第57話「逃がしてくれない幼女」
俺が頷かないのは、美鈴ちゃんの手料理が口に合っていないから、と純粋に考えたのか、それともこう聞けば、自分の望む答えが引き出せるからなのか――それは、佐奈ちゃんにしかわからない。
まぁさすがに、前者だろうけど。
ただ、幼いとはいえ頭が良くて勘も良さそうなので、本能的に後者の理由で選んでいる、という可能性はあった。
とりあえず、こんな聞き方をされてしまえば、俺が返せる言葉など決まっている。
「う、うぅん、とてもおいしくて、好きだよ」
口が裂けても合わないなんて言えず、俺は笑顔で首を横に振った。
とはいえ、これは嘘ではなく、本当に美鈴ちゃんの手料理はお店で出てくるレベルおいしいので、食べられることを幸せに思っている。
負の感情があるとすれば、それは元カレだったことの後ろめたさくらいだ。
「――っ。お、お世辞は、必要ありませんよ……?」
佐奈ちゃんに対して返した言葉を聞いていた美鈴ちゃんは、息を呑み、何やらチラッと上目遣いで言ってきた。
別にお世辞で言っているわけじゃないんだけど……そう捉えれても、仕方がないのかもしれない。
「だったら、まいにちくるよねぇ?」
そして佐奈ちゃんは佐奈ちゃんで、『とてもおいしくて好きなら、毎日食べたいだろ?』とでも言わんばかりの笑顔で、小首を傾げた。
自分の望む答えだった時は、太陽のように眩しい満面の笑みで、グイグイと先に進めようとする子だ。
まぁ……上条さんという気掛かりはあれど、美鈴ちゃんまで誘ってくれているのなら、ここはお言葉に甘えてしまったほうがいいのかもしれない。
実際、食生活には気を付けないといけない……とは、前々から思っていたのだし。
気を付けられたことがほとんどないのだけど。
――あと、やっぱり泣きそうな目を佐奈ちゃんにさせたくない、という気持ちもある。
「そうだね……お言葉に甘えさせてもらおうかな?」
「んっ……!」
俺が笑顔で頷くと、佐奈ちゃんは満足そうに大きく頷いた。
この子、意外と難しい言葉でも通じるんだよなぁ……。
もしくは、ただ雰囲気で頷いているだけかもしれないけど。
「美鈴ちゃんも、ごめんね」
一応、美鈴ちゃんに謝っておく。
佐奈ちゃんの言い出したこととはいえ、彼女からすれば面倒事が増えることに変わりはない。
「謝られる必要はありません。私のほうからも、誘っているわけで――あっ!」
女神のように慈愛に満ちた笑顔で首を横に振った彼女だが、何か思い出したように突然声を上げた。
そして、慌てた様子を見せながら、人差し指を立てて口を開く。
「え、えっと……! あくまで、佐奈のお願いと、白崎さんの健康を考えた上で、こうするのがベストだと思っただけですからね!? 私が、白崎さんとご一緒したくて誘ったわけではありませんよ!?」
何やら、一生懸命――それこそ、言い訳をしているようにさえ見える様子で、捲くし立ててくる美鈴ちゃん。
誰もそんなこと、疑ってないんだけどなぁ……。
「わかってるよ、あくまで佐奈ちゃんのためだよね?」
さすがに、美鈴ちゃんが俺と一緒にいたくて誘ってくれている、なんていう自惚れはしない。
もう十年も前に、そんなのは自分に都合良く考えているだけだ、ということには気が付いているのだから。
「はい……」
美鈴ちゃんは小さく頷いて、視線を佐奈ちゃんに向けた。
俺から視線を逃したようにも見えるが、多分単純に佐奈ちゃんを見ただけだろう。
そんな佐奈ちゃんは――
「えへへ……これからおにいちゃん、もっともっといっしょ……!」
――自分の要望が通ったことで、この上なくご機嫌になっている。
うん……滅茶苦茶懐かれているんだけど、出会ってからはそれほど経ってないんだよね……。
やっぱり、父親代わりに見られているのかもしれない。
……それにしても、懐かれすぎな気がするけど。
いよいよ、
『生徒の保護者が元カノだった』
1巻発売まで、1週間になりましたね!
(5月20日発売)
WEB版よりもかなり良くなっていますので、
是非是非書籍版もよろしくお願いします!
人気作になって、
コミカライズ、アニメ化してほしいです!
佐奈ちゃんがかわいいと思って頂けましたら、
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