第八十話
植物など何も生えてない岩ばかりの場所が見える近くに四人は降りた。
目の前に広がるのは、人の背丈程の岩があちこちにありそれ以外は砂地だった。ここは、岩砂漠と言われる場所だ。
「このずっと先よ。馬はここに置いて行くわ」
森を抜けてからはほとんど草木がなくなり、降りた所は木がありそこに馬をくくり付ける。
「聞いた事があります。草木が生えない砂漠と言う土地だと。本当に何もないのですね」
レオナールは、風景を眺め言った。
四人は歩き始める。下が砂で歩き辛い。しかも風が吹くと砂埃が舞って更に歩き辛くなる。
暫くすると、人が手を加えただろうと思う岩が目に飛び込んで来た。その岩に足場が組んである。
「もしかしてあれ?」
エイブが言うとミュアンは頷く。
「なるほど。岩を削ったのですね」
そこら辺にある岩は別に黒くはない。足場が組んである岩もだ。ただし、削ったと思われる場所は、黒っぽく見える。
「取りあえず、岩を囲む様に三か所に魔法陣を……」
ミュアンが話していると、人の気配を感じ四人は振り向くと岩陰に人が佇んでいた。
「コーデリアさん……」
レオナールがボソッと呟く。
彼女は頭からフード付きのローブを羽織り、こちらをジッと見つめていた。
「お久しぶりね、コーデリアさん」
「本当にレオナールと一緒に……」
ミュアンの挨拶にコーデリアは答えずそう呟く。そして俯いた。
「ミュアン様、申し訳ありません。十八年前、あなたの指示に従っていたならばこんな事にはなっていなかったのでしょうね。でもあの時は、ギデオンを普通の人にはしたくなかったのです!」
「やはり前から知り合いだったのですね……」
コーデリアは素直に頷く。
「わ、私を殺しに来たのですか?」
声が届くか届かないかのか弱い声でレオナールは聞いた。それにコーデリアは首を横に振る。
「あなたを救う為に来ました……」
「え?」
コーデリアの意外な言葉にレオナールだけではなく、全員が驚いた!
「私達を襲った時、あなたの息子ははっきりと言っていましたよ。この王子は殺されると!」
ミュアンが叫ぶとコーデリアは頷く。
「ハミッシュが何とかレオナールを救おうと言った言葉でしょう」
「意味がわかりません!」
コーデリアの言葉にレオナールは叫ぶ!
「そうですね。ミュアン様を止める為にもお話しします。ですから魔力を開放するのだけはやめてほしいのです! ハミッシュが殺されます!」
懇願するようにコーデリアは叫んだ。
「私があなたを止めれば、私の国には手出ししないと約束してもらいました! レオナール、私と一緒に戻りましょう!」
「な、何をいまさら……」
レオナールは、首を横に振る。
「ハミッシュが何故そう言ったのかお話ししますから……」
「では、聞きましょうか。私の命を狙った経緯も含めて」
レオナールではなく、ミュアンが答えるもコーデリアは頷き、静かに語り始める――。
コーデリアはギデオンとの出会いから話し始めた。
ギデオンが近くの草原に、妻と子の為にと一人で薬草を摘みに来て、足を怪我した所にコーデリアと出会ったのが始まりだった。魔術師であるギデオンは、警護など必要ないと日ごろから国内では一人で行動していた。それに本来なら一般の者が立ち入る事がない草原だった。
コーデリアは「これは怪我に効く薬草ですよ」とギデオンの足の手当てをした。それからは彼が王とは知らずに、この草原で薬草摘みを手伝うようになる。
一年程たったある日、ギデオンは自分の正体を明かしコーデリアに求婚した。彼は、レオナールの為に薬師の知識がある彼女ならよいと思ったのだ。だが、コーデリアは自分は魔術師だと明かし断った。すると彼も魔術師だといい、問題ないと言う。
ギデオンは、考えて欲しいとコーデリアに言ってその日は別れた。そして数日後、国に戻るように言われ戻ると、コーデリアは婚約を言い渡され文献を読まされた。
そこでハルフォード国自体が魔術師の国だという事を知る。そして、ラミアズア国しか知らない魔法陣を調べるように命令される。何故、そんな物が必要なのかと問うが黙って命令を聞くように言われる。自分が王妃になれば、もっと簡単に調べられるのにと思っていた。
しばらくして、魔法陣の情報を盗んでいる事がバレた。そしてサラスチニ国の第二王女ステラミリスから逃げる様に言われる。彼女は、魔法陣を盗む事にも反対している人物だった。
コーデリアは、不本意ながらもヘルムートと逃げる事になった。そこにミュアンが接触してきた。殺されるのかと思いきや、封印を解きたいと言ってきた。ふとギデオンの顔が浮かんだ。彼が一般人なら別にいい。だが彼は王だった。普通の人間にしたくない。そう思い断ったのだった。
その後、ギデオンの求婚を受け入れ結婚するとハルフォード国を訪れる。しかし、条件を出した。自分は国を捨てて来た。それでもいいのならと過去の事は何も聞かないと約束させる。そして次の年にハミッシュが生まれる。
レオナールの為にブラッドリーが薬草を育てていた。コーデリアは、盗み見た魔法陣を組み合わせる事によって、薬草の医薬効果を高める方法を思いつく。それをレオナールとブラッドリーの三人で試してみた。その試みは成功し、レオナールによく効く薬が調合できるようになった。そして彼はコーデリアに懐き、トライアングルを習いたいと言ってきた。
