第七十九話
日が昇ると三人はそっと部屋を抜け出した。
「で、どうやって行くことになってるの?」
「さて、どうしましょうか」
「手段を用意していないのですか?」
ミュアンの言葉にレオナールは驚く。
「当初の計画とは違ってしまいましたからね。私とエイブ、ティモシーの三人でオズマンドの運転で行く予定でした。けど、怪我人と女性がいるのに私達が馬車を使ってしまっては困るでしょう」
「うん。そうだね」
その相槌に驚いて三人は振り向いた。相槌を打ったのはティモシーだった! その横にはオズマンドもいた。
「すまない、ミュアン。昨日聞き耳を立てていて、話を聞いてしまった……」
「そうですか。ですが、私達だけで行かせて下さい!」
ミュアンの懇願にすんなりとオズマンドは頷く。
「止めやしない。これは君の運命なんだろう。昨日のうちに馬は手配しておいた。ティモシー、三人を頼んだぞ!」
「はい!」
ティモシーがオズマンドにビシッと返事を返すと、ミュアンはオズマンドに抱き着いた。
「我が儘ばかり言ってごめんなさい」
「君達を信じている……」
そう言って抱き合う二人をティモシーは隣で少しむくれて見ていた。
「俺が介抱してやろうか?」
にっこりほほ笑んで手を広げるエイブにティモシーはぷいっと顔を背ける。
「エイブさんには、ザイダさんがいるじゃないか!」
「では、私が……」
そう言って、レオナールはティモシーを抱きしめ頭を撫でる。ブラッドリーにしてもらっていたように。
「ちょ……」
「落ち着くでしょう? エクランド国に行く前は、私もよくして頂きました」
「ブラッドリーさんにだよね? それっていくつぐらいまで?」
「そうですね。十二、三歳でしたか……」
「俺は、今年で十六だ!」
ティモシーは、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「おや? いくつになっても落ち着くようですがね」
昨日撫でてもらった事をいっているのだろう。
「では行きましょうか」
クスッと笑いながらミュアンはがそう言うと三人は頷いた。
手を振って歩き出すと、オズマンドは見えなくなるまで手を振っていた。
「で、四人で行く意味あるの?」
「俺は見張り役ぐらいには役に立つだろうって、父さんが……」
「私よりは適任ですね」
レオナールはティモシーにそう返し、ミュアンに近づいた。
「今更水を差す様ですが、魔力を練れなくなる魔力というのは、今も湧き出ているのでしょうか? 魔術師はだいぶ減りましたよね?」
「そうですね。ですが、岩に取り込まれるぐらいの年月は出ていたのですから魔術師がいなくなっても出ているのではないかと私は思っています。量は少なくてもね。兎に角私にすれば出ていればいいのですから……」
ミュアンはそう答えた。
「なんで? 少なすぎたらばらまけないんじゃ……」
「何故、昔の人が国に魔法陣を描きトライアングルを行ったと思います? 魔法陣を描く為には魔術が使えないとダメなのです」
魔法陣を描くのには魔術を使う必要がある。つまりは魔力を練れなくては描けない。湧き出るすぐ近くでは描けないとミュアンは言ったのだ。
「何かに描いて持って行く方法もあったかも知れませんが、今度はそれではトライアングルを使う事ができないのです。何故ならトライアングルはある程度近くないと発動出来ません」
ミュアンの説明にティモシーは首を傾げた。
「つまりですね。魔力を散布され続けているのですから魔法陣から――国からはでれないのです。国からトライアングルを発動させなくてはなりません。トライアングルは、魔法陣ではないので、魔力を練らなくては発動できないのです」
トライアングルを発動するのには、魔力を練る必要がありまた、トライアングルに魔力を注ぐのにある程度近くにいる必要があった。よって国から離れた所に結界を作ってもトライアングルを発動出来ない。だから国に魔法陣を描いたのである。
レオナールの補足にティモシーは頷く。
「で、なんで少なくてもいいの?」
「魔法陣を描き、トライアングルを発動させなくてはいけないからです。それは、今の時代の人達では容易ではないでしょう。ほおって置けばその内世界中に満たされる。だが大きな魔法陣を描くのは結構大変なのです。それをトライアングルを使って移動させるのものね」
そう言って、ミュアンはレオナールを見て言った。
「まあ、この時代でも城にそれで結界を張った人物がいるようですが……」
「それは、褒めて頂いているのでしょうか?」
ミュアンの言い方は微妙でどちらかわかり辛いとレオナールは問う。
「勿論褒めているのですよ。出来れば今回もトライアングルはあなたにやって頂きたいのです」
「私にですか?!」
驚くレオナールにミュアンは頷いて答える。
「私は行った事はありませんので」
「母さんにも出来ない事があったんだ!」
「確実に出来る方にお願いしたいというだけです! 出来ないとは言ってません!」
ミュアンは、ティモシーを睨みつつ返した。
「なるほどね。それでレオナール王子が元気になったから連れて行こうと思った訳だ……」
エイブがボソッと呟く。
「兎に角。今回は散布まで至らなくても、結界を解除したいのです!」
「でも今の話からいくと、ミュアンさんの計画に感づいていたら全力で阻止しようとしてくるよね? 待ち伏せもありそうなんだけど?」
「私もエイブの意見と同じです。先に描いておくという方法を取った方が宜しいと思うのですが……」
ミュアンは困り顔になる。
「わかっています。ですが描く台紙がありません。在ったとしてもエイブ、今のあなたに描くだけの魔力はありますか?」
三人はハッとする。魔力は抜いたのだ。増えるまで時間が掛かる。
「私とティモシーで二つ描く事は可能ですが、あと一つはついてからになるでしょう。どちらにしてもトンマーゾが連絡を入れていれば、待ち伏せはあると思います」
「あのさ、変な事を聞いていい? 俺に組織の人間はミュアンさん達を殺さないって言ったけど、それ本当の事だったの? 話の流れから言うと命狙われてもおかしくないと思うんだけど?」
エイブはジッとミュアンを見つめて聞いた。確かにティモシーは、殺されなかった。それは、ミュアンを脅す切り札だから。それはわかる。でも、ミュアンが殺されれば、ティモシーも殺される事になる。
「散布するアイテムは誰にでも扱える者なのです。つまりそれを排除しないかぎりは、相手は安心できません。私が死んでしまって、自分達の知らない者が魔術師に魔法陣を描かせ、もしトライアングルを使える者と一緒に行使した場合、防ぎようがなくなります」
「ですが、それはこの十八年間同じ事ですよね? 何故今になってあなたを追っているのですか?」
今度は、レオナールが問う。
「探していたとは思いますよ。ただし、私がそういう事を企んでいたという事をいつ知ったかはわかりませんが」
「それは亡命したから探されていた程度という事でしょうか?」
ミュアンは頷く。
「私はそう思っています。ですが、あなた方が魔力を練れなくされた事を私が知ったとなれば、アイテムを使って魔力を散布する行為をするかもしれないと、考えても不思議はありません」
それを聞いたレオナールは黙り込んだ。
「あぁ、ここだ」
ティモシーが声を上げた。馬を頼んであった場所に着いたのである。借りた馬は二頭。馬に乗れるのが、ミュアンとレオナールだった為、ミュアンとエイブ、レオナールとティモシーに分かれ、馬に乗って移動する事になった。




