第三話 刀と咆哮
《リヴァース》郊外、円形演習場。
今日もまた、プレイヤーが集まっていた。
目的はただ一つ。
「あれが、蒼牙閃流のKAI、、、」
「毎日ここで2〜3時間は斬ってるらしいぜ」
「見れるだけでも十分価値あるよな、、、」
観戦者たちが広場の縁から注視するなか。
中央で、廻はモンスターを斬っていた。
いや、“斬る”というより、もはや『切断挙動の研究』に近い。
「判定開始から0.12秒で切り結び成立。モーション反応は誤差許容、、、」
ブツブツと呟きながら斬るその様子は、傍から見れば狂気じみている。
だが、それでも彼の剣筋に見惚れる者は多かった。
「あの集中力、、化け物だな」
「やっぱ本物の剣士って、どっかイカれてるよな」
「あれが、、100%の世界か、、」
廻の痛覚再現率が100%であるという噂は、確証こそないものの、観戦者たちの中で“暗黙の常識”となりつつあった。
それを裏付けるように、廻の挙動は異常に研ぎ澄まされていた。
まるで一振りごとに命を懸けているような、張り詰めた動きだった。
そこへ、一人の挑戦者が現れる。
「、、、よう。お前が蒼牙閃流の創始者か」
フードを脱ぎ捨て、銀髪の少女が前に出る。
腰には、未登録の《曲刀型》の刀身。
その名を、鋼焔刀。
「俺と、手合わせしてくれ」
観戦者たちがざわめく。
「うお、挑戦きたぞ!?」
「しかも、、、あの子、確かPvPランク上位の《白刀のレア》じゃね?」
「やべぇやべぇ、マジの剣士同士の戦いやん、、、!」
廻は視線だけで彼女を捉え、そして言った。
「悪ぃが、俺は“お試し”で剣を振る気はねぇ」
そう言って、腰から“木刀”を外そうとしたが、止まった。
その瞬間、何かが壊れたような音が、画面の隅から響く。
【SYSTEM】
《初期装備・訓練用木刀》は耐久度限界に達しました。
「、、、タイミングってやつか」
木刀の断片を草の上に置くと、廻はインベントリから一本の“黒い刀”を取り出す。
鍔無し、漆黒の居合刀。
鍛冶クエストで極秘に手に入れた、未登録品。
観戦者が息を呑む。
それは、彼が初めて“木刀以外”を使う瞬間だった。
廻はレアへ言う。
「俺は“手合わせ”なんて言葉は嫌いだ。、、、紛い物であろうと命を賭けろ。俺もそうする」
レアの目が光る。
「、、、上等」
瞬間、両者が地を蹴る。
刹那、演習場に鋼がぶつかる咆哮が響き渡った。
◆
それを、街のモニターチャンネルで見ていた者がいた。
PvPギルド《黒羊の書架》の幹部、《ジーク》。
冷笑を浮かべながら言う。
「ようやく、表に出たな。“本物の剣”ってヤツが」
その後ろでは、観戦プレイヤーたちが次々と録画を開始する。
《ZENO-GEAR》において、名を持つ者は常に“見られている”。
木刀の終わりは、“剣士”としての始まりだった。
そして今、廻が初めて“斬り合い”の意味を知ることになる。