第八十一話
コーデリアの話しに四人は驚く。
「で、では、あの水を掛けた者達は、あなたがよこした者ではないのですね?」
「水? いえ、私は……」
コーデリアの態度を見てレオナールは安堵するも、何故最後まで信じなかったのだと自分を責める。
「ちゃんとハミッシュから話を聞いて入れば……。目を覚ますまで傍に居れば……」
「え? ちょっと待って! マジで信じるわけ?」
後悔を口にするレオナールにエイブは言う。
「よく考えれば、あの水を彼女が手に入れられる訳がなかったのです!」
「そうかもしれないけど、組織と利害が一致して仲間だって……っつ」
「何を言いますか! 彼女が仲間の訳がないでしょう!」
突然レオナールがエイブの胸倉を掴んだ!
「レオナール王子! 落ち着いて!」
驚いてティモシーが止める。レオナールは自分の感情を持て余していた。エイブが言った事もないわけではない。事実、魔術師の組織と接触をしている。だがもう、彼女を疑いたくなかったのである。
「それを信じるとは……」
ため息交じりにミュアンが言った。レオナールは、エイブから手を離す。
「嘘だというのですか……」
ミュアンに弱弱しくレオナールが言うと、彼女は力強くなずいた。
「もう一体誰を信じたらいいのか……」
「自分自身だろう?」
レオナールの呟きに、エイブが呟きで返した。
「俺がミュアンさんに従っているのは自分を信じているから。自分の直感をね」
レオナールはエイブを見つめた後、コーデリアを見つめる。
「そうですね。ミュアンさんすみませんが、私も自分を信じ彼女を信じます」
「別に謝る必要はないわよ。あなたは正しいから」
「え?」
驚いて全員、ミュアンを見た。先ほどコーデリアが嘘を言っていると言っていたからだ。
「コーデリアさん、あなたはそんな嘘を信じてここに来たのですか? 組織の者があなたが私を説得できると思っていると? アイテムを私がここに持って来ているのならここでそのまま始末したほうが手っ取り早いでしょう?」
嘘を言っているのは、コーデリアではなく組織の人間だとミュアンは言っていたのだった!
「まさか! ここで私達全員を亡き者にする為に、コーデリアさんも呼んだと!」
ミュアンの言葉にレオナールは叫ぶ。
「えぇ。私達がここに来る事がわかっているのならそうするでしょうね。組織の人間がここに潜んでいるのでしょう」
そうミュアンが語った時、スッと人が出て来た。
「相変わらす、頭が回るお人だ」
「サンチナド!」
姿を現した男の名をミュアンは言った。彼の後ろには見覚えのある人物がいた。
「クレメンディーナさん……」
「あなた、その者達と……嵌めましたね!」
レオナールがキッと睨み、剣に手を掛け叫んだ。彼には見覚えのある三人が彼女の横に並んでいた。レオナールを襲った者達だ!
コーデリアの少し後ろから五人は現れた! コーデリアは驚いて振り向いている。
「あんた達が逃げたって連絡を入れに言ったらこいつらが居てさ、しこたま叱られたよ。だから仕方なくおたくらを一緒にお出迎え」
クレは、レオナールを襲った作戦は知らなかったという。
「気を付けてください。あの水を持っているかもしれません」
レオナールはそう言って剣を抜き、ミュアン達の前に出た。
「そうだミュアン言っておくぞ。こいつらにはアイテムを渡してある。あなたの魔術は全てレジストする。……でだレオナール王子、取引をしようじゃないか。君の愛しいコーデリアの命を助ける代わりに俺と手を組もうじゃないか」
「私と? 私など役に立たないでしょう!」
レオナールは、サンチナドに叫んで返す。レオナールは彼を睨みつつコーデリアを救出する機会を伺っていた。捕らわれている訳ではないが、捕らえようとすれば捕らえられる位置にいる。こちらが動けばそうする可能性がある。
「ティモシー、あなたはレオナール王子と共に……」
ミュアン達もレオナールの考えている事はわかっていた。彼が一番に考えるのはコーデリアだからだ。
「レオナール王子には表舞台に立って頂く。そして、噂通りエクランド国と戦争さ」
「何を言って!」
「弟奪還の為さ。あの国を潰せば、薬師の崩壊が始まる! 魔術師の世界の幕開けにはふさわしい。トンマーゾも余計な事をと思ったが、まあ結果オーライだな」
にやっとしてサンチナドは言った。
「あぁ、俺だけ場違いなんじゃない?」
エイブはボソッと呟く。
「条件を飲まなければここで全員皆殺しだ!」
「あら、彼が条件を飲んだとして私達はどうなるのかしら?」
ミュアンがそう言うと、サンチナドはニッコリと微笑んで彼女にスッと手を出してた。
「俺と一緒に来い。私はこれから王になる。お前は妃だ」
「国王を殺すおつもりですか!?」
サンチナドの言葉にミュアンは驚いて返す。
「まさか。既に先日お亡くなりになった。君が国を出なければもっと早くこうなっていたはずなのだがな……」
「一度お断りしておりますよね?」
サンチナドの申し出にミュアンはそう返し断る。
「まさかと思うけど、母さん追いかけ回していたのってそういう理由じゃないよね!?」
「君もミュアンに似て美しいな」
「はぁ? 美しいってなんだよ!」
ティモシーにとって嬉しい言葉でない。サンチナドを睨む。
「私がエクランド国を貶める手伝いをするとお思いですか?」
「今更だな。あの国の薬師の技術を散々盗んでおいて」
「そうね。でもエクランド国に住んでわかったわ。薬師の事を考えている国だって。魔術師も受け入れている国でもある。あなたの国よりずっと価値があるわ」
「残念だな。せっかく好条件を出しだのに。レオナール王子はどうする?」
先ほどから睨み付けているレオナールに声を掛けた。
「なぜミュアンさんを逃がしたかわかりましたよ。あなたが謀略を企んでいる首謀者だと気づいたからでしょう。ミュアンさんを国に残せばあなたの餌食になる。許せません! 最初からコーデリアさんを使ってラミアズア国と戦争をする気だったのでしょう!」
レオナールは、初めて目の前にいる者――サンチナドを切り捨てたいと思った。コーデリアがスパイをしている事をワザとばれる様に仕向け戦争に追い込んだ。最初から戦争をする気だったのだから準備万端だった。そう推測して言った言葉だ!
