5話
「鈴木くん、最近ちょっと変わったよね」
佳奈子は、委員会の帰り道にぽつりとつぶやいた。
隣には、同じ委員の佐伯美羽がいた。明るくて、誰にでも話しかけるタイプ。
「えー、そう?私は前から“ちょっと不思議な人”って思ってたけど」
「不思議……まあ、そうかも」
佳奈子は最近、和也の変化を感じていた。
以前は妄想全開だったのに、最近は少し落ち着いている。
文化祭のあと、名前で呼び合う時間も増えた。
でも、それが逆に不安だった。
「ねえ、佳奈子ちゃんって、鈴木くんと仲いいよね?」
「え、うん。まあ、隣人だから」
「隣人って便利な言葉だね〜。でも、ちょっと距離ある感じ?」
「そう……かも」
その日の昼休み。
和也は、田島と一緒に“妄想部”を結成していた。
「俺たち、校内に眠る古代文明を探す!」
「いいね!俺、発掘係やるわ!」
佳奈子は、遠くからその様子を見ていた。
笑ってる。楽しそう。
でも、そこに自分はいない。
放課後、佳奈子は佐伯と一緒に委員会の資料整理をしていた。
「鈴木くんって、写真映えするよね」
「え、うん。前に撮ったことある」
「いいな〜。私も撮ってみたいな」
「……そうなんだ」
その夜、佳奈子はスマホのアルバムを開いた。
“銀河を見つめる午後”の写真。
あのときは、和也が自分だけの“素材”だった。
でも今は、誰かと笑ってる。誰かに話しかけられてる。
「私、空回りしてるのかな」
ベッドの中で、そうつぶやいた。
翌日、佳奈子は少しだけ積極的になった。
「鈴木くん、今日の妄想は?」
「え?あ、今日は……ちょっと現実モード」
「そっか。じゃあ、私が妄想してもいい?」
「え、佳奈子が?」
「うん。“鈴木くんが実は未来から来た”って設定」
「それ、俺の妄想より高度じゃん!」
二人は笑った。
でも、佳奈子の中には、まだモヤが残っていた。
その日の帰り道。
佐伯が和也に話しかけていた。
「鈴木くんって、委員会手伝ってくれる?」
「え、俺?いいけど……」
「やった!じゃあ、佳奈子ちゃんと一緒によろしくね」
佳奈子は、少しだけ安心した。
でも、同時に思った。
“私が頑張らなくても、誰かが和也に話しかける”
それが、ちょっとだけ怖かった。
マンションの前。
「じゃあね、和也」
「うん、また明日、佳奈子」
名前で呼び合う声は、今日も変わらず響いた。
でも、佳奈子の中で何かが揺れていた。
それは、誰かに取られるかもしれないという不安。
そして、自分の“特別”が、特別じゃなくなるかもしれないという焦り。
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