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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


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18/24

第四十二話「岩が動いた日、マリアが泣いた理由」

四十二話目です。起承転結の「転」に入ります。


岩を動かす作業が始まります。でも、この話で一番大事なのは、岩が動いたことではありません。岩が動いた後に、マリアが言った一言です。


凪が、自分の力の使い方について、一つ大切なことを学ぶ話でもあります。


では、どうぞ。

翌朝、また山に向かった。


今回は、ベルクが都の作業員を二人連れてきた。


「人手が必要だろう」とベルクが言った。


「ありがとうございます。助かります」


作業員の二人は、若い男性だった。


一人はノルといった。背が高くて、腕が太かった。


もう一人はケイといった。小柄だったが、動きが速そうだった。


「よろしくお願いします」と私は言った。


「よろしくお願いします」とノルが言った。


「よろしくお願いします」とケイが言った。


二人とも、シロを見て、少し驚いた。


「ラグル族ですか」とノルが言った。


「そうです。シロといいます」


「大きいですね」


「そうですね」


シロが尻尾を振った。



マリアが、沢で待っていた。


私たちを見て、少し目を細めた。


「また来た」


「来ました。今日から、岩を動かします」


「何人いる」


「七人と一頭です」


「多いな」


「力が必要なので」


マリアが、岩を見た。


「何日かかると思う」


「分かりません。やってみないと」


「そうだな。やってみないと、分からん」


マリアが、小屋に戻ろうとした。


「マリアさん、見ていてもらえますか」と私は言った。


「なぜ」


「岩の状態を、一番よく知っているのはマリアさんだと思います。何かおかしいことがあれば、教えてほしいです」


マリアが、少し考えた。


「分かった。見ている」



最初の岩は、三つのうち一番小さかった。


でも、十分に大きかった。


三人では動かせない大きさだった。


私が、岩に手を当てた。


力を送り込んだ。


昨日の確認で、岩の重心と、どの方向に動かしやすいかを感じていた。


その情報を使って、最初に岩をわずかに動かした。


「今、内側から少し動きました」と私は言った。「ノルさんとケイさんは、右側を押してください。ベルクさんは、左の支点を固定してください」


「分かった」とノルが言った。


「支点を固定、というのは」とベルクが言った。


「岩が変な方向に転がらないように、ここを押さえていてください」


「分かった」


「カナさんとミアさんは、後ろから一緒に押してください。一気にではなく、ゆっくりと」


「分かりました」とカナが言った。


全員が位置についた。


「せーので、お願いします。せー」


「の」と全員が合わせた。


岩が、ほんの少し動いた。


「もう一度。せー」


「の」


また、動いた。


「もう一度。今度は少し大きく動かします。せー」


「の」


岩が、がくりと動いた。


大きく動いた。


沢の流れが塞がれていた部分が、少し開いた。


水が、少し多く流れ始めた。


「一つ、動きました」


全員が、岩を見た。


ノルが、手を見た。


「動いた」と言った。驚いた声だった。


「動きましたね」


「こんな岩が、動くとは思わなかった」


「七人でやったから、動きました。一人では無理でした」


マリアが、沢に近づいた。


水の流れを見た。


「増えた」とマリアは言った。


「そうです。でも、まだ二つあります」


「続けてくれ」



二つ目の岩は、最初より大きかった。


時間がかかった。


三回動かした後、また動かなくなった。


「詰まっています」と私は言った。


「どういう意味だ」とベルクが言った。


「岩の下に、別の石が引っかかっています。上の岩を動かすより先に、下の石を取り除いた方がいいです」


「どこにある」


「ここです」


地面を指さした。


ケイが、その場所を掘り始めた。


手で掘った。


小さな石が、出てきた。


「これですか」


「そうです。それを取ってみてください」


石を取り除いた。


「もう一度、やってみます。せー」


「の」


岩が、ずるりと動いた。


前より、大きく動いた。


水が、また増えた。


「二つ、動きました」


全員が、少し息を吐いた。


疲れていた。


ベルクが、地面に膝をついた。


「少し休もう」とベルクは言った。


「そうですね」


「お前は、疲れていないのか」


「疲れています。でも、もう少しやれます」


「無理をするな」


「無理はしていないです。力の残量が分かるので」


「力の残量」


「今日使った力の量と、残っている量が、感覚で分かります。今日は、まだ三割くらい残っています」


「三割残っているから、三つ目もできるということか」


「できますが、三つ目が一番大きいので、全員が必要です」


「休んでから、やろう」


「そうしましょう」



昼食は、マリアが用意してくれた。


山菜の汁と、硬いパンだった。


「ありがとうございます」と私は言った。


「ここにあるもので作った。山には、食べ物がある」


「マリアさんは、ずっとここで食べ物を作ってきたんですね」


「そうだ。沢の近くには、山菜が多い。水があるから、育ちやすい」


「水があると、食べ物が育つ」


「当たり前のことだ」とマリアは言った。「水がないと、何も育たない。だから、水を守ることが大事なんだ」


「都の人たちは、それを分かっていなかったかもしれないですね」


「分かっていなかった。蛇口をひねれば水が出ると思っていた。水がどこから来るか、考えなかった」


「今は、考えている人が増えてきました」


「そうか」とマリアは言った。「増えてきた、というのは、良い言い方だ。全員が考えているとは言わないが、増えてきた」


「増えれば、また増える。増えていくものは、続きます」


マリアが、私を見た。


「お前、どこから来た」


「別の世界から、転生してきました」


「別の世界にも、水の問題があったか」


「ありました。あります。今も」


