第七十八話
「で、話って何?」
三人を見送った後、エイブが不機嫌そうに聞く。
「二人共魔力は練れそう?」
ミュアンの言葉にそうだったと二人は試してみる。
「練れる……久しぶりの感覚」
「練れます! ありがとうござます!」
魔力は少ないが、二人共練れるようになっていた。
「思った通りね」
「でもどうやって練れなくなる魔力を手に入れたんだろう?」
封印された魔力だ。普通は手に入らない。
「これでしょうね」
そう言って、ミュアンはティモシーのポーチから持ち出した黒い石を見せた。
「それって……」
「魔術師の組織が使っていた黒い石では?!」
二人は驚く。
「封印はしましたが、その魔力はそこにあった岩に蓄積されていったのでしょう。長い年月をかけこの石になった」
石の正体をミュアンはそう説明した。
「げ! 知らないで使っていたよ」
「魔術として使う分には問題ないでしょう。ただし、この魔力をそのまま使うとなると違います。サラスチニ国はこれの研究をしていました」
魔術師の組織が使っていた使い方では影響はないが、この魔力を抽出して魔力として使えば、練れなくなるという事である。
「では、私達はその石から取り出した魔力で練れなくされていたという事ででしょうか?」
「おそらくは。効果のほどを調べるのにあなた達は利用されたのでしょうね。もう時間がありません。三人でその魔力の場所に行き封印を解き、その封印を解いた魔力を散布します!」
「……魔力練れる様になったと思ったら、また練れなくなるわけか……」
「……そう上手くいくででしょうか? その場所をサラスチニ国は知っているのですよね?」
ミュアンは頷く。
「あのさ、ちょっといいかな? 俺、さっきミュアンさんから聞かされた事しか知らないからさ、確認したいんだけど……魔術師の組織=サラスチニ国って事でいいんだよね?」
「……そうですよ。本当に何も聞いていないのですか?」
ため息をしつつ言ったレオナールの問いにエイブは頷いた。
ミュアンの話を聞く限り、それしか思い当たらない。事実を知った第三者がという事もなくはないが、そう簡単に出来る事でもない。
「……で、レオナール王子は、魔術師の組織の存在をどうやって知ったの?」
「そ、そこからなのですか?」
更なる質問にレオナールは言葉に詰まる。当事者なのにと。
「いや別に教えてくれなくてもいいけどさ。もしかして、ハルフォード国に接触したから知っている訳じゃないのかなって思って……」
「あなたどんな組織か知らずにいたのですか?!」
あまりの事にレオナールは声が裏返る。しかしふっと思い出す。彼がティモシーを手に掛けようとした事を。
「あなた、いい加減な事を言うものではありませんよ。ティモシーの胸に刻印を施そうとしたではありませんか! 何も知らなかったのであれば、おかしいでしょう!」
「あれは……」
「ティモシーに刻印を?」
二人はハッとする。エイブはバレたと、レオナールは知らなかったのかと驚く。
「ご存知なかったのですか?」
手を組んだぐらいなのだから知っていると思っていたのである。
「えぇ。何も。何故黙っていました?」
そうミュアンに問われても言える訳がなかった。トンマーゾの様にいかない相手である。
「えっと、出来心と言うか……。売るつもりなんてなかったから!」
「出来心で傷物にしたのですか!」
「き、傷物?!」
「魔術師が見れば、刻印は見えます! 婿に行けなくなるではありませんか!」
そう言って凄みながら一歩近づくミュアンから逃げる様にエイブは後ずさる。
「さっき。普通の人間として育てたとかいってなかったっけ? それなのに魔術師と結婚させる気なの? というか、作戦が成功すれば、みんなただの人なのでは?」
「えぇ、そうね。でも、元魔術師には見えますから!」
「す、すみません……」
エイブにはもう謝るしか手段はない。
「ミュアンさん落ち着いて下さい」
「いいわ。事が済んだらちゃんとお聞きします!」
「………」
余計な事を振ってしまったとエイブは後悔する。
「あの、ところでミュアンさん。その痕の事なのですが、普通の人間には見えない様なのですが何故でしょう? 練れなくなった私達と一体何が違うのでしょうか?」
