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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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98.荷車の隙間



リオは北へ向かう泥を見た。

見た瞬間に、追いかけたくなる。

でも追いかければ、追いかけた順番になる。


追いかける理由が要る。

理由は紙から取る。紙が先に人を動かす世界だからだ。


リオは路地の角で足を止めた。

荷車は一台。軋む音を立てて、北へ曲がった。

車輪の泥が新しい。さっき付いた泥だ。


荷車の後ろに、厚い札が揺れている。

《出荷》

文字は揃っていない。印もない。

だからこそ、人は疑わない。


リオは人混みへ紛れた。

掲示板の前はまだ騒いでいる。


「監査が越権した」

「公爵家がやった」


誰も見ていないのに、みんな決める。

決めたあとで、紙を探す。


リオはそこで立ち止まらない。

立ち止まれば指が増える。

指が増えれば、理由が減る。


北へ向かう通りは、急に静かになる。

静かな通りには、仕事の音が残る。

樽の転がる音。縄の擦れる音。荷車の軋み。


リオは荷車の影を追った。

影を追うなら、気づかれにくい。

気づかれにくいほど、長く見られる。


曲がり角で、子どもがしゃがんでいた。

靴磨きの子だ。

手は止めず、目だけが通りを数えている。


リオは声を落とした。


「今、北に向かう荷車、何台?」


子どもは靴の泥を削りながら答えた。


「一台。車輪が重い。積み荷が柔らかい」


柔らかい。

リオは笑いそうになって、笑わなかった。

軽く扱えば、軽く狩られる。


「誰が押してた?」


「腕章。新しい縫い目。二人。片方は走らない靴」


走らない靴。

宰相府の靴だ。


リオは頷かない。

頷けば同意になる。

同意になれば、紙になる。


「ありがとう。次の仕事、ある?」


子どもが靴の紐を指で弾いた。


「北の坂。そこは泥が落ちる」


リオは北の坂へ回った。

坂の手前には木の柵があり、荷車は一度止まる。

止まる場所では、札が見る人を選ぶ。


案の定、荷車は柵の前で止まった。

男が札を手に取る。

札の端に、薄い鉛筆の番号がある。


リオは番号を言わない。

言えば噂になる。

噂になれば、追放の束と同じになる。


リオは肩を落として、通りすがりの顔で近づいた。


「すみません、配給の道、まだ塞がってます?」


男がちらりと見る。

見るだけで、答えは出さない。

答えないのは、上から言われているからだ。


荷車の幌の隙間から、匂いが漏れた。

甘い匂い。

鼻の奥に残る匂い。


リオは一歩だけ離れた。

近づけば、匂いが理由になる。

理由になれば、紙が来る。


男が札を戻し、荷車が動き出す。

坂を上る。

泥が落ちる。

落ちた泥が、行き先を描く。


リオは坂の上へ先回りした。

上には古い石標がある。

《北線 外れ》と彫られている。

今は札で消されたはずの線だ。


荷車が石標の横を通る。

男が一度だけ周りを見る。

周りを見るのは、見られたくないときだ。


荷車は石標の先で、細い道へ入った。

道は川沿いへ落ちる。

そこには畑の名残がある。

そして、屋根の低い小屋が並んでいる。


リオは最後に、荷車の札の番号を目で拾った。

鉛筆の癖は同じだ。


これは出荷の番号じゃない。

順番の番号だ。


順番が北へ向かっている。

北の線へ。

消されたはずの線へ。

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