第66話:氷の女王死す!?
その時、ツトムの左手の薬指にはめられた指輪が、不気味なほど激しく明滅した。
「アイラ様……!?どうしましたか!」
指輪から響いてきたのは、あの凛とした女王とは思えないほど、切迫した叫びだった。
「勇者……!魔物が……!剣を持った、恐ろしい魔物がぁ……ッ!!」
言葉が途切れる。通信が強制的に切断されたような、嫌な静寂が耳を打つ。
「ルカ!転移だ!!氷の大地へ、早くーーーーー!!」
「わかったわよ!全員、離れないで!!『トランス』!!」
ルカの鋭い詠唱とともに、ドワーフの村の景色が歪み、一気に白銀の世界へと切り替わった。
「寒い……寒いよ、勇者様」
転移した先は、猛吹雪が吹き荒れる氷の大地。薄着のニーニャがガタガタと震え出した。ツトムは慌ててアイテムボックスから防寒具を取り出すが、あろうことか一つ足りない。
「ニーニャ、僕のを着ろ!」
「えっ、でも勇者様が……。わぁ、フワモコ……それに勇者様の香りがするよー」
ニーニャが防寒具に顔を埋めてうっとりとしているが、ツトムにそれを気にする余裕はなかった。
(アイラ様の通信が途絶えた……。それに、剣を持った魔物と言えば、アレハンドラしかいない!)
氷の城は、すでに漆黒の魔物たちの軍勢に完全包囲されていた。そしてその中心に立つのは、狂気に満ちた笑みを浮かべるアレハンドラだ。
「氷の女王よ、死ね!ここでお前を殺せば、ツトムは一生後悔するだろう……そんな絶望に歪んだ顔が見たくてたまらないんだよ。クックックッ!」
アレハンドラが毒を帯びた魔剣を振り上げる。
「やめろ、アレハンドラ!!やめろぉぉぉーーーー!!!」
ツトムの絶叫が響くが、アレハンドラの刃は無慈悲に振り下ろされた。
「やめるわけなかろう!」
鈍い音がし、魔剣がアイラの胸を深く貫いた。
「……あ……ああ……っ」
「うわあああああああああ!!!」
ツトムは逆上し、魔力を爆発させた。
「アレハンドラ!貴様ぁぁぁ!『マルチングゥゥ!!』」
地面から噴き出した漆黒のマルチシートが、倒れゆくアイラを包み込むように結びつけ、強引にツトムの元へと引き寄せた。
「勇者……遅いではないか……。わ、私は、もう……」
虫の息のアイラを抱きかかえ、ツトムは今までにないほど取り乱し、叫んだ。
「ハル!シンシア!ニーニャ!女王様を救うんだ、早く!!」
ハルの精霊の加護がアイラを包み、シンシアの治癒魔法が傷口に注がれる。さらにニーニャが、生命力を活性化させる癒しの雨を城内に降らせた。
「ルカは包囲している魔物を蹂躙しろ!手加減はいらない、全力だ!!」
「わかったわ、ツトム。全員、消し飛ばしてあげる!」
「グライザとアイリスは僕と一緒にアレハンドラを叩くぞ!」
「おう!やってやるよ、あの野郎!」とグライザが叫び、アイリスは盾を構えツトムの前に立った。
「ツトム殿、任せろ!私が貴殿の盾となる!!」
「アレハンドラ……!絶対に許さない……絶対にだ!!」
「クックックッ……死に損なった勇者に何が出来る。まとめて葬ってくれるわ!」
アレハンドラが再び剣を構える。アイリスが鋭く叫ぶ。
「ツトム殿は私が守る!二度とあの毒など食らわせない!!」
遠距離からグライザが巨大なレンチを投げ飛ばし、牽制を入れる。その隙にツトムが再び呪文を唱えた。
「土魔法、『マルチング』! マルチよ、アレハンドラを縛り上げろ!!」
しかし、アレハンドラは不敵に笑い、剣を閃かせた。
「同じ技が何度も通じると思うなよ!ハァァァァァ!!」
気合一閃、アレハンドラの魔剣が這い寄るマルチを次々と切り刻み、いなしていく。
「捉えられないか……っ!」
ツトムの歯噛みする音が、猛吹雪の中に消えた。




