第五十二話
ティモシーは目を覚ました。何となく体がだるい。ベットから起き上がるとふらつき、床に倒れ込んだ。
「いた……」
「お前何やってるんだ? 寝ぼけてるのか?」
ランフレッドは、ティモシーを起こそうとして驚く。
「お前、熱あるんじゃないか?」
「……大丈夫」
「大丈夫じゃない! ほら、ベットに戻れって」
ランフレッドは、ティモシーを抱きかかえベットに寝かせた。
「今、誰か呼んで来るから大人しくしてろよ」
そう言うとランフレッドは部屋を出て行く。その姿をボウッとして見送ると、すぐにダグが部屋に入って来た。
「あ、ダグさん……」
「今、ランフレッドさんがブラッドリーさんを呼びに行ったから。大丈夫か? 結構熱ありそうだな……」
「………」
ダグは取りあえず、冷たいタオルをティモシーのおでこに乗せる。
「なあ、ティモシー。お前、レオナール王子とどこに出掛けていたんだ? 皆は気づかずにスルーしていたみたいだけど、イリステーナ皇女がポロッと言ったんだ」
それを聞きティモシーは、驚いてダグを見た。聞き取りの時は上手く誤魔化せたが、結局二人で出掛けた事をイリステーナは話してしまっていた。
「あの人、お前に何をさせているんだ? ずっと傍に置いていたよな? ランフレッドさんもそれを了承している感じだったし……。もしかして……」
トントンとドアがノックされ、ランフレッドが入って来た。ブラッドリーも一緒だ。
「話はまた後で……」
ダグはボソッとティモシーに耳打ちした。
ブラッドリーがティモシーを診ている間に、ランフレッドはレオナールに連絡をしにまた出て行った。そして、二人で戻って来る。
「どうです? ブラッドリー」
「主に精神的ものでしょう……。薬を用意してきます」
「お願いします」
レオナールが聞くとブラッドリーはそう答え、調合しに研究室に向かった。
「じゃ、今日は俺、ルーファ……」
「あなたはきちんとルーファスの護衛を致しなさい」
ランフレッドがついていると言おうとすると、それをレオナールが遮った。
「ブラッドリーさんにつかせるのですか?」
「いいえ。私がつきます。皆さんにはお仕事があるのですから……」
レオナールがランフレッドに答える。
「……一人で大丈夫だけど」
ティモシーがボソッと言うと、三人は振り向いた。その顔は、心配そうな顔だ。
「あなたは何も心配せずにおやすみなさい」
(やっぱり見張られているんだな、俺……)
「はい……」
ティモシーは、エイブが言っていた通り、自分は疑われ監視対象だと確信する。自分を見張っていても仕方がないのにと思いながらも、返事を返した。
暫くするとブラッドリーが調合した薬を持って戻って来た。水と一緒に渡される。
ティモシーは苦い薬を水と一緒に飲んだ。
「今日は私がついています。あなたも仕事に戻りなさい」
レオナールの言葉にブラドリーは、はいと頷く。
ティモシーとレオナールを残し、他の者は仕事へと向かい部屋を出て行った。
レオナールは、ティモシーが横たわるベットの脇に座ると、ティモシーに話しかける。
「すみません。あなたの信用を得るにはこうするしかなかったのです……」
「……別にいいです。疑わられるのは仕方がないし……」
「あなたの母親が話す気になって下されば、あなたの疑惑は晴れるはずです。それに事は大きく進展すると思われます」
ティモシーは、不安げにレオナールを見る。
ミュアンが持っている情報がもし、自分にとって好ましくない物だったらどうなるんだろうか。
例えば、魔術師の組織に属していて、逃げ出していた。もしそうなら情報は持っているかもしれないが、警戒対象者になるかもしれない。それにもしそうだとしたら、自分は大変な失敗をした事になる。
(やっぱり話した方がいいだろうか?)
レオナールにだけにでも話し、相談した方がいいかもしれない。でも、その事がバレれば、エイブが殺される。彼を助け出したい。ティモシーはそう思うと、どうしても言い出せなかった。
「ティモシー。一つお伺いしたいのですが……あなたは、エイブと私のどちらを信用しておりますか?」
「え……」
何故突然そんな事を聞くのだろうとティモシーは驚く。もしかして本当は色々バレているのだろうか?
