第49話:教会の禁断図書
「とにかく、一刻も早く王都へ!『トランス』!!」
ルカの叫びとともに一行は転移し、ツトムはすぐさまホテルの寝室へと担ぎ込まれた。しかし、アレハンドラの放った毒は凄まじく、ツトムの脇腹の傷口はどす黒く変色し、見るに堪えない腐敗が始まりつつあった。
「なんということぉ……。ああぁぁ、勇者様ぁぁぁぁ、私のせいでぇ……! 勇者様が死んでしまいますぅ!!」
聖女シンシアはツトムの傍らで崩れ落ち、子供のようにわんわんと泣きじゃくった。
「……泣いていても、何も始まらないでありんす」
ハルが絞り出すような声で言った。その瞳には、かつてないほどの静かな怒りと悲しみが宿っている。
「ツトム殿が、こんな……。やはり、私が婚姻を受け入れなかったせいなのか……」
アイリスは己の騎士道と責任感に押し潰されそうになり、グライザも震える手でツトムの寝台を握りしめた。
「ツトム……嘘だろ、死なねぇよな。お前、まだやりてぇことたくさんあるんだろ……!」
「死なないわよ!ツトムはそんなにやわじゃないわ。彼は……私たちの社長で勇者なんだから!」
ルカが叱咤するように叫ぶ。だが、その声は隠しきれない動揺で震えていた。
(これだったのね……あの胸のざわめきは。私、守るって言ったのに……守れなかった……!)
「ぐわあああぁぁぁ……っ!!」
寝室にツトムの悲痛な呻き声が響き渡る。その声に弾かれたように、シンシアが涙を拭いながら顔を上げた。
「……教会の、禁断図書の中に……古の魔毒に対する解毒法が記されているかもしれません……」
「それでありんす! ……わっちが精霊魔法を使い、命を削ってでもツトムの腐敗を食い止めきんす。だからみんなは教会に!」
「教会の図書で、解毒の方法を見つけ出して絶対ツトムを助けるのよ!」
ルカが力強く言い放ち、涙を拭った。
絶望の淵で、5人の絆が再び一つに束ねられた。 ハルがツトムの体に手をかざし、淡く緑色の精霊の光が死にゆく細胞を必死に繋ぎ止める。その間に、ルカ、アイリス、グライザ、そしてシンシアは、わずかな希望を求めて王都の教会へと走り出した。
「シンシア様、おかえりなさいませ!」
王都の教会に駆け込んだ一行を、司祭たちがうやうやしく出迎えた。しかし、シンシアにいつもの柔和な笑みはない。
「禁断図書をぉ、今すぐ見せてほしいのぉ……! 勇者様がぁ、勇者様が死にかけているのですぅ……!」
「しかしシンシア様、禁断図書を部外者のために開示するなど、教会の規律が……」
渋る司祭たちの言葉を、ルカの鋭い声が切り裂いた。
「ツトムは勇者よ! この王都を、そしてエルフの森をも救った英雄なのよ! 規律と彼の命、どっちが重いと思ってるの!?」
「左様だ。この国を救った恩人の窮地を見捨てると言うのなら、我が剣が黙ってはいないぞ」
アイリスが柄に手をかけ、威圧感を放つ。グライザもレンチを肩に担ぎ、低い声で吐き捨てた。
「……四の五の言わずに、さっさと見せやがれ」
「早くお見せなさいぃぃ!!」
シンシアの、魂を揺さぶるような絶叫。 その凄まじい気迫に気圧された司祭は、「は、はいぃ!」と悲鳴を上げ、震える手で禁断図書を差し出した。




