第50話「すれ違い」
「愛って……あなたは、村雲さんのことが好きだったってこと……?」
「だった、ではありません。今も好きです」
「……それは、恋愛として……?」
「はい」
戸惑いながら確認をする上条さんに対し、美堂さんは優雅な所作で肯定した。
おぉう……。
つまり、痴情のもつれってことか……?
まぁ男女ではなく、女性同士なので、正確には違うんだろうけど……。
しかも堂々と言い切るものだから、あの上条さんがたじたじだ。
「えっと……そう……そういうことも、あるわよね……。村雲さん、とてもかわいいし……」
そんな状態でも、上条さんは意外にも理解を示そうとする。
この子、煽られ弱くて沸点は低めだけど、実は懐が深いところあるよな……。
「でも、だったらどうして……? 好きな子を傷つけるなんて、おかしいでしょ……?」
好きな相手を傷つける、という行為がまだ若い上条さんには理解できないらしく、美堂さんに尋ねてしまう。
正直俺は、この時点でだいたいわかっていたのだけど――口を挟むのはやめておいた。
「振られたからです」
「へっ……?」
美堂さんの口から出た、あまりにも理解できない言葉に、上条さんが珍しく素っ頓狂な声を出した。
フリーズしているので、多分脳の処理が追い付いていない。
「私は、小学生の時からずっと、瑠美ちゃんと両想いだと思っていました。瑠美ちゃんはいつも私の後を付いてきて、傍から離れず、そして私がお家に帰ろうとしたら、とても寂しそうに引き留めてきていましたので。当時の私は、瑠美ちゃんは絶対に私のことを好きなんだ、と確信しておりました。いつも、沢山甘えてきていましたし」
そう言われると、村雲さんはバツが悪そうに顔を背けてしまう。
嘘……ではないんだろう。
美堂さんに甘える村雲さんの幼い姿を想像してみたが、驚くほどにしっくりときてしまった。
美堂さん、沢山甘えてくる村雲さんに、性癖を壊されたんだろうな……。
ちょっと自分にも心当たりがあるのか、俺と目が合った上条さんが目を泳がせた。
この子も、村雲さんに熱中していたからな……。
男嫌いだし、美堂さんに共感する部分があるんだろう。
そんなふうに上条さんを観察していると、美堂さんが続けて口を開く。
「ですが、万が一私の思い違いだった場合、瑠美ちゃんとの関係が壊れる……そう思っていたので、私は自分の気持ちを打ち明けず、ずっと我慢をしていました。小学校の間だけでなく、中学校に上がってからもです。それなのに、瑠美ちゃんは……私の気持ちを知らず、中学生になっても一緒にお風呂に入りたがり、一緒のベッドで寝たがり――私の膝の上が、お気に入りでした」
「~~~~~っ!」
もうやめて!
とでも言わんばかりに、村雲さんが両手で顔を隠し、イヤイヤと首を横に振る。
顔は真っ赤になっており、自身の甘えん坊具合を暴露されて恥ずかしいのだろう。
若干、上条さんが羨ましそうにしているのが気になる。
この子、大丈夫だろうな……?
美堂さんの二の舞になってトラブルとか、勘弁してほしいぞ……?
「そんなことをされ続けたら当然、私も我慢することができなくなり――高校生一年生の時、瑠美ちゃんに気持ちを打ち明けたのです。きっと、受け入れてくれると思っていたのに……」
そこで美堂さんは言葉を止めるが、どういう答えだったのかは、現状から察することができる。
多分、村雲さんとしては同い年でも、美堂さんのことがお姉さんのように思えていたんだろう。
だから実の姉妹のように、沢山甘えていた。
しかし、美堂さんからすれば友達なので、妹として見るのではなく、いつの日か恋愛対象として見るようになってしまい――この、とんでもないいじめ問題に発展したようだ。
「瑠美ちゃん、あの時私になんて言ったか、憶えてる?」
美堂さんはもう話を終えたのかと思いきや、その先は村雲さんに言わせることにしたようだ。
恥ずかしがっていた村雲さんは、目の端に涙を溜めた赤い顔で、美堂さんを見た。
「お友達だと思ってたから……私にそういった気持ちはないの……。ごめんなさい、距離を取ったほうがいいよね……って……」
おぉう……。
村雲さん、それ……確かに、ちょっと酷い……。
村雲さんからすれば、突然のことでパニックになり、頭が回らなくなって絞り出した言葉なんだと思う。
だけど、告白というのは人生を賭けているようなもので、決死の想いで臨んだ美堂さんからすれば、絶望を叩きつけられたようなものだ。
何より、自分自身を否定されたように感じたと思う。
「そうだよね、あなたは私を気持ち悪いと拒絶したのよ」
「ち、違うの……! あれは、彩花ちゃんと一緒にいたら、彩花ちゃんを傷つけちゃうと思って……! 私は、女の子はお友達としか思えないから、一緒にいても、彩花ちゃんの気持ちには応えられないから……!」
村雲さんの言う通り、彼女は気持ち悪がってなどいないだろう。
ただ、優しすぎたが故に、友達のことを考えて、その子のためになるよう自分から離れようとしたのだ。
しかもその時はいじめを受ける前で、普段ベタベタにくっついて甘えているような関係だったのなら、村雲さん自身にも友人として美堂さんが好きだという気持ちはかなりあったはず。
自分から離れる決断は、凄く勇気がいったことだろう。
悲しいのは、言葉を間違えてしまった――いや、気を遣うところを間違えてしまったことで、こうしてすれ違いが生まれていることだ。








