2話
「鈴木くんって、写真映えするよね」
昼休み、佳奈子が唐突に言った。和也はパンをかじりながら、脳内で宇宙船の修理をしていた。
「え、俺?写真映え?宇宙船の中で?」
「違う。現実の話。顔が整ってるし、制服もちゃんと着てるし」
「それは佳奈子が毎朝、ネクタイ直してくれるからじゃん」
「それは……隣人の義務だから」
佳奈子は最近、SNSで“映える投稿”を研究していた。
「#中学生の日常」「#制服男子」「#放課後の横顔」など、タグの世界は広く深い。
でも、佳奈子自身は“真面目そうすぎる”せいで、なかなかバズらない。
「私が出ると“勉強垢”っぽくなるんだよね……」
「それは、プロフィールに“#努力は裏切らない”って書いてるからじゃない?」
「消したよ。今は“#日常にひとさじの非日常”」
「それ、逆に怪しくない?」
そんな佳奈子が目をつけたのが、和也だった。
「鈴木くん、放課後に写真撮らせて」
「え、俺?なんで?」
「素材として優秀だから」
「素材って……俺、宇宙人じゃないよ?」
「知ってる。でも、妄想系男子ってタグにできる」
「それ、バズるの?」
「たぶん。あと、“隣人男子”っていうタグもある」
「それ、俺のことじゃん!」
放課後、校舎裏の階段。佳奈子はスマホを構え、和也にポーズを指示する。
「ちょっと遠くを見て。宇宙を感じて」
「宇宙は感じるけど、まぶしい」
「じゃあ、手で光を遮って。そう、銀河を見つめる感じ」
「俺、銀河見たことないけど……」
「妄想で補って!」
何枚か撮った後、佳奈子は満足げにうなずいた。
「いい感じ。“#妄想系男子”“#隣人男子”“#銀河を見つめる午後”で投稿する」
「それ、誰が検索するの?」
「わからない。でも、誰かが見つけてくれるかもしれない」
翌朝、佳奈子はスマホを見ながらニヤニヤしていた。
「鈴木くん、昨日の投稿、いいねが12件ついた」
「それって……多いの?」
「私の過去最高は7件だから、倍近い」
「それ、俺の顔の力?」
「いや、タグの力」
「タグってすごいな……」
しかし、事態は思わぬ方向に進んだ。
昼休み、2年生の女子が佳奈子に話しかけてきた。
「ねえ、“隣人男子”って鈴木くんのこと?」
「え、あ、はい……」
「かっこいいね。あの銀河の写真、保存した」
「保存!?」
佳奈子は焦った。
「鈴木くん、ちょっと来て」
「え、俺、今、艦隊の修理中なんだけど」
「現実に戻って。写真、ちょっとバズりかけてる」
「それって……俺が有名になるってこと?」
「いや、タグが有名になってる」
「タグって、人格あるの?」
その日の放課後、佳奈子は投稿を削除した。
「なんで消したの?」
「ちょっと怖くなった。誰かに見られるのは嬉しいけど、知らない誰かに“隣人男子”って呼ばれるのは……なんか違う」
「俺も、“銀河を見つめる午後”って言われたら、ちょっと恥ずかしい」
「でも、写真はよかったよ。ありがとう、和也」
「どういたしまして、佳奈子」
名前で呼び合うのは、マンションの前だけ。
でも、時々、こうして“素”が出る瞬間がある。
SNSよりも、タグよりも、二人の間にはちゃんとした言葉がある。
そして、帰り道。
「次は、“妄想系男子と優等生女子の漫才”ってタグでいこうかな」
「それ、また俺が素材じゃん!」
「だって、素材力あるもん」
「俺、宇宙よりも使われてる気がする……」
二人は笑いながら並んで歩いた。
バズらなくてもいい。誰かに見られなくてもいい。
隣にいる誰かが、ちゃんと見てくれていれば。




