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「通行の邪魔だ」

※理解できない相手と、離れられない話です。

俺の人生は、この男に壊される。


相手は、未来を外さない魔導士だった。


——なのに、なぜか俺は離れられなかった。


その理由を、俺は最後まで理解できなかった。
















薬作りの材料を求めて、国で一番大きな港町まで来てみた。


けれど僕は今、そのことを猛烈に後悔している。


王都ではさほど問題にならなかったが、生まれ持った金髪と整った顔立ちが"目立ちすぎる"のだ。










「こんにちは。これとこれでいくらになりますか?」


商品を手に店主に尋ねる。


しかし、目が合っているのに返事は一向に来ず、沈黙が流れる。


(あれ、聞こえてない?)


「あのー」


もう一度声をかけると、店主は慌てた様子で「は、はい!?すみません、何か言いました?」と返事をした。


「ええと……」


もう一度話をしようと口を開くと、後ろを通りがかった人たちが立ち止まり、ヒソヒソと話し出す。


「きれい……」「女の人?」などと話す内容が聞こえてくる。


(……すごい見られてるなぁ…)


居心地の悪さを覚えて、一旦立ち去ろうかとした時、小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、何かが地面に落ちるような物音がして、空気がざわついた。


とっさにそちらを向くと、数人の男たちが近づいてきて、あっという間に僕の周りを取り囲んだ。


「これはこれは……ものすごい別嬪さんだ。なぁ、ちょっと向こうで遊んでかないか?」


「安心しな。痛いことはしないからさぁ……」


そう言って、腕を掴まれる。


……まずい。これは完全にまずい。


声を上げるべきか迷ったが、かえって事を大きくする気がして、口を閉ざした。


僕が抵抗を試みようとしたそのとき。


「おい、通行の邪魔だ」



振り向くと、背が高く大柄の男がいた。


僕の周りにいた男たちは、その姿を見て後ずさる。


「おい、まずいぞ……。あいつは"森を歩く災い"を一人で倒したって有名な……!」


「まさか、『獣哭のカライス』か!?」


そう言うと、男たちは怯えたようにすぐ逃げ出した。


大柄の男は、「全く……」と深いため息を吐き、走り去る男たちを見ていた。


「助かりました!ありがとう」


お礼を言うと、彼は少し驚いた顔をした。


「別に。……お前、男なんだな」


「ははは……それ、よく言われるよ」


大柄の男は「気をつけろよ」と言い残すと、スタスタとその場を立ち去って行った。


僕は、彼の後ろ姿を少しの間眺めた。


(すごいな……。兵士、とかなんだろうか。周りの人たちよりも一回りくらい大きい。見た目からして強そうだ)


彼は歩きながら、時折り店の人と会釈したりもしている。


知り合いがいるということは、地元の人間なのだろう。


(さて、僕も頑張って目的を果たさないとな)


