第65話「よく笑う子の裏側」
ただ――。
「「…………」」
佐奈ちゃんの呟いた言葉により、俺と美鈴ちゃんの間に気まずい空気が流れる。
どちらともなく視線を合わせると、お互いすぐに目を逸らした。
美鈴ちゃんの顔は赤かったけれど、俺の顔も赤くなっていることだろう。
それくらい、顔が熱い。
まぁ……幼い子が言った戯言、という感じで流せばいいことはあるんだろうけど……過去に付き合っていた関係、というのは、結構厄介だった。
「えっと……」
静寂に支配されそうになる空間で、佐奈ちゃんの寝息だけが聞こえる中、先に美鈴ちゃんが口を開いた。
「どうしたの?」
気まずい空気になっていたので、俺は有難いなと思いながら、口を開く。
「いつも、その……佐奈の面倒を見て頂き、ありがとうございます……」
美鈴ちゃんは少し言いづらそうにしながら、はにかんだ笑みでお礼を言ってきた。
娘の面倒を他人――それも、元カレに見てもらっていることに対しての負い目。
――そう思うような表情ではない。
彼女の赤くなった顔は、優しい目をしているのだから。
「この子、白崎さんに遊んでもらえるようになってから……笑顔が増えたんです」
美鈴ちゃんはそう言うと、眠りについたかわいい愛娘の頭に手を伸ばし、頬を緩めながらソッと撫でる。
実際は叔母と姪という関係のようだけど、どこからどう見ても、本当の親子のようにしか見えなかった。
「笑顔が増えたって……もともと、よく笑う子だったんじゃないの?」
今でも覚えている。
初めて佐奈ちゃんと会った時、お菓子コーナーでそれはもうかわいらしい笑みを浮かべていた。
あの様子からは、普段からよく笑う子なんだろうな、と思ったほどだ。
「もちろん、笑わない子ではなかったですし、よく笑う子ではあったんですけど……時々、寂しそうな顔をしていたんです」
佐奈ちゃんが……。
意外――というのが、正直な気持ちだ。
佐奈ちゃんは本当にコロコロよく笑うし、ずっと幸せいっぱいという感じに見えていたから。
もちろん、拗ねることもあったけれど、そんなふと寂しそうな表情を浮かべる子には思えなかった。
ただ――両親を亡くしている、ということを考えると、むしろ当然なのかもしれない。
「やっぱり、ご両親のことが……?」
佐奈ちゃんがしっかり寝ていることを確認すると、俺はそう切り出す。
それに対して美鈴ちゃんは小さくコクッと頷き、目を伏せた。
「この子は私のことをママと呼んでくれますが、幼くても賢い子なので、本当の親じゃないことはわかっています」