「あら? わかりませんか? 人間は使わないモノは退化するのです。魔術の能力もそうです。練る事が出来なくなったので練る能力が退化し、魔術師ではないものは魔力を取り入れても練れなくなった」
「では、見えなくなったのは、そういう機会がなくなったから退化したという事ですか?」
ミュアンは頷く。
魔術を使えなくなり、年代を追うごとに魔術に関する能力が退化していった。その結果、魔力を練れなくなりレジストの能力なども消滅した。そういう事だろうと語ったのだ。
「なるほど。ありがとうございます。では、話は戻しますが、エイブ。人身売買の事を知っていたのですね?」
「え?!」
なるほどと一緒になって頷いていたエイブは、話を戻さなくてもいいのにと呟く。
「答えて下さい!」
「……付き合っていた子が俺が魔術師だと知って、騒ぎ立てたからトンマーゾさんに言ったら、彼が彼女に刻印を施した。そしてどこかに連れて行ったんだ。後で聞いたら多分、売られたんだろうっていうから……」
「どういう事です?」
レオナールは眉を顰める。
「だから、俺はティモシーに刻印を施そうとしたのは売ろうとしたのではなくて……自分の物にしようとしたというか……」
「なんですって!」
声を上げたのは勿論ミュアンだ。
「あの時は、色々あってやけになってたんだ!」
「色々とは……?」
「……別になんでもいいだろう?」
レオナールの問いにそう答え、俯いて目をそらす。
「いいわけがありません!」
「あぁもう! なんで蒸し返されなきゃいけないんだ!」
二人に問い詰められ、エイブは叫ぶ。
「もう一人も同じ目に合せたからと思ったからだよ! ブラッドリーさんから俺の噂聞いてるんだろう?」
「そのもう一人の行方がわからないのですが、ご存知ないですか?」
その時にエイブはビクッと体を震わす。
「知っているんですね?」
「騙されたんだよ……クレメンディーナさんに!」
右手を額に当てエイブは悲痛に叫んだ!
「クレメンディーナさん? 騙されたとはどういう事です?」
「……もう一人の相手がその人! 二人も目にしてる人物だよ!」
レオナールはハッとする。
「クレという女性ですか!」
エイブは頷く。
これには、レオナールも困惑した表情をする。彼が言っている事が本当なら姿を消したと思われた女性は売られたのではなく、魔術師の組織の人間だった。または、組織に入ったという事になる。
「で、騙されたとは?」
「それ、言うのかよ……」
「ここまで聞いたのですから聞きたいのですが?」
仕方なくエイブはティモシーに話して聞かせた話をレオナール達に話した。毒を盛られ逆に殺しそうになってしまったと思わされいた事。そしてあの日、ティモシーがクレの攻撃を吸収している所に出くわして、真相がわかった事を。
「あの人、言い訳も何もなしで、つらっとして俺の前に現れて……」
はぁっとエイブは、大きなため息をついた。
「そうですか。……で、それはどこからどうやって見ていたのですか? あなた動けない身体でしたよね?」
「……精神体。魔法陣の効果で見える様にしてもらっていたから……」
「なんですって! そんな事もできるのですか!」
「そうね。エイブぐらい出来るのなら魔法陣を使ってそういう事もできそうね」
ミュアンも頷いた。
魔術は関係ないと思っていたので、魔法陣でそういう事が出来るとはレオナールは思ってもいなかった。
「そうそう二人共。事が済んで魔術師に戻りたいと思ったならヴィルターヌ帝国で先ほどやったように魔力を全て抜けばいいわ。でも一生そこにいないといけない事になりますけどね。さて、明日の朝こっそりと抜け出しますから、宜しくお願いしますね。二人共」
「え?! 私もですか?」
レオナールはティモシーとエイブの三人だと思っていた。勿論、エイブもである。当初ではそうだったからである。
「レオナール王子は長い目で見れば関係者なのですから宜しいでしょう?」
「それからすると、俺は関係ないような……」
ボソッと漏らすとミュアンに睨まれる。
「わかりました。異論はありません。私の力で足りるのであれば協力致します」
レオナールは、別に魔術師でなくなってもいいと思っていた。魔術師だと名乗ってしまったが、世界全体がそうでなくなるなら問題はないと。
後は成功を祈るばかりだった――。




