#7隣に座る理由
※理解できない相手と、離れられない話です。
食堂に入ると、すでに食事が並べられていた。
ハルモンは当然のように席に着いた。
俺は一瞬、足を止めた。
……隣か。
向かいに座るべきかと考える。
だが、ハルモンは何も言わない。
隣の席を空けたまま、食事に手をつけている。
――いいのか。
結局、俺はハルモンの隣に座った。
ハルモンは何も言わない。
まだ眠いのか、目が半分ほどしか開いていない。
手は止まらない。
淡々と、食べている。
……食べるんだな。
さっきの様子からして、途中でやめるかと思ったが。
俺も、食事に手をつける。
しばらく、会話はなかった。
食器の触れる音だけが、小さく響く。
食事を終え、部屋に戻る。
「おいしかったねー」
ハルモンはそう言って、いつものように笑った。
「……さっきは、どうした」
「ん? なにが?」
きょとんとした顔でこちらを見る。
本当に、分からないらしい。
「……いや、なんでもない」
「そう?」
少しだけ、間が空いた。
「……僕、今から少し作業するね。ライ君は、好きに過ごしてて」
そう言うと、ハルモンはこちらを見ることもなく作業台へ向かった。
……好きに過ごせと言われても、やることはない。
部屋を見まわす。
(……片付け、だな)
俺は、散らかっている本や紙を手に取った。
昨日からやっていた本棚の整理が、だいたい終わった。
今にも崩れそうな危うさはなくなり、ひとまずは安心だ。
俺は次に、ハルモンの作業台近くの棚へと目を向ける。
大量の瓶がぎっしりと詰め込まれている。
ひとつひとつにラベルが貼られている。
手近なものをひとつ取り、視線を落とす。
『空腹かどうかが3秒遅れで分かる薬』
丸い字で、妙に丁寧に書かれている。
(……遅くないか?)
……やめた。
瓶をひとつずつ取り出していく。
中身が空のもの。
蓋がなく、欠けているもの。
……欠けているものは危険だ。
それらを選り分け、テーブルの上に置く。
しばらく続けると、棚は見違えるように整った。
だが、代わりにテーブルの上には瓶の山ができていた。
その光景に、思わずため息が出た。
(……後で、どうするか聞くか)
一休みしていると、部屋の戸が叩かれた。
「お食事の準備が整いました」
「はーい」
ハルモンは作業をしながら返事をする。
そのまま続けるのかと思ったが、切り上げることにしたらしい。
ペンを置き、椅子から立ち上がった。
そして、テーブルの上の瓶の山に目を向けると、目を丸くした。
「……え、なにこれ? どうしたの?」
「……中身が空のものと、欠けたものを出しただけだ」
「へー! こんなに溜まってたんだ。棚スッキリしたね」
ハルモンは、手に取った瓶をテーブルに戻した。
(……戻すな)
「ライ君、行こ」
そう言うと、先に部屋を出て行ってしまった。
つい息が漏れる。
(……他人事だな)
俺も続いて部屋から出た。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『理由にならない理由』。
いままで、女中が誰一人として触ることができなかったハルモンの汚部屋。
ライの介入で少しずつ整い、過ごしやすい空間になっていきます。
……このまま、のんびり二人で暮らせればいい。
でも、やっぱりそうもいきませんよね。
王都に戻ったハルモンには、やるべきことがあるのでした。
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