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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第十二章 たがう二人の王子

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第六十一話

 森の中を駆け抜ける二人の姿があった。ティモシーとミュアンだ。

 二人が進んで行くと少し開けた場所に出た。

 「もう少ししたら村につくわ」

 「ねえ、母さん。どこに向かっているの?」

 「取りあえずは、エクランド国から出るつもりよ」

 二人は王宮出て一時間ほど走りづめだった。

 「ねえ、少し休まない?」

 ティモシーの言葉に、ミュアンはチラッと後ろを振り返る。

 「そうね。その木陰で休みましょう」

 「久しぶりにこんなに走ったよ」

 二人は朝食後、こっそり抜け出して来たのである。ちょうど来客がありランフレッドが席を外した少しの隙に、置手紙を置いて出て来た。

 「探しているかな?」

 ボソッとティモシーは呟く。

 「どうかしらね。最初から出て行くって言ってあったのだから、気持ちは変わらなかったと思っているかもよ」

 「うん……」

 ティモシーは俯いて返事をしたが顔を上げた。自分達が来た方向から蹄の音が聞こえて来たのである。

 「誰か来たわね。隠れるわよ」

 二人は木の陰に隠れ、馬に乗った人物を確認する。

 黒い馬に乗って現れたのは、ティモシーより少し上に見える少年だった。そして、黒い鳥が前を飛んでいた。

 (なんだろうあれ?)

 そう思っているとその鳥は、二人の場所まで飛んできた!

 「え?」

 「これは魔術!」

 少年は馬から降りた。ティモシー達と同じ銀の髪をしていた。

 「そこから出て来いよ。出て来ないなら森ごと燃やすよ?」

 ミュアンは、スッと少年の前に出て行く。

 「物騒な事を言う子ね」

 「え? 母さん……」

 ミュアンはチラッとティモシーを見た。そこにいなさいと言う意味である。

 「これ、私の場所を探す術よね?」

 ミュアンは、自分の上を旋回する鳥のようなものを指差し言った。

 「これを借りたからね」

 握った右手を突き出し、手を開いた。そこには、ランフレッドにあげたペンダントがあった。

 (何故それを!)

 ティモシーは驚いた。もし相手が敵なら手を貸した事になる。

 「その魔力で追ってきましたか……」

 「自分を追える物を置いて来るなんて、追って欲しかったんだよね?」

 少年はニッコリ微笑んだ。そして、ペンダントから手を離す。ペンダントは、ポトンと地面に落ちた。

 「もうこれ、いらないよね?」

 「そうね。ここで処分しちゃいましょうか」

 ミュアンは魔術を放った! それはペンダントに命中し粉々になる。少年は後ろに下がり魔術から逃れていた。

 「驚いた。そっちから攻撃しちゃうんだ! 僕はハルフォード国第一王子ハミッシュ。王族に手を挙げたんだから覚悟するんだな!」

 「え! 第一?」

 ティモシーは、ハミッシュの自己紹介に驚いた。どう見てもレオナールより年齢は下だ。第二王子ならわかるが第一はおかしい。

 「おらぁ!」

 ハミッシュは、大きく手を振るった。だが、何も繰り出されない。

 「なっ!」

 「残念ね。使うとわかっていたら封じるでしょ?」

 ハミッシュはミュアンを睨みつけ、腰に下げた剣に手を掛ける。

 「ねえ、第一王子ってどういう事? 第一王子はレオナール王子でしょう?」

 「あれが兄なんて僕は認めない! 一族の恥さらしだ!」

 「恥さらし!?」

 ハミッシュは剣を抜いた。

 「そうさ。あんなのは魔術師とは言わない!」

 「え!?」

 レオナールは魔術は使えていた。相手の魔術を封印したり、結界を張ったりしているのを見ている。そして、熱心に魔術の勉強もしていた。

 「あら? じゃ、あなたはどうなのかしら? 私に簡単に封じられしまったようだけど?」

 「だまれ!」

 ミュアンの台詞にハミッシュは睨み付け叫ぶ。そして、チラッと自分達が来た方向を見た。そこからは、また蹄の音が聞こえて来た。

 (え? 増援?)

 身構えていると二人現れた! ランフレッドとルーファスだ!

