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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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118/157

118.白の記号

白の記号を拾った——次は、扉の内側だ。


誓約の扉は、開ければ負ける。

でも開きかけたままなら、盗める。


ミラは袖の中の紙片を、指で押さえずに見た。

裏に刻まれた《白》。

印じゃない。

札でもない。


手続きの“通行証”だ。


リオが息だけで言う。


「帳の手、封に戻る」


封蝋へ戻る指は、開ける指だ。

開ければ誓約が確定する。

確定すれば、《光》が“正義の芯”になる。


ミラは白い布を、もう一度だけ床で滑らせた。


白は命令じゃない。

順番を奪う合図だ。


床の白が扉の前を横切った瞬間、鍵番の足が一歩だけ止まる。


止まった一拍。

その一拍が、内側の鍵の一拍だ。


誓約の扉の隙間から、冷気が漏れる。

冷気の匂いは影印の匂い。


匂いが漏れるなら、隙間がある。


隙間があるなら、紙は入る。


ミラは袖の内から、別の紙片を出した。

受領所の薄い紙。

「光」が書かれていた紙の端を、ほんの少しだけちぎった欠片だ。


欠片は軽い。

軽いほど、風に勝つ。


ミラはそれを指で弾かない。

息で送る。


息で送った欠片が、扉の隙間へ吸い込まれた。


吸い込まれた瞬間、内側で「かすっ」と音がした。


紙が何かに当たった音。


当たったなら、内側に台がある。

台があるなら、欄がある。


欄があるなら、記号の源がある。


リオが影の位置をずらす。


「見張りが動く」


見張りが動くのは、紙が走ったからだ。

紙が走るのは、誰かが名を呼んだからだ。


帳の手が言う。


「受領、白で」


白で受領。


底の合図が、底の命令になった。


ミラは答えない。

答える代わりに、袖の中の《白》紙片を半分だけ折った。


折り目は印じゃない。

合図だ。


リオが理解し、靴の内側へ紙片を戻す。


証拠を守るためじゃない。

順番を守るためだ。


誓約の扉の封蝋に、指が戻る。


開く指。


開く前に、ミラは“逆の受領”を置く。


白い布を拾い上げ、扉の前の床へ置く。


床の白は、線になる。


線の向こうが内側。

線のこちらが外側。


白で線を引けば、内側は“こちらの受領物”になる。


帳の手の指が止まった。

止まった指の先で、封蝋の赤がわずかに欠ける。


欠けた赤の下から、黒い粒が落ちる。


黒点札の粉。


粉が落ちるのは、封が弱っている証拠だ。


弱った封は、閉じ直される。

閉じ直しは、必ず雑が出る。


雑が出るなら、取れる。


ミラは白い布の端を、ほんの一息だけ引いた。


引くと、扉の隙間が広がる。


広がった隙間から、さっきの紙の欠片が戻ってきた。


戻ってきた欠片の端に、薄い刻印が付いている。


《白》


同じだ。

扉の内側で、《白》が押された。


押されたなら、源は内側の台だ。


ミラは胸の内で確定する。


《白》は“白仮面の印”じゃない。


誓約の扉の内側で押される、「受領の通行証」だ。


そして、その通行証は——


「光」と同じ束に押されている。


扉の奥で、紙の山が一度だけ崩れる音がした。


崩れた音の中に、金属の音。


鍵が回る音。


開く。


ミラはリオにだけ聞こえる声で言った。


「……入るのは今じゃない」


「じゃあ、いつ」


リオが息で聞く。


ミラは白い布を見た。


白の線は残っている。

残っている間だけ、扉は迷う。


「次」


ミラは言う。


「白の記号を、もう一枚取ったら」


取れたら、入れる。

入れたら、誓約の扉の中身を奪える。


奪えば、《光》は“正義”になれない。


扉の封蝋に、帳の手の指が戻った。


指が震えている。


震えは焦りだ。


焦りは落とす。


落とした瞬間を、ミラは待つ。


扉の内側から、紙が一枚だけ滑り出た。


白い紙。


端に、《白》。


ミラは唇の内側で言う。


「……落ちた」


次は、拾う番だ。

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