第54話:愛の巣の部屋割り
王都の正門を出ようとしたその時、背後から「シンシア様ぁぁぁぁぁ!」と必死の形相で追いかけてくる司祭たちの姿があった。
「シンシア様、いなくなられては困ります! 王様のお話は伺いましたが、王都から聖女がいなくなっては民が不安に……!」
「あらぁ、司祭様。私は魔王討伐のためぇ、そして呪詛に侵食された畑を浄化するための担当に任命されましたのぉ」
困り顔で司祭たちをいなしていたシンシアだったが、埒が明かないと悟ると、ツトムに「少し場所を変えてきますぅ、待っていてくださいねぇ」と天使の微笑みを向け、司祭たちを物陰へと連行した。
「……だからぁ。ツトム様と行くって言っていますわよねぇ!」
「し、しかし……」
「『しかし』でも『もやし』でもないんですのよぉ!! 行くって言ったら行くんですのぉ!! いい加減にしないと……あなたたちを直接!浄化!!して差し上げますわよぉ?」
笑っていない笑顔から放たれる、聖水を取りに行った時に魔物を蹂躙した時以上の凄まじい気迫。
「わ、わぁぁぁぁ! 分かりました! 行ってらっしゃいませぇ!!」
司祭たちは涙目で拝むようにしてシンシアを見送った。
「ツトム様! お待たせいたしましたぁ、大丈夫でしたわぁ♡」
戻ってきたシンシアは、先程とは打って変わった、花が咲くような満面の笑みをツトムに向けた。物陰から聞こえた司祭たちの悲鳴など、最初からなかったかのような、完璧な聖女の微笑みである。
(……シンシアだけは、絶対に怒らせないようにしよう)
ツトムは、自分の背筋を走った冷たい戦慄を誤魔化すように、心の中で固く、固く誓った。
そして一行は、王から拝領した別荘に到着した。王都の一等地に立つ豪奢な建物に足を踏み入れるなり、早くも部屋割りを巡る静かな戦争が幕を開ける。
「僕は居間のソファで寝るから、ルカたちは好きな部屋を選んでいいぞ」
ツトムの無欲な提案に、ルカが顔を赤くしてモジモジし始めた。
「ツ、ツトムがいいなら……私のお部屋で一緒に寝てもいいんだからね?」
「いや、愛するアイリスとツトム殿が呼ぶ私のお部屋こそ、ツトムを迎えるにふさわしい!」
「なぁ、俺の部屋で、また色々な機械のことを教えてくれねぇか? 朝まで二人でさ……」
「わっちのお部屋は、常に精霊によるバリアを張っていんす。二人きりで静かに過ごせるでありんすよ」
「私のお部屋はぁ、浄化の結界を張っておりますぅ。万が一、魔物の夜襲があっても、二人だけの時間を稼げますわぁ♡(好きぃぃぃぃぃ)」
怒涛の誘い文句に、ツトムは真面目な顔で首を振った。
「みんな女性なんだから、男の僕が部屋に入るわけにはいかないだろ。マナー違反だよ」
そのあまりに健全すぎる回答に、ルカが思わず天を仰いだ。
「……かたいわ。ツトム、かたすぎるわよ……」
「本当ですわねぇ」
「全くだ……」
5人は顔を見合わせ、呆れ混じりの溜息をつきながらも、どこか楽しそうにクスクスと笑い声を上げた。
(でも、そういうところがツトムの良いところなのよね……)
5人の心の中に、温かく、けれど確かな想いが重なった。欲に目が眩まず、どんな時でも自分たちを一人の女性として尊重してくれるその誠実さこそが、彼女たちが何よりも惹かれているツトムの勇者としての本質なのだと、改めて実感していた。




