3話
「鈴木くん、ちょっと来て」
昼休み、佳奈子が真顔で呼びに来た。和也は、机の上で消しゴムを宇宙船に見立てて航行中だった。
「今、第七惑星に着陸しようとしてたんだけど」
「現実に着陸して。生徒会があなたの妄想を採用したって」
「え、俺の妄想が?どれ?」
「“校内に異星人が潜んでいる”ってやつ」
「それ、俺の中でもかなり初期案なんだけど……」
事の発端は、先週の生徒会アンケートだった。
「文化祭でやってみたい企画は?」という質問に、和也は「異星人発見ミッション」と書いた。
「校内に潜む異星人を見つけ出す。参加者は探査員。異星人役は生徒。ミッション成功で宇宙食がもらえる」
という、完全に妄想ベースの企画だった。
「それが、なぜか採用されたらしい」
「なんで?」
「“非日常感がある”“参加型で盛り上がりそう”って評価されたって」
「俺の妄想、ついに地球に認められた……!」
しかし、問題はここからだった。
「で、鈴木くんが“異星人役の演技指導”をすることになった」
「演技指導?俺、演技したことないけど」
「妄想してるじゃん。毎日」
「それは……演技じゃなくて、信念」
佳奈子は、生徒会から“現実係”として任命された。
「現実係って何?」
「あなたの妄想が暴走しないように、現実に引き戻す係」
「それ、毎日やってる気がする」
「だから適任」
放課後、体育館の隅で“異星人役”の練習が始まった。
和也は、真剣な顔で指導する。
「異星人は、地球の言語に慣れていない。だから、語尾に“ピピ”をつけるといい」
「ピピ?」
「例:『こんにちはピピ』『給食はどこピピ』」
「それ、ただの変な人じゃない?」
「違う。異星人は“違和感”が大事なんだ」
佳奈子は、横でメモを取っていた。
「語尾ピピ、要検討。あと、宇宙食はどうするの?」
「俺の家に、非常食の乾パンがある」
「それ、宇宙食じゃない」
「でも、雰囲気はある」
「じゃあ、ラベルだけ“宇宙食”って書いて貼ろう」
「それ、現実係の仕事だね」
「任務遂行中」
数日後、“異星人発見ミッション”は校内で実施された。
参加者は探査員として校内を巡り、異星人役の生徒を見つけて“地球語で会話できるか”を試す。
語尾ピピは、意外と好評だった。
「こんにちはピピ!」
「給食はどこピピ!」
「それ、異星人っぽい!」
和也は、満足げにうなずいた。
「俺の妄想、地球に受け入れられた……」
佳奈子は、乾パンに“宇宙食”ラベルを貼りながら言った。
「でも、現実の調整がなかったら、ただの混乱だったよ」
「ありがとう、現実係」
「どういたしまして、妄想艦長」
イベント終了後、生徒会から感謝状が届いた。
「鈴木和也さん、鈴木佳奈子さん。“異星人発見ミッション”の成功により、校内に笑いと非日常をもたらしました」
「俺たち、公式に異星人扱いされたね」
「それは違う」
帰り道、二人は並んで歩いた。
「ねえ、鈴木くん」
「ん?」
「妄想って、現実に届くんだね」
「うん。でも、現実係がいないと、墜落する」
「じゃあ、これからも私が現実係でいていい?」
「もちろん。鈴木同盟、条約追加。“妄想は現実係の許可を得ること”」
「発効!」
そして、マンションの前。
「じゃあね、和也」
「うん、また明日、佳奈子」
名前で呼び合う声は、今日も静かに響いた。
妄想と現実の間にある、ちょうどいい距離感。
それが、二人の“同盟”のかたちだった。




