることが多いので」


ガレスが、少し息を吐いた。


「分かった。山に行け。だが、急いでくれ。冬が来る前に、何か分からなければ、来年の作付けに間に合わない」


「分かりました。できる限り急ぎます」



王の間を出てから、オルトが言った。


「ガレス王は、悪い人ではない」


「分かります。国民のことを、本当に心配しているように見えました」


「五年前から、ずっとこの問題と向き合っている。最初は、誰もが楽観視していた。一時的な渇水だと思っていた。三年目あたりから、長期化すると分かって、焦りが出てきた」


「無理もないです」


「お前が、答えを急がせる王に、あんなに正直に言うとは思わなかった」


「正直に言うしかなかったので」


「気に入った、と言っていた」


「焦らせてしまったかもしれないですが」


「焦りは、もとからあった。お前が、その焦りに、少し冷静さを混ぜてくれた」



その夜、宿に戻ってから、ミアが記録帳を持ってきた。


「凪さん、明日からの計画を、整理させてください」


「分かりました」


「山に向かうルートは、いくつかあります。一番安全なのは、東側からの迂回路ですが、時間がかかります。北からの直行路は、最短ですが、過去に嵐に遭った報告が多い場所です」


「直行路で行きます」


「危険です」


「時間が惜しいです。ガレス王が言っていたように、冬が来る前に分かることが大事です」


ミアが、少し心配そうな顔をした。


「私も同行します」


「危険な場所です」


「凪さんが、何を見て、何に気づくか、記録するのが私の仕事です。危険でも、行きます」


私は、少し考えた。


「分かりました。一緒に来てください。ただ、危険を感じたら、すぐに引き返してください」


「分かりました」


オルトも、横で聞いていた。


「私も行く」


「オルトさんも」


「セルドの代表として、行く必要がある。それに、お前一人とミアだけで行かせるわけにはいかない」


シロが、私の足元で寝ていた。


「シロも来ます」


「四人と一頭か」とオルトは言った。


「五人と数えてもいいです」とミアが言った。


シロが、少し顔を上げた。


それから、また寝た。


四人でも五人でも、どちらでもいい、という顔だった。



部屋に戻って、地図を見た。


ガロン山の地図だった。


セルドの記録に残っている、かなり古い地図だった。


百年以上前の、竜が現れる前の地図らしかった。


その地図に、川の流れが描かれていた。


今の川とは、少し違う流れだった。


「百年前の地図と、今の川を比べてみたい」


ミアが、最新の地図を持ってきてくれた。


二つを並べて見た。


確かに、川の流れが変わっていた。


特に、山の中腹あたりから、流れの形が違った。


「ここで、何か起きたんだと思います」


「五年前の地震ですか」


「地震だけじゃないかもしれない。もっと前から、少しずつ変わっていた可能性もあります」


「もっと前から」


「百年の間、何回も変化があったかもしれない。それが、五年前に大きく動いた」


「竜が、何かしたということですか」


「分かりません。竜が原因か、自然現象か、それとも別の何かか」


シロが、私の足元で起き上がった。


地図を見るように、首を傾けた。


「お前にも、何か感じるか」


シロが、小さく鳴いた。


何か感じている、という様子だった。


「明日、確かめに行こう」


シロが尻尾を振った。


窓の外を見た。


夜空に、ガロン山のシルエットが見えた。


雲が、頂上にかかっていた。


その向こうに、何があるのか。


竜が、何を考えているのか。


明日、向かう。


気になることが、また一つ、目の前にあった。

二十七話目、書きました。セルド編の本格的な始まりです。


ガレス王を、悪人として描かないように気をつけました。焦っている人は、必ずしも悪い人ではない。国民の生活がかかっていれば、焦るのは自然なことです。凪が、その焦りに対して、正直に「分からない」と言える強さを持っていることが、この場面の核心でした。


「不確実なことを確実だと言うより、正直に分からないと言う方がいい」という凪の姿勢は、第一部から一貫しているものですが、王という権力者相手でも変わらないことを、改めて示したかった場面です。


古い地図と新しい地図を比較する場面は、次話以降への伏線です。竜が本当に原因なのか、それとも別の何かがあるのか。


次話から、実際に山に向かいます。起承転結でいう「承」が進みます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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