第五話 名を持たぬ剣、牙を得る
《ZENO-GEAR》公式掲示板。
PvP関連スレッドに、今朝から《KAI》の名が踊っていた。
【速報】初期装備→木刀でレッド4人斬殺した奴、今度はPvPランク《白刀のレア》とタイマンで勝利
→動画:『蒼牙閃流 vs 白刀流』【AI推薦教材:実戦剣術】
《痛覚100%説》の検証してみた【KAIスロー解析】
→0.13秒反応×逆足フェイント→剣速補正入ってねぇのマジ?
【討論】KAIはガチの“リアル剣士”説【ZENO最速?】
視聴数、拡散、教材評価ランク。
全てが爆発的に伸びていた。
その日、《KAI》という名前は、《ZENO-GEAR》全域に“知れ渡る”。
◆
《リヴァース》西地区、《黒羊の書架》ギルド本部。
重厚な石造りの館に、情報分析部の少女が駆け込む。
「ジークさん!例の《蒼牙閃流》、、、本当に実在しました!」
奥のソファで足を組んでいた男、ジークが片目を開ける。
「、、、KAIの話か、、知ってる。リアリタイムで見たからな」
「木刀での4人斬り映像は確認済みでしたが、今回はランク戦常連のレアを相手に完勝です!しかも、使ったのは無銘の黒刀!非公式レシピで鍛造されたものと見られます!」
「流派も自動登録。本人は流派とすら思っていないが、AI評価は教材ランクA。、、、まさに、怪物」
ジークは立ち上がり、壁の剣を見つめた。
「ならこちらも、“牙”を向けてやらねぇとな。、、、KAIには会いに行く。正式に、“挑戦状”を出す」
「、、、では、勧誘方法は、交渉ではなく戦闘で?」
「当然だ。、、、俺たちは、剣で語る流派だろう?」
◆
《リヴァース》の道具屋。
KAIは腰に佩いた黒刀を外し、手入れ用のオイルを買っていた。
道具屋のNPCが淡々と話す。
「その刀、見るに鋼層が不規則ですね。よくもまあ、実戦で、、、」
「実戦に使えるかどうかは、刀のせいじゃねぇ。持ち主の問題だ」
「、、、ふふ、真の剣士様というのは、皆さんそうおっしゃいます」
それを聞いていた後ろのプレイヤーが、ついに話しかける。
「なぁ、あんたKAIだろ?」
KAIは振り返らない。
「、、、だから何だ」
「俺、、、いや、俺たち《アスクレウス》は、あんたに挑みたいんだ。ギルド単位で、“流派”に対して」
KAIは肩越しに言う。
「俺は弟子も募集してねぇし、教える気もねぇ。ただ斬り合いたいなら、いつでも来い。、、、その代わり、命を賭けるつもりで、お前らの全てを賭けろ」
その言葉を聞いたギルド員は頷き、立ち去っていった。
それは、《流派》という言葉が持つ意味を、《ZENO-GEAR》の世界に刻む一歩だった。
◆
同じころ、運営本部・監視システム室。
AI通知ログのモニターに、新たな行動履歴が記録されていた。
【高速度反応ログ】プレイヤーID:《KAI》
反応予測域オーバー値:16連続記録
痛覚再現推定値:96%超(誤差±4%)
標準プレイヤー反応閾値を著しく逸脱中
職員の一人が呟く。
「またか、、、これは、本物の“イカれ野郎”が来ちまったな」
その背後の別室では、《KAI》の戦闘記録を閲覧する男がいた。
プレイヤー名、《LUX》。
元ランキング1位、現在失踪中。
その口元が、わずかに笑った。
「ようやく、、、ようやく、“獲物”が来たか」
名を持たぬ剣は、いつしか“牙”を得る。
その咆哮は、まだ始まったばかりだ。




