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隣の鈴木くんと鈴木さん  作者: 双鶴


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8/16

7話

「文化祭の出し物、演劇に決まりました」

担任の発表に、教室がざわついた。

「主演はオーディションで決めます。裏方も募集します」


佳奈子は、すぐに手を挙げた。

「脚本係、やりたいです」

その声は、はっきりと響いた。

佐伯美羽が「いいね!」と笑い、三浦も「向いてそう」とうなずいた。


和也は、手を挙げなかった。

「俺、裏方でいいや」

そう言って、照明係に立候補した。


「鈴木くん、演技とか興味ないの?」

佳奈子が聞いた。

「いや、俺の妄想は舞台向きじゃないから」

「そう?“宇宙人の恋”とか、ちょっと見てみたいけど」

「それ、誰が演じるの?」


準備が始まると、佳奈子は脚本係として注目され始めた。

「佳奈子ちゃん、セリフの言い回しうまいね」

「この場面、感情の流れが自然!」

佐伯や三浦が褒めてくれる。

佳奈子は、嬉しかった。

“すごいね”と言われることが、何よりのご褒美だった。


一方、和也は体育館の照明室で一人作業していた。

スイッチの位置を確認し、光の角度を調整する。

誰にも見られない場所で、誰かのために動く。

それが、少しだけ寂しかった。


「艦長、孤独ですか?」

脳内の副官が問いかける。

「いや……任務中だ」

「でも、誰にも気づかれない任務です」

「それでも、必要なんだよ」


リハーサルの日。

佳奈子の書いた脚本が、舞台で演じられた。

和也は、照明室からその様子を見ていた。

佳奈子が、演者に指示を出している。

堂々としていて、かっこよかった。


「俺、あいつのこと……ちょっと尊敬してるかも」

副官がうなずいた。

「艦長、それは成長です」


本番当日。

照明室は暑かった。

和也は、汗をかきながらスイッチを操作した。

舞台が暗転し、スポットライトが佳奈子の書いた“告白シーン”を照らす。

観客が息をのむ。

その瞬間、和也は思った。


「俺、誰かのために動くの、嫌いじゃないかも」


終演後。

佳奈子が照明室に駆け込んできた。

「鈴木くん、照明最高だった!」

「そう?」

「うん。あのタイミング、完璧だった」

「俺、裏方の才能あるかも」

「じゃあ、条約追加。“裏方も主役にできる”」

「発効!」


マンションの前。

「じゃあね、和也」

「うん、また明日、佳奈子」


名前で呼び合う声は、今日も変わらず響いた。

でも、その響きは、少しだけ誇らしげだった。

それは、“誰かのために動いた”という実感と、

“誰かにちゃんと見てもらえた”という喜びが重なった音だった。


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