第二話 影と名と、鋼の誓い
《旧訓練場跡地》を抜けた廻は、街の北門前に姿を現した。
斬り、そして、何も得ずに去ったあの戦い。
それが波紋を広げていたことに、彼自身はまだ気づいていない。
◆
「おい、あんた、、、もしかして、《KAI》って名前の剣士か?」
声をかけてきたのは、短身で茶髪の軽装剣士。
装備は一式整っているが、表情は怯えにも似た警戒心を張っている。
「見てたのか?」
「見てたっていうか、、、流れてた。公式チャンネルで」
「なるほど、、、勝手に撮られたってわけか」
淡々と応じる廻に、軽装剣士が息を呑む。
「な、なぁ、あんた、、痛覚、100%、、、なんだろ?」
問いかけというより、確認だった。
しかし、廻は心底つまらなそうに。
「それがどうした」
そう言って、去っていった。
その剣士は、それ以上何も言えず、その後ろ姿を眺めるしかなかった。
(名前が一人歩きしてるな、、、気に入らん)
彼は軽く舌打ちする。
廻は知らなかった。
あの“蒼牙閃流”の登録と同時に、彼のID《KAI》は一部プレイヤーの間で《リヴァースの鬼》として語られ始めていたことを。
そしてもう一つ。
あの戦いが、ある“管理側”の目に止まったことも。
◆
時を同じくして、ZENO-GEAR運営本部。
通称。
システム制御室にて、一人のAI監視官がログを確認していた。
「、、また、予測外の挙動。ログナンバーA-70387、御剣 廻、ID:KAI」
隣にいた技術監査が苦笑する。
「AI評価ランクAの教材指定ってのも久しぶりですねぇ。しかも、レベル1の木刀使いって」
「問題はそこじゃない」
AI監視官はモニターを切り替え、プレイヤーステータスの断片を示す。
「感覚反応応答時間、0.14秒」
「それ、100%痛覚設定時の理論値じゃ、、、」
「だが、現時点で公式には“設定データ未開示”。本人のみが知る領域だ」
「なるほど、、、」
監査員は手を組む。
「なら、しばらく泳がせてみますか?“剣士型AIの対人挙動研究”って名目で」
AI監視官は無言のまま頷く。
そして、密かにプロファイルを開く。
【個別監視対象:No.00103《KAI》】
備考:接続時間パターン・行動傾向・戦闘映像の蓄積を優先。
◆
その夜、リヴァース郊外の草原。
廻は、ひとりで雑魚モンスターを斬っていた。
目的は経験値ではない。
システム側の斬撃判定。
それがどう“ズレる”かを確かめるため。
「リアルより、ほんのわずかに深い。距離感が甘くなる、、、いや、追従処理のせいか?」
木刀を納め、彼は空を見上げる。
「まだ、全然斬れてねぇ」
その時。
森の陰から、一人の影がこちらを注視していた。
フードを被った少女。
手には“刀”。
「、、あれが、《蒼牙閃流》創始者」
その目には、ただの敵意ではない。
憧れにも似た、微かな“焦り”があった。
名を持つ者は、名を求められる。
御剣 廻という剣士の物語は、まだ始まったばかりだ。