 「ハミッシュ殿、一体何をする気ですか!」

 ランフレッド達は、それぞれ馬に乗って来て、それから降りた。

 「僕は何も。突然向こうから攻撃された」

 「そうね。その通りね。あなたじゃ勝てないから引き返す事ね」

 ハミッシュの説明を聞き、二人を見たランフレッドとルーファスは驚く。

 「本当に突然攻撃を仕掛けたのですか?!」

 「ち、違う。母さんは、ペンダントを壊しただけだ!」

 ルーファスの問いに、慌ててティモシーが答える。

 「同じ事だろう? 大人しく、その首をはねさせろ!」

 「待ってくれ、ハミッシュ殿。彼女達はあなたを追っ手と勘違いしたのです。謝らせますからどうか……」

 「追っ手? それは間違っていない。僕は父の命を受け、あの二人を仕留めに来たんだからな」

 ミュアンは動じないが、他の者は驚いた顔をした。

 「どういう事です? 何故彼女達を……」

 「さあ? 詳しくは知らないけど。どちらにしても攻撃を仕掛けて来たんだ。問題ないだろう?」

 「お待ちください。ハミッシュ王子! 彼女達はエクランド国の薬師なんです!」

 「それがどうした?」

 ランフレッドが言うが、鼻で笑いようにハミッシュは返す。

 「ハミッシュ殿。最初から彼女達を殺そうと近づいたのなら反撃を受けても仕方ないのでは? それに彼女達は、ランフレッドの言う通り私の国の薬師です! 契約違反です!」

 「契約? 協定の事か? あれは今日を持って廃止だ! ヒースが今頃手渡しているはずだ!」

 それにはルーファスも息を飲み、言葉に詰まらせる。

 「戦争でもおっぱじめるつもりかよ……。一方的に破棄して薬師に襲い掛かるなんて!」

 「残念ながらまだ襲い掛かっていないんだ。あなた達に邪魔されたからさ」

 そうランフレッドに返した。

 ハミッシュはどう見てもエクランド国と仲良くする気はなさそうだった。

 「悪いけどそういう事ならあなたでも二人を守らせてもらうよ。薬師は私の国の財産だからな」

 ルーファスはそう言って、剣を抜く。ランフレッドも抜いた。

 (え? そんな……。このままじゃ、本当に戦争になっちゃうんじゃ……)

 「母さん、どうしよう……」

 「そうねぇ……。ここは彼らに任せて急ぎましょう」

 「え?!」

 二人は走り出す。

 「逃がす訳ないだろう?」

 ハミッシュは、剣の刃を左手で擦った。一瞬剣の刃が光る。彼は二人に向けて剣を振るった! すると、剣から光の刃が放出された!

 ミュアンは、ハッとして振り向く。彼女がティモシーを突き飛ばすと、光の刃は二人の間を通り、少し先の地面を抉った!

 「なんだ今のは……」

 ランフレッドが驚いて呟く。

 「魔術って言うのはさ。先に用意しておく事が出来るんだよ。僕の国では呪文いらずで発動出来る。味わってみる?」

 ハミッシュは、そう言ってランフレッドに剣を向ける。

 「待って! 狙いは俺達だろう? ランフレッドは関係ない!」

 ティモシーが叫ぶと、ハミッシュはチラッとティモシーを見るも目線をランフレッドに戻す。

 「先ほど、敵だと宣言を聞いたけど? 違ったか?」

 (あの剣さえなければ……)

 ティモシーは、ハミッシュに走り出した!

 「ティモシー!」

 いきなり行動に驚いてミュアンは叫ぶ。

 その声にハミッシュは振り返るもティモシーは、剣を握る彼の手首を蹴り上げた! 剣は手を離れ遠くへ飛ばされた!

 「痛いな。このガキ!」

 「ガキ!?」

 ハミッシュは、ティモシーをギロッと睨み付ける。だが、彼はミュアンに走り出した。

 「待て!」

 走り出したハミッシュを捕まえようとティモシーは追いかけて手を伸ばす。

 「ティモシー後ろ!」

 ミュアンが叫ぶ!

 「え?」

 振り向くも何もない。いや、よく見れば地面を這うようにハミッシュの剣が向かって来ていた。それがティモシーの足元で上昇する!

