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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


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第二十六話「二か月で、集落は変わっていた」

二十六話目です。


セルドからの使いが来るまでの二か月間の話です。凪とルナとガルが、集落のために動き続けた時間。


第二部の最初のアークは「竜のいる山」ですが、その前に、この集落がどこまで来たかを確認する話が必要でした。去る前に、ちゃんと見ておきたかった。


では、どうぞ。

オルトが来てから、二か月が経った。


その間、凪は集落を離れなかった。


毎日、木に触った。土に触った。水の流れを確認した。ルナと一緒に歩いた。ガルと夜に話した。


小さなことを、毎日続けた。


その積み重ねが、二か月で形になった。



ある朝、集落の南の外れを歩いていたとき、気づいた。


「ルナ、ここ、前と違います」


「どこが」とルナが言った。


「土の色が、濃くなっている」


「濃くなると、いいの」


「土の色が濃いのは、有機物が増えた証拠です。腐葉土が積み重なって、土が豊かになってきている」


ルナが、土に手を当てた。


「柔らかい」


「来たときとは、全然違います」


「どのくらい違う」


「来たとき、ここの土は固くて、乾いていた。指で押しても、ほとんど入らなかった。今は、三センチくらい入る」


ルナが、指を土に押し込んだ。


「本当だ。入る」


「入れば入るほど、良い土です。良い土には、生き物が住める。生き物が住めば、さらに良くなる」


「自分で良くなっていくんだね」


「そうです。最初のきっかけを作れば、あとは自然が動く」


ルナが、土から指を抜いた。


土が、指に少しついていた。


「これ、顔に塗っていい?」


「塗らなくていいです」


「なんで。良い土なんでしょ」


「良い土ですが、顔に塗るものじゃないです」


「ルナが見た絵本に、土を顔に塗る人が出てきた」


「どんな絵本ですか」


「神様が土を顔に塗って力を得る話」


「その神様は、特別な存在だと思います」


ルナが、少し考えた。


「じゃあ、ナギには効果ある?」


「私も普通の人間なので、たぶん効果ないです」


「たぶん、って言った。つまり、可能性はある」


「極めて低い可能性は、あります」


ルナが、少し悩んだ顔をした。


「やっぱりやめとく。ガルじいちゃんに怒られそうだから」


「正しい判断です」



昼過ぎ、北の池に行った。


一人で行った。


池は、来たときとは別の場所のように見えた。


水が、完全に透き通っていた。


底の砂まで、はっきり見えた。


水草が豊かで、魚が何種類か泳いでいた。


精霊が、水面近くで光っていた。


「ずいぶん元気になったな」


精霊が水面を叩いた。


「もうすぐ、ここを離れるかもしれない」


精霊が動きを止めた。


「セルドという国に行く予定です。竜がいる山の近くの国で、川が減っているらしい」


精霊が、ゆっくり水の中を動いた。


「ルナが、毎日来るから、大丈夫だと思います」


精霊が、また水面を叩いた。


知ってる、という感じだった。


「この池が、ずっとこうでいられるといいな」


精霊が、光を強くした。


大丈夫だ、という感じだった。


「ありがとう」



夕方、ガルと集落の記録を確認した。


ガルが、カナの影響で、集落の状態を記録するようになっていた。


土の色、木の葉の状態、水の流れ、池の水位。毎日少しずつ書いていた。


「二か月分の記録、見てもいいですか」


「どうぞ」


受け取って、読んだ。


丁寧な字で、毎日書いてあった。


日付ごとに、変化が書いてあった。


八月の記録は、土が固い、葉の色が薄い、池の水位が低め、という記録が多かった。


九月になると、土が少し柔らかくなった、葉の色が濃くなってきた、池が透明になった、という記録に変わっていた。


十月には、植物が増えた、ラグル族が集落の近くに常時いるようになった、精霊が毎日顔を見せるようになった、という記録があった。


「ガルさん、ちゃんと記録してくれていたんですね」


「カナさんの言葉が、印象に残りました。言葉は消えるが、記録は残る、という言葉です」


「ベルクさんの言葉ですね」


「そうでしたか。カナさんが話してくれたので、カナさんの言葉だと思っていました」


「広まっているんですね」


「良い言葉は、広まります」とガルは静かに言った。


私は、その記録を最初から最後まで読んだ。


数字はなかったが、流れが分かった。


来たときが十だとすれば、今は十八か十九くらいになっていた。


「もう少しで、自分で回ります」


「もう少し、というのは」


「あと少し、植物が増えれば、生き物が増える。生き物が増えれば、土がさらに豊かになる。そこまで行けば、私がいなくても循環が続きます」


「二十に、近づいていると」


「近づいています」


ガルが、記録帳を見た。


「凪様が来て、三か月で、ここまで来たんですね」


「ガルさんが記録して、ルナが続けて、精霊が元気になって、みんながやったからです」


「凪様が始めなければ、何も起きませんでした」


「きっかけを作っただけです」


ガルが、また笑った。


「その言葉、何回聞いたか分かりません」


「本当のことなので」


「分かっています。でも、その言葉を聞くたびに、凪様らしいと思います」



夜、ルナが来た。


珍しく、真剣な顔をしていた。


「ナギ、聞いていい」


「なんですか」


「私、ナギがいなくなったら、ちゃんと続けられるかな」


「続けられます」


「根拠は」


「ナギがいない間も、続けていたから」


「あれは、ナギが帰ってくると分かってたから、続けられた。今度は、いつ帰ってくるか分からない」


「そうですね」


「分からないのに、続けられるか、自信がない」


私は少し考えた。


