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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第二部  作者: マスター


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11/22

第三十五話「集落が、二十になっていた」

三十五話目です。


凪が帰ってきて、集落の状態を確認する話です。出発前に十八か十九と言っていた数字が、どこまで来ているか。


数字は、感覚を共有するためのものです。正確な科学的指標ではありません。でも、方向を示すには十分です。今日は、その数字が一つの目標に届く話です。


では、どうぞ。

翌朝、早くから集落の周りを歩いた。


一か月ぶりだった。


一本一本、木に触れた。


土を触った。


水の流れを確認した。


ルナが、隣についてきた。


「どう?」とルナが聞いた。


「良くなっています」


「どのくらい」


「出発前より、確実に良くなっています」


「数字で言うと」


「後で言います。全部見てから」


ルナが、分かった、という顔で黙った。


二人で、集落の外縁を一周した。


南の外れ、北の外れ、東の端、西の端。


それから、北の池まで行った。


池を見た。


精霊が、水の中で元気に動いていた。


水草が、来たときより豊かになっていた。


小さな魚が、来たときより増えていた。


池の岸に、新しい植物が生えていた。


ルナが移植したものが、さらに広がっていた。


「これ、また増えた」とルナが言った。


「そうですね。池の水が良いから、岸の植物が育ちやすくなっています」


「植物が増えると、土が良くなる」


「そうです」


「土が良くなると、また植物が増える」


「そうです」


「全部つながってる」


「全部つながっています」


ルナが、池を見た。


「先に数字を言って」


「もう少しで全部見終わるので」


「もう十分見たでしょ」


「あと、集落の中の木を見てから」


「じゃあ、早く行こう」


ルナが、歩き始めた。


私も、ついていった。



集落の中の木を、一本一本触った。


全部で、十七本あった。


全部触った。


状態を確認した。


一本も、悪い木がなかった。


来たときは、乾いていた木が三本あった。


それが、全部元気になっていた。


「全部、元気です」と私は言った。


「本当に?」


「本当に。一本も、悪い木がないです」


ルナが、大きな木を見上げた。


「この木、来たとき葉の色が薄かったやつだ」


「そうです。根元に水を送った木です」


「今は、濃い」


「濃いですね。根が、ちゃんと水を取れるようになっています」


ルナが、幹に手を当てた。


「ちゃんと感じる。元気な感じ」


「そうです」


「私に分かるようになった」


「分かるようになりましたね」


ルナが、少し嬉しそうな顔をした。


「数字、言って」


「言います。出発前に、十八か十九と言いました」


「うん」


「今日、全部見て回った感じでは」


「うん」


「二十になっていました」


ルナが、少し口を開けた。


「二十」


「二十です」


「二十って、どういう意味だったっけ」


「自分で回れる状態、です」


ルナが、また池を見た。


精霊が、水の中で動いていた。


「自分で回れる、って、どういう感じ」


「水が流れて、土が生きて、木が育って、動物がいて、精霊が元気で。そういう状態が、誰かが手を加えなくても続いていける状態です」


「ナギがいなくても、続く」


「そうです」


ルナが黙った。


しばらく、何も言わなかった。


池を見ていた。


「良かった」と、ルナはやっと言った。


「良かったです」


「でも」とルナが言った。


「でも、何ですか」


「ナギがいなくてもいい状態になったってことは、ナギがいなくなるってことじゃないか」


「そうかもしれないです」


「やだ」


「そうですね」


「やだ、じゃないの。もっと何か言って」


「何が聞きたいですか」


「いつまでいる」


「しばらくはいます」


「しばらくって、どのくらい」


「分かりません。でも、すぐにはいなくなりません」


「なんで分からないの」


「次に気になることが、どこにあるか、まだ分からないからです。気になることが見つかったら、行く。それだけです」


ルナが、少し考えた。


「じゃあ、ここでまた気になることを見つけたら、ずっといる?」


「ずっとは、難しいです」


「なんで」


「ここが二十になったら、他に気になる場所がある。そっちの方が、もっと気になる」


「ナギって、気になることがなくならないんだね」


「なくならないです」


「ずっと、どこかに気になることが出てくる」


「たぶん、そうです」


ルナが、また考えた。


「それって、辛くない?」


「辛いですか」


「気になることが、ずっとあるんでしょ。解決しても、また気になることが出てくる。それって、終わりがないじゃないか」


少し考えた。


「終わりがないことが、辛いと思ったことは、ないかもしれないです」


「なんで」


「気になることがある、ということは、やることがある、ということです。やることがある方が、ないよりいい気がします」


「やることがなくなったら、どうなるの」


「理に還ると思います」


「理に還る」


「全部がつながっている大きな流れに、戻ること。いなくなること、かな」


ルナが、少し固まった。


「それって、死ぬってこと」


「そういう言い方もできます」


「絶対に、やることがなくならないようにする」とルナは言った。


「なんで」


「ナギがいなくなったら、やだから。だから、ナギのやることを、ずっと作り続ける」


「作り続けても、難しいですよ」


「難しくても、やる」


「ルナがやることを作っている間に、私がいなくなることもあります」


「いつ」


「分からないですが、いつか」


「いつかって、すぐじゃないよね」


「すぐではないです」


「じゃあ、いい」とルナは言った。「いつかの話は、いつかする」


「そうですね」


ルナが、池に向き直った。


精霊が、水面に上がってきた。


ルナの顔を見た。


ルナが、指を水に入れた。


精霊が、指の周りを回った。


「精霊、聞いた?」とルナが言った。


精霊が、水面を叩いた。


「ナギのやること、なくなったら教えて。私が作るから」


精霊が、また叩いた。


