第五十話
次から更新日を木曜日に変更します。
ティモシーは、何も言えず怯えた目でトンマーゾを見つめていた……。
(どうしたらいいんだ……)
「待て! ティモシーさんは俺のだ! それに刻印を複数で描くつもりなのかよ!」
その言葉にトンマーゾは、エイブに振り向く。
「今のお前には刻めないだろう?」
「あぁ、今は刻めないね! 何の為に接触していたと思っているんだ!」
「わかったよ。全く」
トンマーゾの言葉に安堵するもグルンとうつ伏せにさせられる。
「え? 何? 痛い!」
トンマーゾは、ティモシーの後ろ髪を鷲づかみにする!
「何をする気!」
エイブが驚いて言うとトンマーゾはニヤリとする。そして、首の付け根に右の人差し指を押し付けた。
「ここに刻印を付けておく。別に魔法陣を描くだけが刻印じゃないからな!」
「え! やだ……」
「やだ? じゃ死ぬか? そのまま帰さないと言ったはずだが?」
「………」
ティモシーは逃げられないと覚悟を決めてギュッと目を瞑った。
「そうそう大人しくしてな」
バチッ。
ティモシーとエイブはハッとする。ペンダントで弾いたからだ!
トンマーゾは、首に鎖を見つけ、首から外す。
「あ……」
(ペンダントが見つかった……。魔術師だとバレた……)
「これか。ほう。随分といいものをあの王子はお前に渡したんだな。これでは俺の術も弾くわけだ。お前はまた、俺をおびき寄せる餌にされたんだな」
怯えるティモシーだが、バレはしなかった。
トンマーゾは、イリステーナを襲った時の事を言っているのだろう。ペンダントを見て、ティモシーと一緒だったのは囮だったと判断したようだ。
そのペンダントをトンマーゾは床に置き、人差し指を首の付け根に押し当てる。
「うわー」
ティモシーは、ギュッと両手を握る。激痛が全身を駆け巡った!
「今の痛み忘れるなよ。ここにはな。神経が通っている。直接殺す事は出来ないが、動けないほどの激痛を与える事もできるからな。裏切るなよ!」
トンマーゾは、ティモシーの上からどいた。もそもそと上半身を起こしたティモシーにトンマーゾは、首からペンダントを掛けた。
「いいか。お前はこれから中の情報を俺達に流す役割だ。相手にバレるなよ」
「え! そんなの無理……」
「無理でもやれ! エイブに死なれたくないだろう?」
それを聞き、ティモシーは青ざめる。
「俺を脅しに使うなよ。っていうか、ティモシーさんに内偵は無理だろう?」
「お前は知らないかもしれないが、何故か結構近くに置いているみたいだ。ダグと俺を嵌めた時、ルーファス王子とティモシーは一緒に来た。他の薬師よりはずっと近いはずだ」
トンマーゾはニヤリとする。
「ティモシーは、見聞きした事を伝えればいいだけだ。ダグが魔術師だという事もお前にはオープンにするぐらい信用いや、気にかけていないようだからな」
酷い言われようだがティモシーは頷くしかない。
「ダグ……?」
「ティモシーと一緒に入った新人だ。そいつも魔術師だった。と、あの魔術師の王子に暴かれたのさ。全く面倒な奴が相手にいる」
「あぁ、なるほど。やっと謎が解けたよ」
エイブは、三人組に襲われた時にどうやって逃れたのかわかったのである。
「謎?」
「いや、こっちの話」
エイブはニッコリと返した。
「まあ、いいか。おぉ、そうだ。何か必要な物はないか? ザイダに買いに行かせる」
「ないよ……」
ため息をしながらエイブは答えた。これが訪ねて来た用事だろう。
「ザイダさんと一緒に暮らしてるの?」
ティモシーは驚いて聞いた。
「いや、別だ。だがあいつは俺が刻印を施した。まあ、エイブが生きている間は変な気は起こさないだろうけどな」
その答えにティモシーは更に驚いた!
