第五十一話
ティモシーは、レオナールの部屋に二人でいた。いつも二人で話す時と同じで、ソファーに向かい合って座っていた。
「先ほどはすみませんでした。夢の事を口にしていしまい……。皆には、必ず時が来たら話すという事で、承諾を得ました。あなたが魔術師だという事も母親の事も話しておりません」
「ありがとございます」
俯いたままティモシーは礼を言った。ティモシーはずっと俯いたままだ。
「イリステーナ皇女から夢の内容をお聞きしました。あなたはあの後、エイブと何をお話になったのですか?」
「特段何も……。ただ、もう来ないと言われました……」
「来ないとは? イリステーナ皇女に見つかったからですか? ですが、その前にあなたの母親にも知られておりますよね?」
ティモシーは、ギュッと両手を握る。
「俺を組織に誘おうとしていたみたいなんだけど、諦めたって言われました……」
「そうですか。諦めましたか」
驚きもせず納得した様子にティモシーは、エイブの目的を知っていたのかとチラッとレオナールを見ると、彼と目が合いサッと顔を伏せる。
「あなたは夢を覚えてないと思っているようですが、思い出せないだけで記憶はしているのです。彼は、あなたが魔術師だと気づいて近いづいていました。上手く取り入って、あなたを仲間に引き入れようとした。そう考えれば、何度も接触した事に納得できます。そしてそれが成功すれば、連絡を取り合えるのですから、夢で情報交換が出来ます」
その言葉にティモシーはドキリとする。これからは、そうする事になっているからだ。まるで見透かされたようで怖かった。
「ティモシー、お願いがあるのですが……」
「え? お願い?」
レオナールは頷く。
「昨日言っていたように、あなたの母親に連絡を取り、魔術師の組織に狙われている理由を聞き出して欲しいのです。彼女……あなたの母親は、組織の重大な情報を知っていると思われます。でなければ、一個人をずっと探している訳がありません。わかっていると思いますが、もう逃げきれません。助かる方法は一つ、魔術師の組織を潰す他ないのです。お願いできますか?」
ティモシーは頷いた。
「手紙を書いてみます。それで会う約束をして聞き出します」
「わかりました。お願いしますね」
そう言ってレオナールは立ち上がり、何やら持って来てテーブルの上に置いた。それは、ペンと紙、そして封筒だ。
「………」
「陛下に譲って頂いた封筒があります。手紙はこちらに入れて下さい。これは、薬師に緊急連絡をする封書です。これを使いましょう。私がこれから言う内容を一筆書いて下さい。出来ますよね?」
レオナールは、ティモシーの顔を覗き込んでいつもより強い口調で言った。いつもと違いお願いではなく、やれと言ってきた。断れる訳がない。
母さんへ
お元気ですか? こんな封書でお送りした事お許し下さい。緊急事態が発生しました。エイブさんが逃げ出したのです。俺も組織に命を狙われました。
魔術師の組織との関係を知りたい。会って話がしたい。連絡待ってます。
ティモシーより
ティモシーは震える手で手紙を書いた。
それを受け取ると、レオナールは封筒に入れた。
緊急連絡用の封書は、直接本人手渡しが行われ、その場で本人が確認する事になっている。つまり、受け取れば必ず目を通す事になる。知らないと言い逃れが出来ないシステムなのだ。それをレオナールは利用した。
「これで遅くても二日後には彼女が読む事になります。もし手紙で返事が返ってきましたら、必ずお見せなさい。いいですね?」
「はい……」
ティモシーはここまでするとは思っていなかった、ヴィルターヌ帝国の一件で動かざるを得なくなったのだろう。
「あの。ヴィルターヌ帝国の事はどうするんですか? 夢で皇帝が連れ去られたって聞いたんだけど……」
「あなたの母親が情報を持って来ましたら、一緒に聞かせて差し上げます。今は、これ以上申し上げる事はありません」
「はい……」
(もしかしたら、俺、何か疑われている?)
