第63話:あれは事故!
「ニーニャは強いな!助かったよ」
ツトムが感心してニーニャに笑顔を向けると、その瞬間、背筋に氷を突っ込まれたような悪寒が走った。
パチ、パチパチッ……!ルカの両手から、明らかに先ほどより大きな放電音がしている。他の4人も、もはや隠そうともしないすごい目でツトムの後頭部を見つめていた。
(振り向いたら……終わるかもしれない。ルカのあれ、絶対雷系の上級魔法『ライトニング』の準備だ……!)
「えへへ、勇者様に褒められちゃった!もう少しで最下層だよ。太陽の石はね、古代のゴーレムが守ってるから。すごく強いよ!」
ニーニャの警告に、ツトムは極限の緊張感の中で声を張り上げた。
「ニーニャ! 大丈夫さ! 僕たちはみんな強いからね。全員が揃っていれば、どんな敵にだって負けないよ!」
「……みんな」という言葉を強調した瞬間、背後を包んでいたパチパチという不穏な音と、凍りつくような殺気がフッと消えた。
「さて、いよいよ最下層か。あの馬鹿でかいのがゴーレムだな」
ツトムが身構えた瞬間、巨大な岩石の塊が轟音と共に動き出した。
「侵入者……コロス……侵入者……コロス!!」
ゴーレムの目が禍々しく赤く発光し、その両拳から凄まじい火柱が噴き出した。
アイリスが盾を構えて前に出ようとしたが、ツトムはその破壊力を見抜いて叫んだ。
「受けるな、アイリス! 避けろぉぉ!!」
ツトムは咄嗟にアイリスの肩を抱くようにして突き飛ばした。直後、彼女がいた場所の岩壁がドロドロに溶け落ちる。
「……ふぅ、危なかった」
安堵するツトムだったが、突き飛ばした拍子にその右手には、柔らかくふわんとした感触が残っていた。
「ツ、ツッツトム殿……手が……手が不埒なところに……っ!」
「わあああああああ!!」
ツトムは弾かれたように手を離したが、後の祭りだ。
「アイリス……今のは、あれだ。事故なんだ、命を守るための……!」
「せ、責任……。とっとってくれるのか……?」
顔を林檎のように赤くしたアイリスは、完全に乙女モードに入ってしまっている。
「ツトム!今のは確信犯よ!セクハラよ!裁判よ!裁判にかけるわ!!」
背後からルカの鋭い罵声が飛ぶ。
(裁判なんて言葉、どこで覚えたんだよ……)とツトムが頭を抱えている間も、戦闘は止まらない。
「ニーニャ、雨だ!炎の勢いを抑えてくれ!」
「任せて勇者様!」
ニーニャが踊り、魔力の雨がゴーレムを濡らす。
「土魔法、『カルチ』!!」
ゴーレムの足元の地面を一気に耕し、フカフカの柔らかい土に変える。巨大な重量を支えきれず、ゴーレムのバランスが大きく崩れた。
「今のうちでありんす!『精霊の加護』!」
「『聖なるバリア』! 守りは完璧ですわぁ!」
ハルとシンシアが鉄壁のサポート魔法を重ねる。そこへ、怒りを魔力に変えたルカがトドメの一撃を放った。
「雨に濡れた状態で感電させてあげるわ……最大出力よ!上級雷魔法、『ライトニングゥゥゥゥ』!!」
凄まじい雷光が雨を纏ったゴーレムを貫き、バチバチと火花を散らしてその巨体が機能を停止した。ツトムはゴーレムの胸部から、眩い熱を放つ「太陽の石」を回収した。
「よし、太陽の石、確保したぞ!」
目的は果たしたが、背後に控える5人の表情は一様にモヤモヤとしている。その中で唯一、アイリスだけが頬を赤らめ、ぼんやりと自分の胸元を抱えながら夢見心地で立ち尽くしていた。