分かった、という感じだった。


「ナギのことを、精霊に頼んだ」とルナは言った。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」



昼過ぎ、ガルと二人で話した。


「二十になりました」と私は言った。


ガルが、少し目を細めた。


「ということは」


「自分で回れる状態に、なりました」


「本当に」


「本当に。ルナが続けてくれたことが、一番大きかったです」


「そうですか」


「ガルさんが記録を続けてくれたことも、大事でした。記録があったから、私が一か月いない間の変化が分かりました」


「記録することの意味を、学びました。カナさんの言葉から」


「カナさんの言葉が、ここにも届いていたんですね」


「そうですね」とガルは静かに言った。「色々なところがつながっていると、改めて思います」


「そうです」


ガルが、少し間を置いた。


「凪様、正直に聞かせてください」


「なんですか」


「二十になったということは、凪様が次に動く時期が、近づいているということですか」


「そうかもしれないです」


「いつですか」


「分かりません。でも、次に気になることが見つかったら、行きます」


「それまでは、ここにいてくれますか」


「いてくれると思います。今のところ、次に気になることが、決まっていないので」


ガルが、また少し間を置いた。


「一つ、お願いがあります」


「なんですか」


「去るとき、ルナが悲しむと思います」


「そうですね」


「凪様が去ることを、ルナが受け入れられるように、少し話しておいてほしいです。私からは、言いにくいことがあります」


「どんなことですか」


「凪様が去ることは、この集落が良くなった証拠だということです。でも、それをルナに言うと、じゃあ良くなって欲しくなかった、と言うかもしれない」


私は少し笑った。


「言いそうですね」


「言います、絶対に」


「ルナらしいですね」


「凪様から、話してもらえれば、少し違うかもしれません」


「分かりました。少しずつ、話してみます」


「急がなくていいです。ただ、突然いなくなるより、少し準備できていた方が、ルナのためになると思います」


「そうですね」


ガルが、窓の外を見た。


集落が見えた。


木が、元気だった。


「凪様が来る前は、あの木も、元気がなかったです」とガルは言った。


「そうでしたね」


「今は、元気です。葉の色が、全然違います」


「良かったです」


「凪様が来て、この集落が変わりました。ルナが変わりました。私も、少し変わりました」


「ガルさんが変わりましたか」


「変わりました。人間を信じることが、少しできるようになりました。正直に言えるようになりました。記録するようになりました」


「それは、ガルさんが変わったんです。私が変えたのではなく」


「きっかけを作っただけだと言う」とガルは言った。「凪様は、いつもそう言います」


「本当のことなので」


「分かっています。でも、凪様のきっかけがなければ、変わりませんでした。それも、本当のことです」


「そうですね。どちらも、本当のことです」


ガルが、静かに笑った。


「凪様と話すと、いつもそういうことになります。どちらも本当だ、と」


「そうかもしれないですね」



夕方、一人で集落の外縁を歩いた。


今朝歩いたのと、同じ道だった。


でも、今朝と違う気持ちで歩いた。


今朝は、確認していた。


今は、ただ歩いていた。


木に触れた。


元気だった。


土を触れた。


柔らかかった。


水の流れを確認した。


流れていた。


全部が、ちゃんとあった。


「二十になった」と、独り言を言った。


誰もいなかったが、言った。


森が、静かに聞いていた。


「ここは、大丈夫です」


また、言った。


「ルナが続けてくれる。ガルさんが記録してくれる。精霊が元気でいる。ラグル族が見張ってくれる」


全部が、揃っていた。


私がいなくても、回る準備が整っていた。


それが、目標だった。


それが、達成された。


「良かった」


木が、風に揺れた。


葉が、さらさらと音を立てた。


その音が、返事のように聞こえた。


シロが、横にいた。


「シロ、ここ、良くなったな」


シロが尻尾を振った。


「来たときと、全然違う」


また振った。


「ルナとガルさんのおかげだ」


シロが、私を見た。


お前もだ、という顔だった。


「まあ、最初のきっかけは、作ったかもしれないですが」


シロが、また尻尾を振った。


「認めます。私も、少しはやりました」


シロが、満足した顔をした。


日が傾いていた。


夕暮れの光が、木の間から差していた。


オレンジ色の光が、地面に模様を作っていた。


「きれいだな」


シロが、空を見た。


「明日も、こういう夕暮れがある」


シロが、尻尾を振った。


「来週も、来月も、来年も」


また振った。


「私がいなくなっても、この夕暮れは続く」


シロが、私を見た。


「大丈夫です。受け入れています」


シロが、また前を向いた。


夕暮れの中を、歩いた。


集落の明かりが、木の間から見えた。


ガルが、夕食を作っているころだった。


ルナが、記録帳に何かを書いているころだった。


クロとキョロが、どこかで丸くなっているころだった。


全部が、そこにあった。


二十になった集落が、夕暮れの中にあった。


帰ろう、と思った。

三十五話目、書きました。


二十という数字が、この話の中心でした。数字は感覚を共有するためのもの、と前置きしましたが、それが達成されたとき、凪もルナも、少し違う顔をしていた。数字の背後にある意味が、二人それぞれの感じ方で伝わった場面でした。


ルナの「精霊に、ナギのやることがなくなったら教えてと頼んだ」という行動。子どもらしい解決法ですが、本質を突いています。一人でできないなら、頼める存在を使う。精霊が何かをしてくれるかどうかより、ルナがそういう形で凪のことを考えているという事実が大事でした。


「去るとき、ルナが悲しむと思います」というガルの言葉。ガルは、ルナのことを見ていた。凪に言いにくいことを、代わりに伝えた。百年間、言いたいことを言えなかった人が、ここまで言えるようになった変化でもあります。


次話では、次の気になることが少しずつ姿を見せ始めます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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