第56話「幼女は強い」
「だめ……?」
返事をしない俺に対し、佐奈ちゃんはウルウルとした瞳で上目遣いに見つめてくる。
おねだり上手な子だ……。
実際のところ、正直かなりまずいと思う。
今でさえ、休日の度に彼女のたちの家に行き、食事をご馳走になっている状況だ。
さすがに食費代は美鈴ちゃんに渡すようになったとはいえ、俺に家に来てほしいのは佐奈ちゃん一人で、美鈴ちゃんも上条さんも歓迎していないだろう。
特に上条さんにとっては、俺が家に来れば来るほど、最愛の妹との触れ合い時間が減るため、今まで以上にヘイトを買う可能性が高い。
というか、いい加減キレそうな気がする。
「うぅ……」
佐奈ちゃんの上目遣いを喰らってもなお俺が思考を巡らせていると、佐奈ちゃんの目には涙が溜まり始めた。
この子、どうやったら俺が頷くか、学んでしまっている気がする。
頷いてあげたいところではあるけど、いくらなんでもここまで上条家の領域に踏み込むのはまずいはずだ。
単純に、上条さんと美鈴ちゃんの休まる時間が大幅に減ってしまうだろう。
だから俺は、なるべく笑顔で佐奈ちゃんの誘いを躱すことにした。
しかし――
「良いではありませんか……」
――思わぬ方向から、佐奈ちゃんの援護射撃が起きる。
「えっ……?」
俺は思わず、声の主――美鈴ちゃんに、視線を向けた。
彼女はまだ頬を赤くしており、何やら両手の人差し指を合わせてモジモジとしている。
「インスタント食品ばかりという……日々偏った食事をしているようなので、健康のためにそうしたらどうですか……?」
どうやら美鈴ちゃんは、俺の体調を心配して誘ってくれているようだ。
もう十年も前に別れた元カレが相手だというのに……なんて優しい子なんだ……。
まぁ、佐奈ちゃんがそれを望んでいる、というのが大きな一因ではあるんだろうけど。
「安心してください、その分の食費は請求しますので」
「あぁ、うん、それはもちろん出させてもらうけど……本当にいいの……?」
美鈴ちゃんが前向きな姿勢を見せたのが意外なので、俺はつい尋ねてしまう。
すると、彼女は仕方がなさそうに笑みを浮かべた。
「休日の度に、私たちの家で食べておられるんです。今更ではないですか?」
俺とは違い、彼女はとうに割り切っていたようだ。
実際、彼女の言うことも一理あるのだろう。
週二回とはいえ、彼女たちのお家で食べているのであれば、それが毎日になったとしても、見方によっては回数が増えただけだ。
――が、しかし。
もうそこまでいくと、半同棲をしているようなもので、美鈴ちゃんが教え子の保護者ということもあり、本当にこれでいいのか、という疑問が消えてくれない。
「おにいちゃん、ママのごはん、きらい……?」
まだ悩む様子を見せる俺に対し、佐奈ちゃんは更なる爆弾をぶち込んできた。








