表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/24

第三十六話「冬が来て、初めて気づくことがあった」

三十六話目です。


季節が変わる話です。凪が転生してから、初めての冬です。


冬の自然は、夏や秋とは違うものを見せます。枯れているように見えて、枯れていない。眠っているように見えて、準備している。冬にしか分からないことがある。


そして、冬は人の心にも、何かを見せることがある。


では、どうぞ。

十一月に入った。


朝、霜が降りた。


初めて見た。


草の上に、白い結晶が積もっていた。


触ると、冷たくて、溶けた。


「きれいだな」


シロが、霜の上を歩いた。


足跡がついた。


また歩いた。


足跡が並んだ。


「楽しんでいるのか」


シロが振り返った。


楽しんでいる、という顔だった。



ルナが、外に出てきた。


息が、白かった。


「寒い」とルナは言った。


「そうですね」


「でも、きれい」


「霜ですね」


「霜か。知ってるよ、名前は。でも、今年は特にきれいに見える」


「なぜですか」


「草が元気だから、霜が映えるんだと思う」


「なるほど」


ルナが、霜の降りた草を触った。


「ナギ、冬の間、木はどうなるの」


「眠ります」


「眠る」


「冬の間は、成長が止まります。でも、死んでいるわけじゃないです。春になると、また動き始める」


「根は生きてるの」


「生きています。根は、冬の間も、地下でゆっくり動いています」


「地下で、何してるの」


「水を蓄えたり、土の栄養を少しずつ吸ったり。表には見えないですが、準備しています」


「春の準備を、冬の間にしてるんだね」


「そうです」


ルナが、木を見た。


葉が落ちていた。


裸になった枝が、空に向かって伸びていた。


「なんか、寂しそう」


「そう見えますね」


「でも、死んでいないんだよね」


「死んでいないです。春になれば、また葉が出ます」


「じゃあ、寂しそうに見えるだけで、本当は違う」


「そうです」


ルナが、裸の枝を見ていた。


「見た目で判断しちゃいけないんだね」


「そういうことが、多いですね」


「竜も、そうだった」とルナは言った。「嵐を起こして怖そうだったけど、本当は泣いていた」


「ルナが、竜のことを覚えていてくれているんですね」


「ナギが話してくれたから」


「そうでしたね」


「冬の木と、竜は、似てる」とルナは言った。「外から見たら、違うけど、中は違う」


「そうですね。外だけ見ていると、本当のことが分からないことがある」



冬になって、やることが変わった。


夏や秋は、水を流すこと、土を柔らかくすることが多かった。


冬は、守ることが増えた。


根を守る。


土が凍らないように、落ち葉を積む。


水が凍らないように、流れを確認する。


「冬は、直すより守る季節ですね」とルナが言った。


一緒に落ち葉を積みながら、私は答えた。


「そうです。季節によって、やることが変わります」


「夏は増やして、秋は整えて、冬は守って、春は始める」


「上手いまとめ方ですね」


「ガルじいちゃんに話したら、記録に書いてくれた」


「記録されたんですか」


「うん。ルナの観察、って書いてくれた」


「良いですね」


ルナが、落ち葉を積んだ。


「冬に、植物に何かあったら、どうすればいいの」


「どういうことですか」


「例えば、凍ったり、枯れたりしたら」


「凍った場合は、急に温めると逆に傷つくことがあります。ゆっくり、自然に解かせることが大事です」


「何もしないの」


「何もしないことが、正解なことがあります。急いで直そうとすると、余計に傷つけることがある」


「それは難しいな」とルナは言った。「何かしたくなるじゃないか」


「そうですね。何もしない、は、意外と難しいです」


「ナギは、何もしないができる?」


「難しいですが、できることと、できないことを区別するようにしています」


「どうやって区別するの」


「触ってみて、私が手を入れることで良くなるか、それとも自然に任せた方がいいか、感じ取ります」


「感じ取れないときは」


「感じ取れないときは、しばらく待ちます。待って、様子を見てから、判断します」


「待つのも、難しいな」とルナは言った。


「難しいですね。でも、大事です」


ルナが、落ち葉を積み続けた。


「私、まだ感じ取れないことが多い」


「そうですか」


「うん。触ってみて、分かるときと、分からないときがある」


「それで十分です」


「十分?」


「全部感じ取れなくていいです。分かることが少しずつ増えていけば、十分です」


「少しずつ」


「そうです。最初から全部分かる人は、いないです」


ルナが、少し安心した顔をした。


「じゃあ、私も、少しずつでいい」


「少しずつで、十分です」



冬のある夜、ガルが言った。


「凪様、最近、何か気になることが出てきましたか」


「なぜですか」


「少し、遠くを見ていることが増えた気がしたので」


「そうですか」


「気のせいかもしれませんが」


少し考えた。


「気になることが、少し出てきているかもしれないです」


「どんなことですか」


「ベルクさんから、手紙が来ました」


「いつですか」


「セルドから帰ってきてすぐに。ゆっくり読もうと思っていて、まだちゃんと読んでいなかったです」


「どんな内容でしたか」


「都の方で、少し問題が出てきているそうです。カナさんが進めていた農地の改善が、一部でうまくいっていないと」


「原因が分かっていますか」


「ベルクさんの手紙には、土の中に何か問題がある可能性があると書いてありました。感じ取れる人間に見てほしいと」


「凪様のことですね」


「そうだと思います」


ガルが、静かに聞いていた。


「行きますか」


「春になったら、一度行こうかと思っています。冬の間は、ここにいます」