この場しのぎでもレオナールだと言っておくべきなのに、口は開かなかった。
「いえ。忘れて下さい」
そう言ったレオナールは小さくため息をついた。
「もう、寝なさい」
レオナールは、ニッコリ微笑んだ。そう言えばさっきから眠気が襲ってきていた。ティモシーは、目を瞑った。
「彼にそこまで、心を許していますか。厄介ですね……」
レオナールがそう呟く声がティモシーの耳に届いた――。
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「お待たせ」
そう言って姿を現したのは、エイブだった。
「お前なぁ……」
イライラとした口調で返したのはトンマーゾだ。彼は椅子に腰かけ足を組み、テーブルを右手人差し指でトントンと突いている。
エイブは精神体だがトンマーゾは起きていた。
トンマーゾが居る床には魔法陣が描かれている。これには、覚醒したまま精神体と話が出来るモノだ。
「何をしていた!」
「あぁ、ごめんごめん。一旦体に戻ったら寝ちゃった。ほら時間が早かったから、まだ寝てたでしょ?」
エイブの返答にギロリとトンマーゾは睨む。
「で、ティモシーの方はどうだった?」
「予想通り、何も情報は得てないようだよ」
トンマーゾは、エイブを何か言いたげにジッと見据える。
「何? 信じてないの? 俺の迫真の演技聞いていたでしょう? ティモシーは、俺の事を信じ切っているって」
トントンとトンマーゾは、机を突く。
「俺が疑っているのは、ティモシーじゃないんだけどな」
「ふ~ん。じゃ、俺はどうすれば信じてもらえる訳?」
トンマーゾは腕を組む。
「お前、あの時、皇帝を助け出すって言っていたな。いつ知った?」
エイブはため息をつく。
「細かいなぁ。実は、夢でティモシーに接触していた時に皇女に見つかったの。そこで聞いた。それでティモシーは、皇女から話を聞いたレオナールに夢の事を問いただされて逃げ出したみたい」
ダン! トンマーゾはテーブルをぐうで叩き、エイブを睨み付ける。
「お前、そんな大事な事黙っていたのか! 何やってるんだよ!」
「そうやって怒ると思うから言いたくなかったんだよね……」
とぼけた様にエイブは言った。
「お前、事の重大さをわかっているのか?」
「仕方がないだろう? 皇女が来ているのを知らなかったんだから! 防ぎようがなかった!」
っち。
トンマーゾは舌打ちをし腕を組んで考え込んだ。
「ところでさ。皇帝を誘拐して何する気? 普通、頭をヤレばそれで方が付くでしょう?」
チラッとエイブを見る。
「それはお前に関係がない事だ。それとも祖国が心配か?」
「別に。ただ疑問に思っただけ」
「作戦変更だ。お前は昼間皇女を見張れ。何をしていたか、報告をしろ」
「……皇女を? 外に出たら連絡すればいいって事?」
「いや、目を離さずに寝るまで見張れ」
「寝るまでねぇ……。一応皇女はレディなんだけどなぁ」
ダン!
トンマーゾは、テーブルを叩きエイブを睨む。
「な・に・が、レディーだ! 勝手に動いて失敗した挙句、今度は勝手に接触して、見つかりやがって!」
「はいはい。わかりました。見張りますって。で、ティモシーの方はどうするのさ?」
「たまに状況を聞きに行け。それと薬はちゃんと飲めよ。お前の為に俺が調合してやっているんだからな」
「わかってるって。じゃ、そういう事で……」
エイブはトンマーゾの所から離れ、自分の体の元へ向かう。前の居場所から移動していた。今度は二階だ。窓のある壁際にベットが置かれていた。その下には、魔法陣が描かれている。トンマーゾのとは違い、これがあると精神体でも目で見たように風景がわかる。今までは真っ暗闇の中を彷徨っていたが、見える事により自分がどこにいるか把握できる。
「でも、あれだね。自分の体がこうやって見えるって変な気分……」
体の所まで戻って来たエイブは呟く。横たわったエイブの手を握りしめ、ザイダがベットの横にいた。
「はぁ。まだ居るよ彼女……。俺のせいでこんな目に遭っているというのに、甲斐甲斐しく世話しちゃって……。俺にそんな価値ないのにね……」
ボソッと呟くとエイブは、スッと体に戻って行った――。
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ピクッと指が動く。
「エイブさん!」
ザイダが声を掛けると、そっとエイブは目を開けた。
「よかった。全然起きないからどうしようかと……」
「うん? 深く眠っていたみたい」
エイブが体を起こすと、ザイダが薬を手渡す。
「はい。まだ飲んでないでしょう」
「ありがとう……」
エイブは水も受け取ると、それを一口飲む。
ザイダが後ろを向き話しかける。
「昼は、これないからここに置いておくね」
その隙にエイブは、薬をサッとゴミ箱の中に捨てた。
「うん。ありがとう」
そう言いながら水だけを飲み干す。
空になったコップと、薬を包んでいた紙を渡した。
エイブは横になった。
「俺、寝るから君は戻りなよ」
「うん……」
エイブにザイダは不安げな顔を向け返事をするも言われた通り部屋を出て行った。
今いる部屋の窓はフィックス窓で開閉できないモノだ。その窓からは王宮が小さく見えていた――。