「さすがだな。おたくも頭が切れる。仲間になるなら生かしておくと思ったが……」
「コーデリアさん! こっちに!」
サンチナドが顎で合図すると同時に、レオナールはコーデリアに向かって走り出し叫ぶ。コーデリアも彼に向かって走り出した。
サンチナドの後ろいた男達三人は、彼の合図により前に出る。そして、走りながらコーデリアとミュアン達に向けて何かを投げつけた!
それは水風船のような者で、体に当たると壊れ中の水がぶちまかれた!
コーデリアに向けて投げられたそれは、彼女を庇ったレオナールに直撃する。そしてミュアンを狙ったと思われるそれは、前に出たティモシーを直撃する。
「コーデリアさん、水は? かかりましたか!?」
「え? す、少し……」
「魔力は練れますか!?」
「え……練れません……」
「少しでも効果はあるのですか! コーデリアさん下がって!」
投げつけた男の一人が二人に襲い掛かる!
「ちょ……何、自分から当たりに行ってるのさ!」
エイブは驚いてティモシーに言う。
「母さん、水は!?」
「ありがとう。かからなかったわ!」
「盾なら俺の方がいいだろう!」
自分は魔力が少ないからと言う意味で言うも、二人は首を横に振った。
「あなた体術とか出来るのですか?」
「出来る訳ないだろう……」
「そういう事だよ。エイブさん。俺にはこっちの方が戦いやすい!」
襲い掛かって来る男たちを見てティモシーは言った。魔術が封じられても戦う術があると言ったのだった。
ミュアンは近づいて来る二人の男に魔術を放った! だがそれは、結界で阻まれた!
「え……」
「これもしかしてアイテムで防いでいるの?」
エイブが呟く。
サンチナドがにやっとする。彼とクレは参戦せず、成り行きを見守っている。
「って、水掛ける意味あったこれ?!」
エイブがまた叫ぶ。
「一応私に掛ければ意味はあったでしょうね」
そう言ってミュアンは、サンチナドを睨み付けた。
ティモシーは二対一だが相手が魔術師でなければ恐れはない。それは勿論、魔術で攻撃されないからだ。
剣を振り下ろして来る二人を交わし、クレにしたように交わし際に一人の腹に蹴りを入れ吹き飛ばす。魔術は効かなくてもこの攻撃は効くようだった! 男はうずくまる。
「貴様!」
ティモシーに向かって振り下ろそうとする剣を持った手に蹴りを入れ剣を吹き飛ばす。剣に気がそれた所に、この男にも腹に蹴りを入れる!
「ぐっ」
ティモシーはヨロヨロと立ち上がって来る二人に追撃を入れる。後ろから回し蹴りを食わらせ二人を気絶させた!
「マジ……ティモシーさん強すぎ」
エイブは知らなかったとは言え、凄い相手を襲ったんだと今更思うのだった。
レオナールは一対一だが押されていた。
相手の一撃が重いのだ! 相手がマジックアイテムを使っているのに違いない。コーデリアがいるのであまり大きく立ち回りもできない。
(レオナール王子が押されている?!)
ティモシーは、レオナールを見て走り出す。だがそこに、サンチナドから魔術が飛んでくる。慌ててミュアンが結界を張った。
「こっちが手出ししていないんだ。大人しくそこで見学していてもらおうか?」
「うわぁ!」
と、その時声が聞こえた! 見るとレオナールに男が投げ飛ばされていた!
「私も体術は出来るんですよ? 流石に手がしびれてきました」
倒れた男の手首を踏みつけ、男の剣を蹴り飛ばしレオナールは言った。彼は、男が振り下ろして来た剣を自分の剣から手を離し、相手の手首を掴んで投げ飛ばしたのである。突然の事で男は対処できずそのまま投げ飛ばされたのだった!
「見事だ!」
ハッとしてレオナールはそう言ったサンチナドを見た。彼から魔術が放たれたのを感じたからである。ミュアンがハッとするも間に合わない!
「レオナール王子!」
ティモシーの叫び声が轟いた――!




