第51話「特級呪物」
「――な、何よそれ……!」
「つまり私たちは、そんな気持ち悪い復讐のために、利用されたってこと……!? ふざけるのも、たいがいにしなさいよ……!」
話を聞いていて声を荒らげたのは、美堂さんの取り巻き二人だ。
彼女たちは美堂さんの復讐に付き合ったことで、人生が詰みかけている。
責めたくなる気持ちはわからなくもないが――
「ふざけてるのはどっちよ……! あなたたちがした選択でしょうが! それに、嬉々として村雲さんをいじめているところを、私は見ていたわよ……! 利用されたと言って、逃げられると思うな……!」
――俺の気持ちを、上条さんが代弁してくれた。
口調が悪くなっているので、先程の彼女たちの言葉で更にキレたようだ。
普段静かでクールな上条さんに怒られたことで、取り巻きたちは委縮してしまった。
まぁ自業自得なので、同情はしないが。
「美堂さんも美堂さんよ! 拒絶されたのは悲しいと思う! でも、だからって村雲さんを傷つけることは違うでしょ……!?」
沸点を超えてしまったからだろう。
上条さんの怒りが美堂さんにまで飛び火する。
いや、この問題の元凶は美堂さんなのでキレるのは間違ってないんだろうけど、なんだか今の流れで怒られるのは若干気の毒だった。
「上条さん、あなたは恋をしたことがないのですね?」
「――っ。きゅ、急に何よ……?」
可哀想なものを見るような目で見つめられ、上条さんが一歩後ずさる。
「恋は、幸せなものだけではありません。全身を焼き尽くすほどに自身を苦しめる、凶器のようにもなります。好きな人に拒絶される絶望は、自分をおかしくさせるものですよ」
美堂さんの言っていることを、俺はわかってしまう。
というよりも、一度でも失恋を経験したことがある人は、少なからず同じような体験をしたことがあるはずだ。
失恋を経験すれば数日、数週間、数ヵ月――下手をすれば、数年引きずることもある。
実際に、恋を拗らせたことで人殺しにまで発展したケースは、珍しくない。
ストーカー被害で人が亡くなることだって、昔からずっとあるんだから。
「ですが、私は復讐などという、無意味なことをするつもりはありません」
今まで長々と話していた美堂さんだが、今まで話していたのはなんだったんだ、と聞きたくなるように首を横に振ってしまった。
「はぁ……?」
当然、上条さんが納得するはずもなく、怪訝そうな顔で首を傾げる。
この子がいると、勝手に聞いてくれるから便利だなぁ……。
「このまま瑠美ちゃんが学校にこられず、引きこもりのままでしたら、どうなっていましたか?」
美堂さんは上条さんにあえて質問を投げかける。
この子はこの子で、強メンタルで凄い……と思いたいが、多分とっくに心が壊れているんだろう。
善悪も付かないほどに。
それだけ、村雲さんのことが好きだったのだろうが……。
「学校をやめないといけなくなって、就職にも困る……俗にいう、ニートになっていたでしょうね」
上条さんは、『あなたのせいでそんな目に遭うところだったんだぞ』という批判の意思を込めて、答えた。
だけど、美堂さんは――
「ふふ、そうですよね……! そして、瑠美ちゃんには兄弟も姉妹もいません……! つまり、おば様たちがいなくなられたら、瑠美ちゃんは生きていけなくなるのです……! そう、私を頼らないと……!」
――そこまで話を聞いていて、やっと彼女が言いたいことを理解した。
上条さんも、俺と同じく理解したのだろう。
青ざめながら、怪物でも見るかのように美堂さんを見ている。
「村雲さんに復讐が目的ではなくて……この子の居場所を奪うことで、自分の手元にいるしかない状況を作ろうとしていたってこと……?」
「えぇ、私には瑠美ちゃんが必要ですから」
上条さんの確認に対し、美堂さんは悪びれることなく頷いた。
人は、ここまで見境をなくすことができるのか……。
執念がやばすぎる。
「先生……」
この子はやばい。
そう察した上条さんが、縋るように俺の顔を見上げてきた。
正直、俺だって判断に困っている。
彼女を学校から追い出すことは簡単だ。
この動画さえあれば、あっさり退学にまで持っていけるだろう。
だけど、その後は?
下手に引き離そうものなら、この子はとんでもない手段を使い――下手をすれば、村雲さんの命すらを奪いかねない。
それくらいの執念だ。
特急呪物とは、こういう子のことをいうのか……と思った。
しかし――この場で、教師としてしないといけないことは変わらない。
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