第四話 蒼牙閃流、受け継ぐ者
刃がぶつかった瞬間、空気が裂けた。
音ではない、“圧”のような衝撃が観戦者たちの鼓膜を打つ。
「すげぇ、、、刀同士がぶつかるだけで、空気震えてるぞ!」
「これ、システム演算に負荷かかってんじゃねぇか、、?」
その交差は、ただの斬り合いではなかった。
身体の重さ、反応、間合い、視線誘導。
リアルを極めた剣士同士だからこそ見える“先”を奪い合う戦いだった。
廻の刀は無銘の居合刀。
一見すれば地味な装備だが、切れ味と応答精度は初期装備の木刀とは次元が違う。
それでも、廻の挙動は以前と変わらないように見えた。
だが。
(速い、、いや、速いだけじゃない。あれは、、、全て“確信”の上で動いてる)
レアはすでに悟っていた。
この男は、“反射”ではなく“判断”で0.1秒を切る。
ふざけた話だ。
自分は痛覚再現率45%。
反応精度を高めつつギリギリの安全圏。
それでも、廻の動きについていけない。
予測しても、読み切っても、彼の斬撃には届かない。
「やっぱり、、そうか、、、!」
レアは叫ぶように言った。
「お前、痛覚100%だな、、!それで、その速度なんだろ、、、!」
観戦者たちがざわつく。
「やっぱそうなのか!?」
「だからあんな正確な踏み込みが、、!」
「剣の一振りに命乗ってるもんな、あれ、、、」
廻はそれに答えない。
ただ、剣を構え直しただけだった。
「俺の痛覚の事なんざ、今はどうでもいい、、、お前の剣を見せてみろ」
レアの目に、怒りではない感情が宿る。
焦り、悔しさ、そして、歓喜。
「ああ、、、それじゃあ、遠慮なくいくぞ!《白刀流・咆閃乱牙》!」
曲刀が三連続で閃いた。
風と共に踊るようなその技は、まるで“舞”のようでありながら、すべて急所を狙っていた。
しかし、廻はそれを一歩目で崩す。
二歩目で“逆足”を切り込ませ。
三歩目で構えを破壊し。
「斬り返しが、甘ぇんだよ」
黒い刀が、レアの肩口を正確に斬り裂く。
身体が光に分解される寸前、彼女は震えた声で言った。
「、、斬られて、分かったよ。あんたの剣、、ほんとに“命”の乗った、、、最高の剣だ、、!」
そして崩れる。
《プレイヤー勝利:報酬・名声+50/カルマ値±0/経験値+585》
《レベルがUPしました》
「当たり前だ」
◆
こうして、短くも見応えのある戦いは終わった。
観戦者たちは沈黙し、やがて拍手と歓声が爆発する。
「感動した、、、!」
「やばい、、ZENO史上初の“刀vs刀”の真剣勝負、見ちまった、、、」
「あれがKAI、、蒼牙閃流の創始者、、、!」
KAIはその喧騒の中、ただ一人静かに剣を収めていた。
黒い刀を腰に納め、背筋を伸ばして空を見上げる。
(まだ物足りんが、悪くない相手だった、、)
そこへ。
リスポーン直後のレアが現れる。
ダメージはなく、装備も無事。
(ん、、?草原で切った奴らみたいに、アイテムを落とすんじゃないのか?、、、もしかすると、合意の上での戦闘は、試合判定になるのか?)
KAIが思ったその時、レアが言った。
「、、、なぁ、KAI。俺を、“蒼牙閃流”に入れてくれないか?」
彼は少しだけ目を細めた。
「そもそも、俺の剣術を流派と判断したのはゲームであって俺ではない。それに、剣術ってのは習うもんじゃねぇ。、、、見て、感じて、奪え。俺がそうしてきたようにな」
レアは笑う。
「、、、それ、つまり“弟子入り”認めてくれたってことだよな?」
「、、、はぁ、好きにしろ」
新たな継承者が、ここに生まれた。
そしてKAIは、己の剣が“流派”になったことを、ようやく認識する。
「あ!あとこれ」
レアはそう言って自身の愛刀、鋼焔刀を廻へ渡す。
「、、、命の代わりか?」
「あぁ、命を賭けたからな、、、そ、それで、烏滸がましいのは承知で頼みなんだが、、、」
「なんだ?」
「売り払っても文句は言わねぇけど、、で、できれば、いつか俺があんたに勝つまで、大事に取っておいてくれると、、、助かる」
恥ずかしそうに、頼むレアを見て廻は鼻で笑う。
「はっ、、それは確かに烏滸がましいな。だが、いいだろう。お前のその恥を承知での願いに免じて、売らずに持っていてやる」
だが、その顔は少し嬉しそうな顔でもあった。




