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偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

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119/157

119.白を拾う

白が落ちた——拾えば、扉は開く。


扉の内側から滑り出た紙は、床で止まらない。

止まらないのは、誰かが靴先で避けたからだ。


避けたのは偶然じゃない。

落ちる白を“拾わせない”ためだ。


ミラは動かない。

動けば主役になる。


代わりに、リオが足で拾う。


拾う、といっても指は使わない。

靴先で紙を踏まず、紙の端だけを押して滑らせる。


滑らせた白が、白い布の線の上で止まった。


線の上は、こちらの受領。

誰にも触らせない場所だ。


帳の手が息を吸う。

吸った息は短い。


短い息は焦りの息。

焦りは、紙を落とす。


帳の手が言った。


「それは、受領物ではない」


受領物じゃない、と言い切るのは、名義を取り戻したいからだ。


ミラは一行で答える。


白は“札”じゃない。

順番だ。


ミラは声を張らないまま、白い布の端を指で軽く叩いた。


合図。


リオが白い紙片を、線のこちら側へさらに一息だけ滑らせる。

滑らせた瞬間、扉の隙間から冷気が増えた。


増えた冷気は、内側の台が動いた冷気だ。


動いたなら、内側に手がある。

手があるなら、印が押される。


紙片の端の《白》は薄い。

薄いのに、消えない。


消えないのは、押した圧が強いからだ。

強い圧は、代償の手続きの圧だ。


ミラは紙片を裏返さない。

裏返す動きは見張りに拾われる。


代わりに、紙片の端の“押し跡”だけ拾う。


押し跡が二つ。


一つは《白》。

もう一つは、細い刻印。


記号。


役所の記号じゃない。

商会の記号でもない。


誓約の扉の内側の記号だ。


「……二枚目」


ミラがリオにだけ聞こえる声で言う。


「これで、入れる」


リオが頷かないまま、靴の内側へ白い紙片を滑り込ませた。


守るためじゃない。

順番を守るためだ。


帳の手が封蝋へ戻る。

戻った指先が震えている。


震えは焦り。

焦りは雑。


雑が出れば、取れる。


ミラは白い布を、今度は扉の前へ“半分だけ”寄せた。


線を短くする。

短くした線は、内側へ誘う。


誘われた指が、封の赤をもう一度押さえた。


押さえた瞬間、赤が欠ける。


欠けた赤の下から、黒い粒が落ちる。


黒点札の粉。


粉が落ちると、門札は増える。

増える前に、誓約が走る。


帳の手が低い声で言った。


「誓約対象を、白へ」


白へ。


《光》を“正義”にする前に、白で受領して奪う。


ミラの背中が冷える。


冷えるのは怖いからじゃない。

次で、扉が開くからだ。


リオが影の位置をずらす。


「見張り、増えた」


増えた見張りは、紙が増えた証拠。

紙が増えたのは、誓約の束が動いたからだ。


扉の内側から、また紙が滑り出そうとしている。


今度は白じゃない。

白より硬い紙。


札だ。


札の角が黒い。


黒点。


門札が“ここ”にある。


ミラは唇の内側で決める。


扉の中身を盗むのは、次の一拍。


その前に——


彼女は白い布を一度だけ引いた。


引いた瞬間、扉の封蝋が「ぱき」と鳴った。


割れた音。


誓約の扉が、開きかけた。


帳の手が息を止める。

止めた息の先で、言葉が落ちた。


「……受領者を名乗れ」


名を言えば縛られる。


だからミラは名を言わない。


代わりに、白い布の上に、拾った白の記号を“置く”番だ。


ミラはリオにだけ聞こえる声で言った。


「——次は、白で入る」

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