7話
「文化祭の出し物、演劇に決まりました」
担任の発表に、教室がざわついた。
「主演はオーディションで決めます。裏方も募集します」
佳奈子は、すぐに手を挙げた。
「脚本係、やりたいです」
その声は、はっきりと響いた。
佐伯美羽が「いいね!」と笑い、三浦も「向いてそう」とうなずいた。
和也は、手を挙げなかった。
「俺、裏方でいいや」
そう言って、照明係に立候補した。
「鈴木くん、演技とか興味ないの?」
佳奈子が聞いた。
「いや、俺の妄想は舞台向きじゃないから」
「そう?“宇宙人の恋”とか、ちょっと見てみたいけど」
「それ、誰が演じるの?」
準備が始まると、佳奈子は脚本係として注目され始めた。
「佳奈子ちゃん、セリフの言い回しうまいね」
「この場面、感情の流れが自然!」
佐伯や三浦が褒めてくれる。
佳奈子は、嬉しかった。
“すごいね”と言われることが、何よりのご褒美だった。
一方、和也は体育館の照明室で一人作業していた。
スイッチの位置を確認し、光の角度を調整する。
誰にも見られない場所で、誰かのために動く。
それが、少しだけ寂しかった。
「艦長、孤独ですか?」
脳内の副官が問いかける。
「いや……任務中だ」
「でも、誰にも気づかれない任務です」
「それでも、必要なんだよ」
リハーサルの日。
佳奈子の書いた脚本が、舞台で演じられた。
和也は、照明室からその様子を見ていた。
佳奈子が、演者に指示を出している。
堂々としていて、かっこよかった。
「俺、あいつのこと……ちょっと尊敬してるかも」
副官がうなずいた。
「艦長、それは成長です」
本番当日。
照明室は暑かった。
和也は、汗をかきながらスイッチを操作した。
舞台が暗転し、スポットライトが佳奈子の書いた“告白シーン”を照らす。
観客が息をのむ。
その瞬間、和也は思った。
「俺、誰かのために動くの、嫌いじゃないかも」
終演後。
佳奈子が照明室に駆け込んできた。
「鈴木くん、照明最高だった!」
「そう?」
「うん。あのタイミング、完璧だった」
「俺、裏方の才能あるかも」
「じゃあ、条約追加。“裏方も主役にできる”」
「発効!」
マンションの前。
「じゃあね、和也」
「うん、また明日、佳奈子」
名前で呼び合う声は、今日も変わらず響いた。
でも、その響きは、少しだけ誇らしげだった。
それは、“誰かのために動いた”という実感と、
“誰かにちゃんと見てもらえた”という喜びが重なった音だった。




