第64話「幸せそうな幼女」
「大丈夫だよ、一緒に寝るからね?」
佐奈ちゃんのおねだりに対し、美鈴ちゃんはいったいどう返すのか――と思って見つめていると、彼女は戸惑うこともなく、母性に溢れた笑みで応えた。
とても意外というか、自分も巻き込まれておどおどすると思ったのに――本当に、予想外の反応だ。
もしかしなくても美鈴ちゃんは、佐奈ちゃんが俺と一緒に寝ると言い出した時から、自分も一緒に寝る中に入っていると悟っていたのだろう。
まぁ普段は、夜になると美鈴ちゃんが佐奈ちゃんと一緒に寝ているだろうし……当たり前のことだったのかもしれない。
そして、おかげさまで俺が一緒に寝るハードルは更に上がった。
しかも数段跳ね上げたとも言える。
付き合っていた頃でさえ一緒に寝たことがないというのに、まさか十年経ってから一緒に寝る機会が来るとは思いもしなかった。
「……佐奈の、お願いですからね……? 私が望んでいることでは、ありません……」
俺が一人衝撃を受けていると、美鈴ちゃんが頬を赤くして、俺にジト目を向けてきた。
一応、俺と一緒に寝ることに対して照れはあるようだ。
それにしても、幼女のお願いだからってなんでも聞くつもりか……?
と言いたくなるレベルには、無茶なことを言われている気がする。
まぁ、普段から佐奈ちゃんのおねだりに全部屈している俺が言えたことではないんだけど……。
今だって、断れていないしな……。
「んっ……」
美鈴ちゃんが一緒に寝るつもりだとわかった佐奈ちゃんは、寝ぼけ眼でまた俺のもとに戻ってくる。
両手を広げておぼつかない足取りでこちらに向かってくるのはかわいらしいのだけど、もうそのままお布団に倒れたらいいのに……と思ってしまう。
とりあえず、俺を目指しているようだったので、迎えに行くと――俺が抱くなり、佐奈ちゃんは目を閉じてしまった。
…………このまま一人で寝かせてしまえばいいのでは?
――と、悪い考えも浮かぶのだけど……。
「もう三人で寝るつもりなので……目を覚ました時に一人で寝ていますと、泣きじゃくってしまいますよ?」
美鈴ちゃんに釘を刺されてしまった。
表情から考えていることを読まれてしまったらしい。
それは困るというか……かなり困る。
佐奈ちゃんに泣いてほしくない、泣き顔を見たくない、というのはあるけど、それ以上に幼い子が泣き始めると、泣き止ますのにとても苦労するだろうから。
特に佐奈ちゃんみたいな子だと、手が付けられなくなる気がする。
だから俺が受け入れる姿勢を見せると、美鈴ちゃんは掛け布団と枕を取りに行った。
そして、戻ってくると――俺に、佐奈ちゃんを布団に寝かせるよう促してきた。
「よいっしょ、と……」
「んっ……」
勢いづかないように慎重に布団に寝かせると、佐奈ちゃんの目が薄っすらと開く。
静かになったのでもう寝たかな、と思ったが、起きていたようだ。
もしくは、寝かせた拍子に起きてしまったか、だけど……。
「寝ていいよ?」
「んっ、おにいちゃんも、ママも、いっしょ……」
優しく頭を撫でると、佐奈ちゃんは俺の手を弱い力で掴んできた。
どうやら、俺たちが布団に入るまでは寝るつもりがないようだ。
普段は電池が切れるとすぐに寝るのに、今日はやけに頑張っている。
それだけ、俺たちと一緒に寝たいんだろう。
「美鈴ちゃん……」
「えぇ、お布団に入りましょう……」
いざ、布団に入るしかない状況になると、美鈴ちゃんは頬を赤く染めて、恥ずかしそうに視線を落とした。
先程は受け入れる姿勢を見せていたけれど、やはり俺と一緒に寝ることには思うところがあるんだろう。
俺たちは川の字になるよう、幼い佐奈ちゃんを挟んで布団に入っていく。
すると――
「えへへ……」
――佐奈ちゃんが、ヘニャァッとかわいらしく、頬を緩めた。
か、かわいすぎる……。
幸せいっぱいという感じで、見てて甘やかしたくなる。
佐奈ちゃんはそのまま、俺の手を握ってきた。
美鈴ちゃんも自身の手があるであろう布団の位置に視線を一瞬向けたので、多分佐奈ちゃんは俺だけでなく美鈴ちゃんの手も握っている。
もう寝落ちしそうだったのに、甘えたくなったのだろうか?
「どうしたの?」
「んっ……おにいちゃん、ママ、いっしょ……」
「「――っ」」
半分寝ぼけているようにも見える佐奈ちゃんの呟いた言葉に、俺と美鈴ちゃんは息を呑んでしまう。
多分、他意はないというか……佐奈ちゃんからすれば、俺たちと一緒にいられるのが嬉しいとか、俺たちと一緒に寝られるのが嬉しいとか、そういう感じで言っているだけだと思う。
でも、俺と美鈴ちゃんには、幼いこの子が呟いた言葉が、胸に刺さった。
「ずっと……いっしょ……」
佐奈ちゃんはそう言うと、ゆっくり目を閉じてしまう。
すぐに聞こえてきたのは、『すぅ……すぅ……』というかわいらしい寝息。
元々眠気とずっと闘っていたので、三人並んで寝られることに満足し、眠りに着いたのだろう。