 ミュアンは魔術を使いたいが、直線状にティモシーがいる。ハミッシュがどければティモシーに当たる為使えなかった!

 剣はティモシーの右足を切り裂き、ハミッシュの手に収まった!

 「う……」

 ティモシーがその場に倒れ込むと、ハミッシュは戻って来た剣を振り下ろした!

 「させるかよ!」

 カキン!

 ランフレッドが間に入り、振り下ろした剣を受け止めた!

 ハミッシュはニヤッとすると、またミュアンに走り出す。また直線状にティモシー達がいる。

 ミュアンがハッとしてハミッシュを見た。いや、ランフレッド達よりもっと遠くだ!

 「ティモシー!」

 ミュアンが叫ぶ!

 ティモシーも気づき後ろを振り向く。

 (炎! ちょっと開けた場所だけど山火事になるだろう!)

 ハミッシュはティモシーに気を取られているミュアンに剣を振り下ろす!

 カキン!

 「卑怯だぞ」

 なんとか間に入ったルーファスが、ハミッシュに言う。

 「連携プレイと言ってほしいな!」

 ハミッシュはそう返す。チラッと後ろを見れば驚く光景だった。

 ティモシーが結界を張り、炎を吸収していた!

 「何!」

 ミュアン達は安堵するも結界を解いたティモシーはぐったりと倒れ込む。

 「ティモシー!」

 倒れ込むティモシーをランフレッドが支えた。

 「……くらくらする」

 気は失わなかったもののティモシーは動けなくなった。

 「凄い結界だけど一度で魔力切れって、魔力なさすぎるんじゃないか?」

 呆れた様にハミッシュは言う。

 ミュアンは、ティモシーの方へ走り出す。

 「ランフレッドさん、ティモシーは私が! あなたはルーファス王子と一緒に彼の相手をお願いします!」

 ランフレッドは頷くとハミッシュに近づこうするが、彼はまた左手で刃を擦り、ランフレッドに光の刃を放った!

 「おっと!」

 ランフレッドは何とか交わす。

 「ルーこっちへ」

 自分が近づけないので、ルーファスがこっちに来るようにランフレッドが言うもハミッシュは、それをさせない! ルーファスに襲い掛かった!

 ルーファスは、剣を受け止めるも弾き飛ばされる!

 「な……」

 「ルー!」

 ランフレッドは、ルーファスに向かって駆けだす。

 その二人にまた遠くから放たれた魔術が飛んでいく!

 「母さん、お願い!」

 ティモシーは叫んだ! 一瞬躊躇するもミュアンは二人に近づいて結界を張った。

 ミュアンの視界にハミッシュが動くのを捕らえる。それは剣を振り上げる動作だ! 光の刃を打つ気だと思うも間に合わない!

 「ティモシー!」

 ティモシーもハッとするが、どうする事も出来ない!

 (やられる!)

 ティモシーは、ギュッと目を瞑った!

 だが、剣は振り下ろされなかった。飛んできた魔術で剣は突き飛ばされていた!

 ハッとしてハミッシュが魔術が来た方向を見ると、誰か近づいて来る。

 ティモシーも魔力を感じだハミッシュが見つめる先を見た。

 「トンマーゾさん……」

 「ふう。間に合ったか。悪いけど殺させる訳にはいかないんだ」

 トンマーゾは、ティモシーの前に立った。

 全員に緊張が走る。

 「あなたがトンマーゾですか……」

 「なるほど。確かにそっくりな親子だな」

 トンマーゾはニヤッとする。

 「誰だか知らないが、邪魔立てすると一緒に切り捨てるぞ」

 「俺は、魔術師組織チミキナスナの一員だ。別に受けて立つぞ」

 魔術師の組織と聞き、ハミッシュはトンマーゾを睨み付ける。

 「お前が!」

 「言っておくが、剣は飛んで来ないぞ。仕組みは知っているんでな」

 トンマーゾの言葉に、初めてハミッシュが焦りを見せる。

 「ところでミュアン。このまま一緒に来ないか? 匿ってやるよ」

 「一緒に行くとお思いですか! あなたは私のかたきの相手ですよ! 親や兄を殺しておきながよく言えます!」

 トンマーゾの誘いに怒鳴るようにミュアンは叫ぶ!