僕は気を取りなおすと、薬の材料探しを再開したのだった。








俺は予定していた買い物を済ませ、自宅に帰ろうとしていた。


すると、市場の方から悲鳴や罵声が飛んできた。


「一体何の騒ぎだ……」


今日は非番なので行く必要はないのだが、もはや諍いを仲裁することは俺の習慣になっていた。


途中、知り合いの男性を見つけ、声をかける。


「何があった?」


「ああ、カライス!なんでもすごい美人がいるって聞いて見に来たんだ」


「……まさか……」



そのまさかだった。


ついさっき、諍いを収めて別れたあの男が、今度は街の女性たちに取り囲まれている。


「おい、お前たちいい加減にしろ」


怒声を効かせると、人だかりはまるで蜘蛛の子を散らすように消えていった。


俺は、真ん中にいたくたびれた様子の男に声をかける。


「お前、ちょっとこっちに来い」


男はきょとんとして動かない。


俺は男の腕を掴むと、そのまま商店街を通り過ぎて街の出口の方へ向かう。


「あの……どこへ……?」


「人目のないところへ行く。ちょっと黙ってろ」













大柄の男に腕を引かれて連れてこられたのは、人気のない丘の上だった。


そこからは、街と港、そして海が一望できる。


心地の良い風が吹いて、胸のつかえが解けていくようだ。


「……あの、また助けてくれてありがとう」


「別に。ただの習慣だ」


習慣、と彼は言ったが、僕はその中に、人としての優しさを感じずにはいられなかった。


「僕、この顔だから、この街に来てから絡まれて絡まれて……。ただ買い物しにきただけなんだけどな」


つい、今日の出来事の愚痴を口にしてしまう。


こんな、他人に対する自慢にもとれるような愚痴を言っても、彼は表情一つ変えない。


ただ、「それは災難だったな」とだけ言った。


僕は、少しほっとしてつい笑顔になってしまう。


「……君が一緒にいてくれたらはかどりそうなんだけどな。今日だけ護衛してくれない?」


なんて冗談——と言いかけたところで、彼からの返答は予想外のものだった。


「別に構わん。今日は非番で、用も済んだところだしな」


「ほ、ほんとに!?」


「このままお前をここに放置したら、またあちこちで諍いが起こるのは目に見えている」


彼は、「さっさと済ますぞ」と言い、丘を下っていく。


僕は慌ててその後ろ姿を追いかけた。

















「へぇ、やっぱり君は騎士なんだね。さっき初めて会った時、強そうだなって思ったんだ」


「……別に大したことじゃない。たまたま、他のことより剣が得意だっただけだ」


お互いのことを話題に、雑談しつつ港の市場を見て回る。


「……あ!これ探してたんだ!今作ってる『集中力が散る煙』にも使えそう〜」


「集中力が散る?何に使うんだ」


「思考が横道にそれるようになるから、逆の薬を作る前段階になるかと思って。まだ使い道は決めてないけど」


俺は、何て返していいか分からず黙った。


今日、ここまで同行したことで、この『女のような顔をした金髪のとても目立つ男』はハルモンという名であること。


そして、薬作りや呪いを生業とするいわゆる『魔導士』で、王都から薬の材料を求めてこの街を訪れたことが分かった。


あと、真面目な顔でよく分からないことを考えている奴だということも、分かった。

















ようやく、目的のものが見つかり買い物が終わったらしい。


こちらへ向くと、彼はにっこり微笑んだ。


「今日は本当に助かったよ!……はい。これ今日の護衛の報酬」


そう言うと、皮の巾着袋から銀貨を取り出し、こちらの手に押し付けてきた。


「報酬?後ろに立ってただけだぞ」


「それでも助かったから受け取って。……ねえ、この街に来た時は、またお願いしてもいい?」


その言葉に、俺は少しだけ黙って考えた。


でも、断る理由も思いつかなかった。


「ああ……非番の時ならな」


「ありがとう〜!……あ、あとよかったらこれもいる?『声が一音だけ低くなる薬』なんだけど」


「……なぜ」


「君が、今よりもさらにカッコ良くなるかと思ってさ!でもまあ、効果は1時間くらいしか保たないんだけどね〜」


「俺の声で遊ぼうとするな」










この出会いの後、街ではこんな噂が聞かれるようになった。


「この前、市場であの『獣哭のカライス』がものすごい美人を連れて歩いてたって話、聞いた?」


「ずいぶん絵になる組み合わせだったらしいよ」


俺は、すべてを聞こえなかったことにした。













その後、ハルモンは数ヶ月に一度、カライスの住む街を訪れるようになる。


彼は人目を避けるために宿を隣町に取り、さらに顔を半分ほど覆うフード付きの外套を身につけるようになった。


そのため、前ほど目立つことはないと思うのだが、俺は相変わらず『護衛』として彼の後ろに立っている。










その日も、彼の作る『意味があるのかないのか分からない薬の話』を聞かされながら、港の市場を歩き回った。


そしてその帰り際、彼から「今日は君にプレゼントがあるんだ」と切り出された。


「プレゼント?」


「うん。しばらくここに通ってて思ったんだけど、せっかく来るなら、事前に君の非番の日を知りたいなーと思ったんだ」


そう言うと、鞄の中から何かを取り出す。


「はい!これは《連結子(リンク)》っていう魔道具でね、遠くにいる人と会話ができる優れものなんだ」


「遠くにいる人と、会話?」


「そう。僕も同じ物を持ってるんだけどね。相手からこの道具で連絡が来ると、少し光って温かくなる。手に乗せたらもう喋れるからね」


「なるほど……?」


「これ、材料が貴重でけっこう珍しい品物だから。大切に扱うように!……それじゃ、またね!」


「あ、おい……」


ハルモンはこちらに手を振ると、フードを深く被り直して行ってしまった。


俺は、押し付けられたそれに視線を落とす。


(流れで受け取ってしまった……。しかし、事前に連絡を取れるのはたしかに便利……いや、便利とは……?)


少し考えたが、俺はハルモンの話を否定できなかった。


はぁ……とため息をつき、俺はそれをポケットにしまった。













ここまで読んでいただきありがとうございます。

この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。

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