第48話:魔族の剣士『アレハンドラ』
「クックック……。貴様なら、必ずその女を庇うと思っていたぞ。本当におめでたい奴だ」
影の中から現れたその異形の姿を見て、ツトムは目を見開いた。
「そ、その声は……アレハンドラか!?」
だが、そこにいたのはかつての高潔な将軍ではない。全身から瘴気を放ち、肌はどす黒く変色した、魔王の眷属と化したアレハンドラの成れの果てだった。
「貴様を殺すために、力を得たい一心で毎日呪い願った……。その願いを魔王様が聞き入れ、力を授けてくださったのだ!」
「アレハンドラ……。そこまで、堕ちたのか」
ツトムの言葉に、アイリスが震える声で叫ぶ。
「将軍!なぜ、なぜこんな真似を!誇り高き騎士であった貴方が、どうして魔族などに!」
「貴様だ、アイリス!貴様が大人しく我と婚姻しておれば、このようなことにはならなかったのだ!」
アレハンドラの逆恨みに、アイリスは「ぐぅ……っ」と悔しさに唇を噛む。
「……だが、まずはツトムに傷を負わせた。今日の目標はほぼ達成したと言えるな」
満足げに背を向けるアレハンドラに、ツトムの怒りがついに沸点を超えた。
「逃げるな! 全部、お前か……!? お前が、あの北の開墾地のベニ・ハルーカを、あんなにしたのか!!」
ツトムの怒声に、アレハンドラは狂気を含んだ笑顔で振り返った。
「そうだ、全部俺だ!お前が作ったものが称賛されるたび、お前が女たちに囲まれるたび……俺は、お前を殺したいほど憎くて憎くて仕方がなかったんだよ!!」
アレハンドラのあまりに身勝手で歪んだ告白に、ツトムは呆然と立ち尽くした。
「そんな……そんなことで、あんなに大切に育てた土を、作物を……」
復讐のために無関係な人々や大地を犠牲にした男に対し、ツトムの口から漏れたのは怒りを超えた虚脱感だった。しかし、アレハンドラは勝ち誇ったように喉を鳴らす。
「だがな、ツトム……。お前の命も、もう長くはない。その脇腹の傷、ひどく痛むのではないか? クックック……たっぷりと、魔王様直伝の特効毒を塗っておいたのだ!」
「毒……っ!?」
ツトムが傷口を押さえると、そこからどす黒い紋様が血管を伝って広がり始めていた。
「ハッハッハッ!目障りで仕方がなかったのだ……貴様という存在が!じわじわと腐り落ちて死ぬがいい!」
そう吐き捨てると、アレハンドラは嘲笑の余韻を残したまま黒い霧に包まれ、その場から掻き消えた。