「直せたのか」


「直せていないです。でも、分かっている人は増えていました」


「分かっている人が増えれば、動く人が増える。動く人が増えれば、変わる」


「そうだと思っています」


マリアが、汁を一口飲んだ。


「お前みたいな人間が、向こうの世界にもいればよかった」


「いると思います。ただ、届いていないだけかもしれないです」


「届けようとしているか」


「届けようとしている人が、いると思います」


「なら、いつか届く」とマリアは言った。



食事の後、三つ目の岩に取り掛かった。


一番大きかった。


私が力を送り込んだ。


今まで使った中で、一番大きな力を使った。


それでも、岩は少ししか動かなかった。


「押してください」


全員が押した。


動かなかった。


「もう一度」


また押した。


少し動いた。


「この方向に、動こうとしています。この方向を全員で押してください」


「せー」


「の」


岩が、少し動いた。


「もう一度。せー」


「の」


また動いた。


「せー」


「の」


「せー」


「の」


五回目のとき、岩が大きく動いた。


どんという音がした。


水が、一気に流れ始めた。


今まで聞いていた沢の音より、ずっと大きな音がした。


全員が、立ち止まった。


水の音だけが、響いていた。


「全部、動きました」


誰も、すぐには言葉が出なかった。


水が、勢いよく流れていた。


八十年間、塞がれていた水が、解放されたように流れていた。


ノルが、「すごい」と言った。


ケイが、水に手を入れた。


「冷たい。でも、きれい」


カナが、記録帳に書き始めた。


ミアも書いていた。


ベルクが、水を見ていた。


何も言わなかった。


ただ、見ていた。


私は、マリアを見た。


マリアが、沢のそばに立っていた。


水を見ていた。


泣いていた。


声は出ていなかった。


でも、泣いていた。


「マリアさん」と私は言った。


マリアが、振り返らなかった。


しばらく、沢を見ていた。


それから、振り返った。


「父が、ここで見ていた水だ」とマリアは言った。「父と一緒に、この水を見ていた。地震で岩が落ちてから、この水が見られなくなった。今日、また見た」


「良かったです」


「良かった」とマリアは言った。「本当に、良かった」


またしばらく、沢を見た。


「父は、いつか水が戻ると言っていた。都の人間が、また来てくれると言っていた。来なかった。父は、待ちながら死んだ」


「そうだったんですね」


「私も、来てくれると思っていた。来なかった。でも、今日、来た」


「来るのが、遅れて申し訳なかったです」


「謝らなくていい」とマリアは言った。「来てくれただけで、十分だ。父が待っていたものが、今日、来た。それだけで、十分だ」


ベルクが、マリアに歩み寄った。


「都の名前で、謝らせてほしい」とベルクは言った。


「謝らなくていいと言った」


「それでも、言わせてほしい。八十年間、ここにいてくれてありがとう。水を守ってくれてありがとう。記録するのが遅れたことを、申し訳なく思っている」


マリアが、ベルクを見た。


しばらく、見ていた。


それから、短く言った。


「次は、遅れるな」


「遅れない」とベルクは言った。



帰り道、一人で少し後ろを歩いた。


今日使った力が、予想より多かった。


三つ目の岩は、本当に大きかった。


力の残量が、ほとんどなかった。


疲れていた。


でも、不思議と気持ちよかった。


シロが、私の横にいた。


「疲れました」


シロが尻尾を振った。


「でも、良かったです」


また振った。


「マリアさんが泣いていた」


シロが耳を動かした。


「八十年間、水が戻るのを待っていた。それが、今日戻った。父が待っていたものが、来た。そういうことでした」


シロが、静かに歩いた。


「私の力で、水が戻ったわけではないです。七人と一頭が、一緒に岩を動かした。それで、水が戻った。力だけでは、無理でした」


シロが、少し顔を向けた。


「あと、もう一つ分かったことがあります」


シロが聞いていた。


「水路を直しても、水源がなければ意味がないと思っていました。だから、まず沢の岩を動かした。それは正しかったです」


シロが歩き続けた。


「でも、岩を動かしても、水路が直っていなければ、農地まで届かない。順番がある。根本を直して、次に伝える道を直して、最後に届く場所が整う」


シロが尻尾を振った。


「一つ直せば終わりじゃなかった。全部がつながっているから、全部が整わないと、最後まで届かない」


シロが、耳を動かした。


「まだ、仕事があります」


また振った。


「分かってますね」


シロが、前を向いた。


先に歩いた。


先に行って待っている、という感じだった。


「急がなくていいですよ」


シロが振り返らなかった。


急ぐわけではなかった。


ただ、前を向いていた。


その背中を見ながら、歩いた。


春の山道を、下った。


水の音が、後ろから聞こえた。


沢が、また流れていた。


八十年ぶりに、本来の量で流れていた。


その音が、山を下りる間中、聞こえていた。

四十二話目、書きました。


マリアが泣いた理由は、単純に水が戻ったことではありませんでした。父が待っていたものが来た、ということでした。百年以上の時間をかけた、世代をまたいだ待ちが、今日終わった。デルがセルドで「じいさんの話が役に立った」と言ったのと、構造が似ています。亡くなった人が残したものが、時間を越えて意味を持つ。


「次は、遅れるな」というマリアの一言。謝罪への返し方として、これが一番重かったと思います。過去を責めるのではなく、未来への約束を求めた。


凪が「全部がつながっているから、全部が整わないと最後まで届かない」と気づいた場面。岩を動かすことと、水路を直すことは、どちらも必要で、順番がある。魔王の力で一か所直せば終わりではない。この気づきが、このアークのテーマと重なります。


次話は「結」です。水路の修復が始まります。そして、都の農地に変化が起き始める。でも、その変化には時間がかかる、という現実も出てきます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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