「冬の間は、ここにいてくれる」


「そうです。冬の森を、初めて経験するので。学びたいことがあります」


ガルが、少し笑った。


「凪様は、学びたいことが尽きないんですね」


「尽きないですね」


「それは、良いことだと思います」


「そうですか」


「何かを学ぼうとしている人は、止まっていない。止まっていない人は、続けていける」


「ガルさんも、続けていますね」


「私も、まだ学んでいます。凪様から学んだことで、まだ理解できていないことがたくさんあります」


「私の方が、ガルさんから学んでいます」


「どちらも、本当ですね」とガルは言った。


「そうですね」と私も言った。



冬の夜は、長かった。


夕方の五時には暗くなって、朝の七時まで明けなかった。


その長い夜の間、色々なことを考えた。


ベルクの手紙のこと。


セルドの川のこと。


竜の卵のこと。


山の東側の斜面のこと。


レナが続けていること。


デルが窓から山を見ていること。


全部が、頭の中にあった。


「気になることが、多いな」


シロが隣で寝ていた。


片耳だけ動かした。


「全部、気になっています」


また、耳が動いた。


「全部には行けないけれど、できる限りは行く」


シロが尻尾を振った。


「春になったら、アルドに行く。それから、山に寄れれば寄る。それで、また戻ってくる」


シロが、完全に起き上がった。


起きている気満々だった。


「今、決めなくていいぞ。まだ冬です」


シロが、私を見た。


でも起きた、という顔だった。


「分かりました、一緒に考えよう」


シロが、横に座った。


二人で、夜の中を考えた。


考えながら、いつか眠った。



翌朝、初雪が降った。


薄く、白く、地面を覆った。


ルナが、外に出て、雪を踏んだ。


「サクサクする」とルナが言った。


「霜とは、違いますね」


「違う。雪の方が、もっと音がする」


「そうですね」


クロとキョロが、雪の上を走った。


初めての雪に、戸惑いながらも走っていた。


「クロとキョロ、雪知らなかったんだね」とルナが言った。


「初めての雪ですからね」


「私も、毎年雪は降るけど、今年は違って見える」


「なぜですか」


「集落が変わったから。白い雪が、きれいな集落の上に積もっているから、きれいさが倍になる感じ」


「きれいさが倍になる」


「うん。前は、なんか、汚れた感じの雪だったんだよね。なんでか分からないけど」


「土が乾いていると、雪解けのとき、土埃が混ざることがあります。土が良くなると、雪の白さが保たれやすいです」


「それか」とルナは言った。「だから、きれいに見える」


「そうかもしれないです」


ルナが、雪の上を歩いた。


足跡がついた。


シロの足跡と、ルナの足跡と、私の足跡が、集落の周りに広がった。


「足跡、三種類だね」とルナが言った。


「そうですね」


「シロは四本だから、模様が違う」


「そうですね」


「ナギの足跡は、一番大きい」


「そうですね」


「でも、歩幅はシロの方が大きい」


「そうですね」


ルナが、足跡を見た。


「この足跡、春になったら消える」


「そうです」


「でも、集落は消えない」


「そうです」


「足跡は消えるけど、足跡がついた場所は残る。そこを歩いた、という事実は残る」


少し驚いた。


「そうですね」


「だから、ナギがここを歩いた事実は、ナギがいなくなっても残る」


「ルナ、それは」


「記録と同じだよね」とルナは言った。「ガルじいちゃんが記録に残すのと同じで、足跡も、歩いた証拠だよね」


「そうですね」


「だから、ナギがいなくなっても、ここを歩いた事実は消えない」


「そうです」


「少し、いいな、と思った」とルナは言った。静かに言った。「ナギがいなくなることを、受け入れる練習、今してる」


「ガルさんから、話しましたか」


「話してない。でも、なんとなく分かった。二十になった意味が」


「そうですか」


「分かりたくなかったけど、分かった。でも、足跡のことを考えたら、少しいいと思った」


「良かったです」


ルナが、また歩いた。


雪の上に、足跡をつけながら歩いた。


わざと、いつもより大きく歩いた。


「足跡、大きくしてる」とルナは言った。


「そうですね」


「なるべく大きく残したい。ナギの隣を歩いた証拠を」


「残りますよ」


「うん」とルナは言った。「残る」


雪が、また少し降ってきた。


空から、静かに落ちてきた。


集落が、白くなっていった。


それでも、木の幹は黒く、葉のない枝が空に向かっていた。


根は、地下で生きていた。


春になれば、また動き出す。


冬は、終わりではなかった。


準備だった。


「きれいだな」と私は言った。


「うん」とルナは言った。


二人で、雪の中に立っていた。

三十六話目、書きました。


「冬の木と竜は似ている」というルナの言葉が、この話で一番気に入っています。外から見たら怖そうでも、中は違う。見た目で判断してはいけない。これは第三十一話の竜との出会いが、ルナの言葉として実を結んだ場面です。凪が経験したことを話してくれたことで、ルナの思想に新しい見方が加わった。


「足跡の話」は、この話を書き始める前には計画していなかった場面です。雪の描写を書いていたら、自然に出てきました。足跡は消えるが、歩いた事実は残る。それが記録と同じだという気づきが、ルナの中で「ナギがいなくなることの受け入れ」につながった。子どもが自分で気づいた形で、納得した場面でした。


「何もしないことが、正解なことがある」という凪の言葉も、冬の場面として書きたかったことでした。直す季節と守る季節、始める季節と眠る季節がある。全部が、やることではない。待つことも、やることのうちです。


次話では、冬の終わりと春の準備が見えてきます。そして、ベルクへの返事を書く場面が入る予定です。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