「ルナ、今日、土に指を押し込みましたね」


「押した」


「あの感触、覚えてますか」


「覚えてる。柔らかかった」


「来たとき、あの場所の土は固かった。三か月で、柔らかくなった。誰が変えたと思いますか」


ルナが少し考えた。


「自然が変えた」


「自然が変わるきっかけを、誰が作りましたか」


「ナギが、最初に」


「最初だけです。その後は」


「私が、毎日歩いた」


「毎日歩いたことで、変わった。私がいない間も、変わり続けた。それが証拠です」


「証拠」


「ルナが続けたから、土が変わった。ルナがいなければ、変わっていなかった。続けられる人だという、証拠です」


ルナが、少し黙った。


「でも、新しい問題が出たとき、どうすればいいか分からないかもしれない」


「そうかもしれないです」


「そうかもしれない、で大丈夫なの」


「全部分かる必要はないです。分からないことは、ガルさんに相談すればいい。それでも分からないことは、記録しておけばいい。私が帰ってきたとき、一緒に考えられます」


「一緒に考える」


「そのための記録です」


ルナが、少し考えた。


「ガルじいちゃんと、二人でできるかな」


「できると思います。二人で、できないことは、カナさんに手紙を出せばいい。カナさんは、来てくれると思います」


「カナさんに頼んでいいの」


「カナさんは、記録が目的です。問題があれば、むしろ来たがると思います」


ルナが、少しほっとした顔をした。


「一人じゃないんだね」


「一人じゃないです」


「ナギも、一人じゃなかったんだよね。シロがいて、ガルじいちゃんがいて、私がいて」


「そうです」


「じゃあ、私もそうだ」


「そうです」


ルナが、少し笑った。


「なんか、解決した」


「よかった」


「ナギって、話し方が遠回りだけど、最終的にはちゃんと解決する」


「遠回りですか」


「遠回り。でも、それが好きだよ」


「ありがとうございます」



その夜遅く、シロが外を向いた。


「また誰か来ますか」


シロが、少し尻尾を振った。


朝になれば分かる、という感じだった。


翌朝、ラグル族が知らせに来た。


東の端に、見知らぬ人間が来ている、と。


出てみると、ミアだった。


オルトの記録係だった女性。


「二か月です」とミアは言った。「オルトが、迎えを出すように言いました」


「もう二か月経ちましたか」


「経ちました」


「分かりました。準備します」


「いつ出発できますか」


「明日の朝でいいですか。今日は、集落の状態を最後に確認してから、出たいので」


「分かりました。明日の朝、ここで待ちます」



集落に戻って、ガルとルナに話した。


「明日、出発します」


ガルが、静かに頷いた。


「分かりました」


ルナが、少し固まった。


「明日」


「そうです」


「早い」


「二か月経ちました」


ルナが、何か言いたそうにした。でも、何も言わなかった。


「ルナ」


「なに」


「竜がいる山に行く前に、ここの状態を確認してほしい。毎日、記録を続けてください」


「続ける」


「ガルさんも、一緒に見ていてください」


「分かりました」とガルは言った。


「カナさんへの手紙は、書いておきます。問題があれば、連絡するように伝えます」


「書いてください」


「シロは一緒に行くので、クロとキョロを頼みます」


「任せてください」とガルは言った。


ルナが、また何か言いたそうにした。


「ルナ、言いたいことがあれば、言っていいですよ」


ルナが、少し口を開いた。


「帰ってきて」


「帰ります」


「竜に食べられないで」


「食べられないようにします」


「約束」


「します」


ルナが、頷いた。


「よし」と小さく言った。


涙は出なかった。


でも、目が少し光っていた。



夜、最後に集落を歩いた。


一本一本、木に触れた。


全部、状態を確認した。


悪い木は、一本もなかった。


全部が、来たときより元気だった。


最後に、北の池に寄った。


精霊が、水面に出てきた。


「明日、行きます」


精霊が水面を叩いた。


「ルナが来るから、大丈夫」


また叩いた。


「帰ってきたら、また来ます」


精霊が、光を強くした。


池の水面が、星を映していた。


きれいだった。


この景色が、来たときはなかった。


濁っていた池が、今は透き通って、星を映している。


三か月で、ここまで来た。


「十分だな」


シロが横にいた。


「明日から、また違う場所だ」


シロが尻尾を振った。


「竜に、会えるかな」


シロが耳を動かした。


分からないが、行ってみる、という顔だった。


「そうだな。行ってみないと、分からない」


風が吹いた。


落ち葉が、池に舞い落ちた。


池の水面が、少し揺れた。


精霊が、落ち葉の周りをくるくると回った。


遊んでいるような動きだった。


最後に、そういう景色を見られてよかった、と思った。


明日から、また動く。


それが、凪のやり方だった。

二十六話目、書きました。


二か月の積み重ねを、この一話で見せる構成にしました。土の色が変わったこと、記録が二か月分溜まっていたこと、精霊が毎日顔を見せるようになったこと。小さな変化が、積み重なった姿です。


ルナの「続けられるか、自信がない」という場面は、第二部に入ってからのルナの変化を表しています。第一部では、感情を素直に出すだけでしたが、第二部では、先のことを不安に思う複雑さが出てきました。成長の証でもあります。


「一人じゃない」という結論を、遠回りに出した凪。ルナに「遠回りだけど、好きだよ」と言われた場面は、この二人の関係を表す場面でした。


明日から、セルド編が始まります。竜のいる山に向かう旅が、どうなるか。次話からは、起承転結のある展開を意識して書きます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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