第七十七話
「これが全てよ」
ミュアンは、一気に話した為か、ふーと大きく息を吐いた。
「コーデリアさんも逃げて来たなんて……。でも、父上といつ出会ったのでしょうか。助けを求めて来たとしてもそれで結婚はおかしいです……」
信じられいとレオナールは呟く。
「婚約が決まったのは半年前です。私の国ラミアズア国とサラスチニ国は、薬師にも力を入れていて、よくエクランド国に出向いていたのです。勿論彼女も……」
「え? エクランド国にですか?」
ミュアンは頷く。
「資格を得る為ではなく、薬師の技術を会得する為です。薬師になれば色々制限されます。私達の国は、薬師の資格を持たないけど、それなりの技術を持った者達が沢山いたのです」
「そんな事が……」
ブラッドリーも驚いて声を漏らす。
あり得ない事だった。普通は資格を得てより良い仕事につく。その為に獲得する。ラミアズア国とサラスチニ国は、技術を盗む為にエクランド国来ていたのだ。
「それで色々知識を持っていたのですね」
レオナールも納得した。エクランド国の隣国だったハルフォード国に訪れた時に、ギデオンと何だかの形で知り合い、彼女は来るたびに会っていたのかもしれない。そして、追われハルフォード国に逃げ込んだ。
ギデオンはもしかしたら全てを知って彼女を娶ったのかもしれない。
「では、本当に私はいらなくなった……」
「レオナール様! その様な事は絶対にありません!」
呟いた言葉にブラッドリーは反論する。
「今さらだけどさ、ブラッドリーさんって王子の部下なの?」
ブラッドリーとレオナールは、エイブの言葉にポカーンとする。
「あなた、トンマーゾから何も聞かされていないのですか?」
「あの人は、俺にさせたい事を命令するだけ」
レオナールの質問にエイブはそう返した。
「私は、ハルフォード国の者だ」
「やっと、色々繋がったよ。というか王子の事は聞いていたよ。トンマーゾさんが珍しく厄介な王子だって煙たがっていたけど、でも聞いていたのと全然違うね? 凄い拍子抜け。ミュアンさんのやり方もどうかと思うけど、今の話を聞くとレオナール王子の親も凄いね」
「何ですか、あなた。侮辱するのですか?」
エイブに鋭い目をレオナールは向ける。
「別に。ただ、ミュアンさんをそこまでして殺す理由って何? ハルフォード国にとってどんな障害になるの? コーデリアさんにあなたを殺す理由があったとして王様にはないよね? というか、その理由を王様に知られたくないからコーデリアさんはレオナール王子、あなたを殺そうとした。そう自分で言っていなかったっけ?」
「え……?」
レオナールは、エイブの言葉に驚く。言われてみればそうだ。レオナールを殺そうとするのは、コーデリアの過去を隠す為。逆に知っていたのならレオナールを殺す意味などない。ハミッシュに王位を継がせたいだけならそこまでしなくても出来るのだから。
そこまで考えたレオナールは、エイブの言い回しにハッとする。
「自分で言っていたとは、どういう事です? まるで聞いていたような言い回しですね!」
「あ、気づいちゃった? ティモシーに話しているの聞いちゃった」
特段隠すつもりもなくエイブは言った。
「それ、トンマーゾには……」
「ミュアンさんに伝えただけ」
レオナールは安堵する。ミュアンの話からするとコーデリアも逃げている。トンマーゾから伝えられれば彼女の命が危ない。
エイブが魔術師の組織から抜け出したがっていたとティモシーが言っていた事は本当だったようだとレオナールは思った。
「さて、今日の宿だけど素泊まり……」
「宿に泊まるの?」
ミュアンが言いかけると、ティモシーは驚く。追われているのに宿に泊まると言い出したからだ。
「泊まるわよ」
「でも、追われているんじゃ……」
「大丈夫よ。それにオズマンドを休ませたいの。聞くけど、馬車を運転出来る方はいる?」
ミュアンの質問に手を挙げたのは、ブラッドリーだけだった。
「では宿に泊まらないのであれば、彼にお願いする事になるけど?」
「何を言って! 素泊まりで宜しいです!」
ミュアンに速攻レオナールは言った。怪我を負っているブラッドリーにそんな事はさせられない。
「別にそこまで言わなくても。聞いただけなのに……」
「俺はミュアンさんに従うよ」
こうして素泊まりは決定した。
「さてでは、お二人にお伺いしたいのですが、組織ではどのような事をしていたのですか?」
レオナールは、突然前の席に座るエイブとザイダに聞いた。彼はもう立ち直ったようで以前の彼に戻っていた。
「どのような事って言われてもなぁ。俺、寝ていただけだし」
「私はクレさんと一緒に買い出しや、街の様子を見て回ってたわ」
突然問われるも、一応二人は答える。
「それだけですか?」
レオナールの確認に二人はそうだと頷いた。
「ではエイブ、怪我を負う前は何を?」
「特段何も……」
「では、あの二人以外に仲間は? 本当の魔術師の人はいましたか?」
「……何、この取り調べみたいな質問」
「はい。取り調べですので」
嫌そうにエイブが言うも、しれっとしてレオナールは答えた。
それを聞いたエイブは大きなため息をついた。
「俺は何も知らない!」
「そうですか……」
そう言ってレオナールは大人しく引き下がった。それから黙って何かを考えている様子だ。
夕方にある村についたティモシー達は、素泊まりの宿を見つけそこに宿泊する事にする。そこはエクランド国の端の村だった。
「さて、俺は買い出しに行ってくる。ティモシー行くぞ!」
「はい!」
オズマンドに呼ばれたティモシーは、直立不動で返事を返す。ミュアン以外はその光景に驚く。
「ザイダ、悪いけど二人について行ってくれる? 男二人だとどんなのを買って来るかわからないもの」
「え?!」
まさかついて行けと言われると思っていなかったザイダは驚きエイブを見た。
「ちょっと! ザイダを行かせるなら俺が行くよ!」
「あら? 私の話を聞いていなかったの? 女性もついて行ってほしいって言ったのよ。ティモシーが強いのを知っているでしょう? 教えたのはオズマンドよ」
エイブが言うもそう返される。
「じゃ、俺も一緒に……」
「追っ手は来てないから大丈夫よ。それにあなたには話しがあるの」
「………」
「あの、三人で行って来ます」
ザイダはそう言って、二人について行く。彼女は、自分が居ては話せないないようだと言う事を聞く事にした。他の者もそう思い口を挟まない。と言っても、ブラッドリーは、着いて早々にミュアンに手当をし直してもらい、薬で眠ってしまっていた。
「では、行って来ます!」
「行ってらっしゃい」
ティモシーがビシッと言うと、ミュアンが笑顔で送り出した。




