表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽情報の王国で、仮面は割れる  作者: 梓水あずみ
北線の削除

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/157

108.束のあたま

刷り場の机は、片付ける音が一番うるさい。


紙束がずれ、木の脚が軋み、油の匂いが揺れる。

揺れた匂いは、仕事の終わりの匂いだ。


終わりの匂いが出た瞬間、机は油断する。


油断した机は、頭を落とす。


ミラは路地の影で、扉の半分開いた隙間を見ていた。


白仮面は付けない。

付けたら門が閉じる。


扉の内側で、乾いた音が二度鳴った。


印を押す音。


二度目が遅い。

遅い音が特別の印。

特別の印が黒点なら、最後の束が門札の束だ。


「……来る」


リオが影から戻り、息の形だけで言った。


中の男が机を引きずる。

引きずると、床の紙屑が流れる。


流れる紙屑の中に、束の頭が混ざる。


混ざった頭は、落ちる。


扉の隙間から、紙屑が一息ぶん外へ押し出された。


裁ち屑。

数字の切れ端。

端が揃いすぎた薄い紙片。


そして、束の頭。


頭は厚い。

厚いのに、軽い。


軽い厚みは、札の束の“見本”だ。

見本は、順番の起点になる。


リオが足で紙屑を寄せる。

寄せて、靴の内側へ滑らせる。


滑らせる動きは、拾う動きに見えない。

見えない拾い方だけが、門を閉じない。


ミラは視線を上げない。

上げずに、腕章の気配だけ測る。


腕章は二つ。

役所の腕章は硬い。

商会の腕章は軽い。


軽い方が油断する。

油断した方が落とす。


中で誰かが言った。


「欠番、忘れるな」


欠番。


言った。


欠番が規則だと、口が自白した。


紙は黙るが、癖は喋る。


リオが戻ってくる。

影のまま、ミラの掌へ厚い紙片を落とした。


「頭、取れた」


ミラは指で触らない。

触れば粉が付く。


代わりに、縁を見る。


縁が揃いすぎている。

裁ち台の縁だ。


次に、角。


角の片方だけ、ほんの少し欠けている。


欠けは偶然に見せるための欠けだ。

偶然を作るのは机。


ミラは紙片の表だけ読む。


表の上に、小さな連番が並んでいる。


二列。


上の列が《受領代理》。

下の列が《門札》。


門札の列は、途中が飛んでいる。


飛び方が一定だ。


三つ進んで一つ飛ぶ。

三つ進んで一つ飛ぶ。


規則。


欠番は偶然じゃない。

抜くべき番号が決まっている。


抜かれた番号が、黒点になる。


「……黒点は、規則で抜く」


ミラが息だけで言うと、リオが頷いた。


「門を増やす札は、選んで配ってる」


選ぶなら、宛先がある。


ミラは紙片の下端を見る。


紙片の端に、細い線で小さな欄がある。

欄は一つじゃない。

二つある。


左の欄は、印。

円が二重で外周が太い。


商会印。


右の欄は、文字。


短い。

三文字。


読める。

読めるのに、胸が冷える。


《代》


代理。


受領代理の“代”。


代理の名で門を増やす。

責任を薄くして、狩りを増やす。


「……名前じゃない。役割だ」


ミラが言った。


「役割で門を開く」


役割で開く門は、数が増える。

増えれば、狩りが当たり前になる。


ミラは紙片の裏を見ない。

裏を見る動きは目立つ。


代わりに、裏の“押し跡”だけ拾う。


押し跡は二つ。

一つは商会印。

もう一つは、細い刻印。


記号。


役所の記号じゃない。

札屋の記号でもない。


「……奥の机だけが使う記号」


ミラが唇の内側で言う。


リオの目が細くなる。


「商会の奥のさらに奥か」


「奥ほど、門に近い」


ミラは紙片を袖の内へ滑らせた。


隠すのは証拠のためじゃない。

順番のためだ。


欠番の規則。

代理の欄。

奥の机の記号。


拾えた。


拾えたなら、次は刺す。


門を増やす札を止めるんじゃない。

門を増やす“名義”を折る。


ミラは路地の暗さへ溶けながら、最後に一言だけ決める。


「……次は、“代”の名を取りに行く」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