「再度忠告しておくけど、死にたくなかったら裏切るなよ。二人共」
そう言うと、やっとトンマーゾは部屋を出て行った。
二人は安堵のため息を漏らす。
「ごめん。やっぱりここに連れて来るんじゃなかった……」
ティモシーは首を横に振る。
「ザイダさんは、エイブさんが魔術師だと知ってるの?」
「いや、知らないよ。俺もトンマーゾさんの刻印を刻まれている事になっている。それより、首に刻印を刻まれた事、絶対にバレないようにね。バレたらもう相手の信用を得る事は出来なくなるから……」
ティモシーは、頷く。
「エイブさんは、早く体を治して」
エイブも頷いた。
「その刻印だけど、魔法陣じゃないからトンマーゾさんが死ねば解放されるはずだから……」
「こ、殺さないと解放されないの?」
「多分ね。後、俺に何かあっても君は向こう側にいるんだよ。俺のせいでこうなったのにこんな事言うの変だけど。この組織は俺が思っていた組織とは違ったみたいだ。俺は、ヴィルターヌ帝国の様な共存を望んでいたのに」
エイブは首を横に振った。
「ううん。トンマーゾさんは、女性二人を共存が無理な者達だからって……。もうその時点で望んでいた共存と違っていたのに。自分を誤魔化していた」
エイブは俯いた。
「皇女が狙われてから目が覚めるなんて……。皇帝だけは助け出したい。何としても! 難しいと思うけど、全く情報を得られないと怪しまれるから見聞きした事は教えて! 俺が教えても大丈夫そうなのだけ伝えるから……」
ティモシーは頷く。
「無理はしないでね。探りは別に入れなくていいから……。じゃ、もう戻った方がいいよ。きっと探してる」
「うん……」
「またね」
「うん。また夢で……」
そう言い残しティモシーは部屋を出て一階に上がり外に出た。
(俺が何とかしなくちゃ!)
そう思うもどうしたらいいかなどわからない。
「待ちな」
ティモシーはビクッと体を振るわす。ドアの横の壁に腕と足を組んでトンマーゾが寄しかかっていた。
(もしかして、さっきの会話聞かれていた?)
心臓がドクンドクンと高まる。
「手を出しな」
「手……?」
言われた通り、恐る恐る両手を出すと、紙と黒い石を渡される。
(この黒い石!)
「見覚えあるだろう? もし相手にバレた時に逃げ出すのに使いな。その紙に呪文が書いてある。石を持って口に出して唱え、その石を壊せば発動する。一度きりのものだからな。あと呪文は暗記して、燃やして処理しろ。わかったな」
「はい……。あの、この石はどんな効果が?」
「近くの相手の魔力を封じるモノだ。威力はそうだな。そのペンダントにそのレジスト効果があっても効いちゃうぐらいの優れものだ。後は必死に逃げてこい。どこかに隠れて、エイブに連絡を取れ。言いな」
ティモシーは小さく頷く。
「それ、しまっていけよ……」
そのまま持って立ち去ろうとすると、トンマーゾは呆れた様に言った。
「あ……」
慌てて、ポーチの中にしまった。
そして、ティモシーは走り出した。まるで逃げる様に。その姿をジッとトンマーゾが見つめていた。
貰った石を使って逃げエイブに連絡を取った所で、二人共消されるだろうとわかっていた。
兎に角今は、皇帝を助け出すのが先だ。だが、そうすれば裏切った事がバレるだろう。
はぁはぁと息を切らし、一度立ち止まる。知っている道についた。
エイブとトンゾーマの事は話した方がいいのだろうか? ティモシーは思案する。
トンマーゾに見つかる前に、エイブは会った事は内緒にと言っていた。取りあえずそうした方がいいのかもしれない。
(そうだ。母さんに組織の事を聞いてから判断しよう……)
そう結論に至った。
「ティモシー! やっと見つけた」
声の方に振り向くと、ダグが居た。
「よかった。どこまで行っていたんだ」
「あ、えっと。わかんない……」
「はぁ? まあいい。戻ろう。大丈夫だ。皆もレオナール王子の説明で納得したから」
ティモシーは頷いた。どこまで話したのか不安だったが、戻るしかなかった。
五十話達成!
いつも読んで下さりありがとうございます!
これから謎が深まりティモシーも飲み込まれていきます!
どうぞこれからも宜しくお願いします。