夢でエイブと連絡を取り合える以上、自分には話す気がないのだろうとティモシーは思った。これじゃ、何も情報をエイブに渡せないと思うも仕方がなかった。
「ティモシー。ないとは思いますが、エイブから接触があっても無視するのですよ。いいですね」
ティモシーは元気なく頷いた。
その日、午前中は調合を行い、昼からはダグと一緒に倉庫の手伝いをし、迎えに来たランフレッドと一緒に部屋に戻り、後はずっとランフレッドは部屋に居た。
「今日は、ルーファス王子の護衛はもうないの?」
「あぁ、しばらくは昼間だけになった」
「そ、そうなんだ……」
(もしかして、監視されている?)
ティモシーはそう思った。布団に入ってもランフレッドの視線を感じ、彼にも疑われていると思うと悲しくなった。
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「ティモシーさん」
ティモシーは呼ばれ振り向く。勿論、相手はエイブだ。
「あ、エイブさん。……ごめんなさい」
「なんでいきりなり謝るの? もしかして何も情報手に入らなかった?」
ティモシーは頷く。
「だろうね」
「え?」
ティモシーが驚くと、エイブはニッコリ微笑む。
「大丈夫。想定内だよ。怪しい人物に情報を教える訳ないだろう?」
「俺……怪しい人物なのか?」
エイブは頷く。
「凄くね。夢で俺と接触しているとわかったら教えないでしょう。普通は」
それもそうかとティモシーは頷いた。話す気がなくとも、上手く引き出される可能性があるのだから。
「あ、そうだ。外に出たらトンマーゾさんがいて、相手を封印する石だと黒い石渡されたんだけど……」
「あぁ、あれ。最初から不思議な魔力がこもった鉱石みたい。それに魔法陣を刻んで刻印を掘ってあるんだ。後は魔力を練ると魔法陣が起動して、壊れると発動する仕組み。魔術師じゃない人は練れないから呪文で起動させるんだ」
そうだったのかとティモシーは頷いた。
「あ!」
「どうしたの?」
「いやえーと。呪文のメモを貰っていたけど見るの忘れていたなと思って。でも、ずっと周りに人がいたから見る機会なかったけど……」
「君らしいね」
エイブはクスッと笑う。
「それ使わない方がいいかもね。本当にトンマーゾさんが言ったような効果なのかはわからないからね」
ティモシーは頷く。どうせ逃げてもトンマーゾに殺されるだけだ。それならレオナールに捕まるほうがいいかもしれない。
「そうそう聞きたい事あるんだよね。イリスが俺と君がこうやって会っていた事をあの王子に話したんだよね? どこまで話していたかな?」
「えっと、俺の前では何も。夢で会っていたってバレて……」
「じゃ、君が王宮を逃げ出した理由は? それで王子に君が問い詰められたからなの?」
ティモシーは軽く頷くが俯いた。本当はあの場にいた全員にエイブと夢で会っていた事がバレている。どちらかというと、ランフレッドに問い詰められて逃げ出したのだ。
「まあ、いいや。じゃトンマーゾさんに言った話は作り話? 本当の話? イリスの案内……」
「え? あの場しのぎの嘘だけど……」
エイブは右手を顎に持っていき考え込む。
「あのさ、イリスと一緒に出掛けたのはどうして? 夢で彼女に会う前の話だよね。そこで俺は、君にその事実を聞いたんだし……」
ティモシーはまた俯いた。
「そこは教えてほしんだけど。組織の人間をおびき寄せるワナじゃなかった訳だよね? だとしたら何? 全然思いつかないんだけど?」
エイブは、ミュアンと会った時の夢からバレている事を知らない。話せばミュアンが組織に追われている人物だと教える事になる。彼を信じていない訳ではないが、もしもの事を考えると言えなかった。
「俺も知らない……。ダグさんの代わりに一緒に届けに行っただけで、俺は皇女だと知らずに行動していたから……」
「ふーん。そうなんだ。わかった」
ティモシーでもエイブが今の説明で納得していないのがわかった。
「さて、今日の所は帰るかな、イリスに見つかるかもしれないし」
ティモシーは、不安げな顔でエイブを見た。
「そんな顔しないの。大丈夫だから。トンマーゾさんだってわかっていて、命令してるんだから」
「え……」
ティモシーが驚くと、エイブはほほ笑んだ。
「俺達を試しているんだよ。ガセネタを掴ませるかどうかね。君は今まで通りにしていればいいから。ただ、周りでいつもと違う事があったら教えて! じゃ、また」
「うん……」
ティモシーが頷くと、エイブの姿はスッと消えた――。




