4話
「えーと、班分けはこの通りです」
担任の先生が黒板に貼った紙を見て、教室がざわついた。
来週の校外学習。班ごとに行動するため、今日がその発表日だった。
和也は、紙の中に自分の名前を見つけた。
「……あれ?」
佳奈子の名前が、別の班にあった。
「鈴木くん、同じ班じゃないね」
佳奈子が、少しだけ残念そうに言った。
「うん。まあ、たまには別行動もいいかもね」
そう言いながら、和也は内心でモヤモヤしていた。
班のメンバーは、男子3人女子2人。
その中に、クラスのムードメーカー・田島がいた。
「鈴木、よろしくな!お前、意外と面白いよな〜」
「え、あ、うん……」
和也は苦笑いした。田島は悪い奴じゃない。でも、ちょっと距離が近い。
放課後、佳奈子は新しい班のメンバーと打ち合わせをしていた。
その輪の中に、クラスの爽やか男子・三浦の姿があった。
「佳奈子さんって、まとめるの上手いよね」
「え、そんなことないよ」
「いや、ほんと。俺、助かってる」
和也は、その会話を廊下から見ていた。
胸の奥が、少しだけチクッとした。
なんだろう、この感じ。
別に、佳奈子が誰と話そうと自由だ。
でも、“佳奈子”って呼んでいいのは、自分だけだと思ってた。
その夜、和也はベランダに出て、空を見上げた。
「艦長、どうしました?」
脳内の副官が問いかける。
「いや……ちょっと、通信が乱れてるだけだ」
「それは、心の問題ですか?」
「うるさいな。妄想にまでツッコまれるとは」
翌日、和也は佳奈子と少し距離を取っていた。
「鈴木くん、今日静かだね」
「そう?」
「うん。なんか、妄想してない」
「今は、地球の重力に引っ張られてるだけ」
「それ、詩的だけど意味わからない」
佳奈子は、少しだけ寂しそうに笑った。
和也は気づいていた。
自分が勝手にモヤモヤして、勝手に距離を取っていることに。
校外学習当日。
班ごとの自由行動が始まった。
和也の班は、動物園エリアを回っていた。
「鈴木、あのカピバラと似てるな〜」
「え、俺?」
「なんか、ぼーっとしてるとこ」
「……それ、褒めてる?」
そのとき、向こうのベンチに佳奈子の姿が見えた。
三浦と並んで、地図を見ている。
笑っていた。
その笑顔を見て、和也はようやく気づいた。
「俺、嫉妬してたんだな」
脳内の副官がうなずく。
「艦長、感情の自覚は成長の第一歩です」
「うるさい。でも、ありがとう」
帰りのバス。
偶然、和也と佳奈子は隣の席になった。
「楽しかった?」
「うん。三浦くん、地図読むの早くて助かった」
「そっか」
「でも、鈴木くんがいないと、ちょっと物足りなかった」
「……俺も。なんか、妄想がうまく起動しなかった」
佳奈子が笑った。
「じゃあ、次は同じ班がいいね」
「うん。鈴木同盟、再編成しよう」
「条約追加。“距離ができても、通信は保つこと”」
「発効!」
マンションの前。
「じゃあね、和也」
「うん、また明日、佳奈子」
名前で呼び合う声は、今日も変わらず響いた。
でも、和也の中で何かが少しだけ変わっていた。
それは、モヤの正体を知ったこと。
そして、自分の気持ちに名前をつける勇気を持ったこと。