レオナールは勤勉で、魔術が得意ではないが習得したのである。薬師にもなりたいと言っていた。だがギデオンは、いづれ王になるレオナールには必要ないと思っているようだった。そこでブラッドリーが医者になりたいと思っていると聞いて王宮専属になる事をすすめる。
自分自身は、薬師ではないので王宮内の技術は盗めなかった。その知識が手に入れば、自分にも教えて貰おうと思ったのだ。それをレオナールに教えてあげる。その考えはサラスチニ国で過ごして来た彼女には当然で罪悪感はなかった。それどころか名案だと思っていた。
ブラッドリーが王宮専属に受かった後、レオナールが自分も薬師の試験を受けたいとコーデリアに相談してきた。薬師にならずとも自分が教えてあげると言うと、ちゃんと習いたいのだと言い張り、仕方なくギデオンに内緒で受けさせた。
それから七年後、レオナールが二十歳になった時、彼が王宮専属になりたいと悩んでいる様子だった。
ブラッドリーは王宮専属になってほとんど帰ってこなかった。コーデリアの思惑とは違っていた。そこで、彼を王宮専属に送り込もうと思った。王子ならずっと向こうにいる事もないだろうと思い何気なく勧めた。自分はレオナールから教わろうと思ったのだ。ところが、レオナールが王宮専属になると言うと、ギデオンが激怒した! そこまで怒ると思っていなかったコーデリアは困ったが、グスターファスが彼をなだめてくれた。
グスターファスは、激怒したギデオンが自分達が魔術師だと暴露しても受け入れてくれたからだ。
その頃から魔術師の組織の話がちらほら耳に入るようになる。コーデリアは文献を読んでいたので、魔術師がいる国が他には、ヴィルターヌ帝国しかない事を知っていた。魔術師の組織は、サラスチニ国かどちらかだろうと推測する。
サラスチニ国ならば、この国が魔術師の国だと最初から知っている。そして、サラスチニ国にから逃げる時に、ミュアンに言われたのである。サラスチニ国は、世界征服を企んでいると。だからそうさせない為に手を貸してほしいと頼まれたのだ。
コーデリアは、魔術師の組織がサラスチニ国の者だと見当をつけた。そしてある計画を練る。それは国に人を入れるのに検問する事だった。簡単に入り込めない様にしようと考えた。それには理由がいる。だがギデオンにはそれを言えない。
そこでコーデリアは、レオナールに魔術師を集めさせる事にする。その為に国を厳重にするのを口実にする作戦だ。レオナールをたきつけ、準備を整えて行った。その作戦自体は成功した。しかし、レオナールの立場が悪くなってしまった。
ギデオンは、レオナールが医者になりたいと思っていると知って悩んでいたのだ。後はハミッシュに継がせ、レオナールは好きにさせようかと。ところが、魔術師だと世間に暴露した!
エクランド国は受け入れてくれるかもしれないが、他国はそうはいかない。ギデオンはレオナールの考えている事がわからなかった。コーデリアも今更本当の事が言えず、レオナール側に回るもレオナールは孤立していく一方だった。
そしてコーデリアは、自分が犯した事の重大さに気づくことになる。もう既に組織の者は入り込んでいた。レオナールが、刻印を施された者を国に連れて来た事により相手が動き始めたのである。
レオナールがすぐに国を立った後、その者は始末された。そして、ギデオンが拘束されたのだ。レオナールが魔術師だと名乗った事により表に出ないようにしていたコーデリアは、既に調べ上げられ監視されていたのだった。
それからすぐにレオナールからミュアンの事を調べて欲しいと連絡が届く。それは組織の者も目にする。調べろという事は、ミュアンだと思う人物に出会った事を意味する。そしてこの時に、レオナールが組織にとって目障りな存在となり、ミュアンがアイテムを持っている事が脅されて話したコーデリアによって組織に伝わっていた。
このままではレオナールが殺されると思ったハミッシュは、ミュアンを殺害すると自ら名乗りを上げ国の外に出る事に成功する。彼はレオナールに接触し今の現状を伝えようと思っていた。だが、組織の者が先手を打っていた。レオナールが国に戻って来るようにミュアンの情報と共に送り付けていたのである。
何も知らないレオナールとハミッシュは入れ違いになってしまう。いないと知ったハミッシュは、仕方なくミュアンと接触を図る事にする。襲うふりして伝えようとするが、ルーファス達がいて上手くいかず、仕方なしにレオナールを呼び戻して貰えるように殺されると告げる。
そこにトンマーゾが現れ、ハミッシュは追い詰められ刺されてしまう。
またハミッシュがレオナールと接触を図ろうとしている間に、コーデリアはギデオンを助け出す手はずだった。助け出す事に成功するが、ハミッシュが刺されたと言われ、いう事を聞かないとハミッシュを殺すと脅される。
コーデリアは、何とかしようと交渉する。そしてハルフォード国は、これからは組織には何も関わらないとした上で、ミュアンからアイテムを回収する事を約束する。
そして、この岩砂漠に行くように命じられる。そこにミュアンと一緒にレオナールも現れるはずだと。成功すればレオナールと一緒に国に無事返してやると約束を交わしたのである――。