 「おいおい。あれは戦争だろう? それに、殺したのは俺じゃない。俺はただの組織の一員なだけだ」

 「同じ事ではないですか! あの国が結成した組織でしょう!」

 「まあ、結成当時はな。今は色んな奴が一員にいるよ。って、敵は組織連中にはいないと思うぜ。命令したのは国のトップだ。仇討ちに行くならそっちに行けよ」

 ミュアンは、悔しそうにトンマーゾを見ていた。

 「戦争? どういう事だ?」

 「何も聞いてないのか。まあ、知りたいのなら本人に聞けばいいさ」

 ルーファスの言葉にトンマーゾがそう返す。ミュアンは何も言わなかった。

 (戦争? そんな話し聞いてない……)

 「で、ティモシーお前はどうする? 一緒に来るか?」

 ティモシーは首を横に振る。

 「逃げ回るよりはマシじゃないか? 俺達も魔術師を集めているんだよ。ハルフォード国のようにな」

 「あれは、あの男が勝手にやった事だ! 国の意思じゃない!」

 トンマーゾの言葉にハミッシュは叫んだ!

 「あの男? レオナール王子の事か? お前誰だ?」

 「俺はハルフォード国第一王子ハミッシュだ!」

 「第一?」

 トンマーゾはジッとハミッシュを見て呟く。

 「きっと殺されるからな」

 「なんだと! どういう事ですか! ハミッシュ殿!」

 「そこの二人を庇い立てすれば死罪だ!」

 ハミッシュの言葉に皆唖然とする。

 「まて、それは本当の事か?」

 「あぁ」

 ルーファスの問いかけにハミッシュは返事をし肯定した。

 「なんで! 俺達が何をしたと? だいたい庇っただけで死罪なんて!」

 ティモシーは叫ぶ!

 「それが父上の意思なんでな!」

 「おっと!」

 ティモシーに向けハミッシュはナイフを投げた。いや、また特殊な魔術を使い突然ナイフが飛んできた! それを器用にトンマーゾはキャッチした!

 「お前、暗殺者かよ? しかし、息子にそこまでさせるとはな……」

 トンマーゾが冷ややかな目でハミッシュを見て言った。

 「ミュアン。こいつが死ねば、お前達はもう追われる事はないだろ!」

 台詞が言い終わる頃には、トンマーゾはハミッシュの横に立っていた。そして、ハミッシュは膝から崩れ倒れた……。

 「き、貴様……」

 ハミッシュは、トンマーゾを睨み付ける。

 ハミッシュが放ったナイフをトンマーゾが彼の腹部に刺したのだ!

 「ハミッシュ殿!」

 驚いてルーファスは叫ぶ!

 「あなた何を!」

 「おや? 今回はこれで助かったんだろう? ミュアン、いつまで逃げ回るつもりだよ。ティモシーがそのうちこいつのようになるかも知れないぜ」

 ミュアンが声を掛けると、トンマーゾはそう返した。

 「今回は引き下がるが、次には組織に連れて帰るからな!」

 そしてそう言って走り出す。

 「ハミッシュ様!」

 逆に向かって来る人物がいた。ティモシー達に魔術を遠くから放っていたヒースだ。彼は、束ねた桃色の髪を大きく揺らし走っていた。

 「ハミッシュ殿、気を確かに! ランフレッド、馬車の手配を!」

 「っは」

 ルーファスに言われランフレッドは馬に向かう。

 「ハミッシュ様!」

 到着したヒースは、ハミッシュを抱きかかえようとする。

 「待て! 直ぐに王宮に連れ帰る!」

 「助けると言うのか?」

 「あぁ。勿論だ」

 ヒースの問いにルーファスは頷く。

 「ヒース……すまない」

 ハミッシュの言葉にヒースは首を横に振る。

 「すまないが、君達も一度王宮に戻ってほしい」

 ルーファスは、ティモシーとミュアンに言った。

 ミュアンは、チラッとティモシーを見た。彼は項垂れていた。

 「わかったわ」

 そうミュアンが答えた時、ハミッシュは最後の力で何かを放った。驚くもそれは空中に飛び消えて行った……。そして彼は意識を失った――。

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