第四十八話
ティモシーは、パチッと目を覚ました。今回も夢の内容を全て覚えていた!
ガバッと起きると薬師の制服に着替える。イリステーナに話を聞こうと思った。今なら聞けば、この国に来た理由も話してくれるかもしれない。そして、エイブの事も……。
そう思って着替え終わった頃、通路が騒がしくなる。そして、ノックもなしにドアが開けられた。
入って来たのはイリステーナだった。
「お待ちください。まだ寝て……あれ、今日は随分早いな……」
そう驚いて言ったのはランフレッドだった。勿論フレアも一緒についてきている。そして何故かルーファスにレオナールもいた。ダグも騒ぎを聞きつけ、そっと覗いている。
「起きていたわね! あの後、エイブと何を話しました? 全てお話しなさい!」
唐突にイリステーナは言った。
「え!」
ティモシーは驚くも、ハッとする。皆がいる前だ。しかもエイブにはもう会うなと言われていた。
「ちょっと待って!」
「待てないわよ! 会いに行くの彼に?」
イリステーナの問いにティモシーは、ブンブンと顔を大きく横に振る。会いに行こうとしたのは、イリステーナにだ。
「違います! あなたに会いに行こうと……」
「彼女に? では、夢でまた接触したのは本当なのですね?」
「夢……だと?」
レオナールの問いかけに、ルーファスが反応した。レオナールはしまったと思うも遅い。
「まさか、あの日からずっと夢であいつと会っていたのか?」
今度はランフレッドがティモシーに問う。ティモシーはブンブンと顔を横にふった。
「お、覚えてない!」
「覚えてないって! 覚えているから皇女に会いに行こうと思ったんだろう? 何故だ。何故、俺にも黙っていた!」
ランフレッドが更に問い詰める。
「だから覚えてないんだってば!」
「ランフレッドお待ちなさい!」
言い合いになり始めた二人をレオナールが制す。
「レオ殿はご存知だったのですか? それを私達に秘密に?」
レオナールが止めるも今度はルーファスが疑惑を抱く。
(このままだとレオナール王子まで……)
「もう! そうだよ! エイブさんと夢で会っていた! レオナール王子に黙っているようにお願いしたんだ!」
ティモシーが叫ぶようにそう言っていた。
「あいつがお前に何をしたか忘れたのか? それなのになぜ?」
「………」
「俺ってそんなに信用ないか?」
「ランフレッド、お待ちなさい。きちんと後でお話しますから」
(全てがバレてしまう……。何もかも終わる!)
ティモシーは、そう思った瞬間、頭が真っ白になった。
「言えない事だってあるんだ! それを知られたくないから黙っていた。だからレオナール王子には黙っていてもらったんだ!」
「エイブに脅されていたのか?」
驚いて、ランフレッドが言う。
「違う! 脅されてなんていない! でも知られたく内容が夢にあったんだ! もう放っておいてよ!」
ティモシーはたまらずランフレッドを突き飛ばし部屋から逃げ出した!
「おい!」
ランフレッドが捕まえようとするも、その手をティモシーは払いのけ走り去る。
「レオ殿! ご説明頂きたい。私はあなたを信用していたのですが!」
ルーファスが毅然としてレオナールに言った。
「別に裏切ってはおりませんよ。ティモシーは魔術師の組織の事を知る人物と繋がっています。その者の信頼を得なければ、情報は手に入りません。ティモシーにはその方を説得してもらう予定でした。ですが……難しくなったかもしれません。ティモシーに何かあれば、協力はして下さらないでしょう。すみません。私のミスです。つい、口が滑りました」
レオナールは、ため息交じりに述べた。
「で、その人物とは?」
レオナールは、首を横に振った。
「ティモシーには、私を信頼して頂かなくていけません。ですので今はまだお話できません」
「私……余計な事をしたのですね」
イリステーナは、俯いて呟いた。
「あなたも夢で彼と会ったのですね? やはり元からその能力があったという事ですか?」
「さっぱりわからないだが。夢を見る能力とかなのか?」
レオナールの言葉にルーファスは問う。
「いいえ。精神を体から切り離し、自由に移動できる能力のようです。残念ですが、私には出来ません。ですが、イリステーナ皇女にはお出来になるようです」
「そうね。彼から教わったのよ。……わかったわ。話すわ。どうしてこの国を訪れたのか」
イリステーナは、静かに語り始めた。
先日皇帝であるモゼレスが突然倒れた。問いかけに全く反応がなく、すやすや寝ているように見える。
そこに魔術師の組織チミキナスナにモゼレスの命は預かった。返して欲しければ『文献』を渡せ。と脅迫が届く。
普通なら本人が寝ているのだからそんな脅しには乗らない。だが、相手は『文献』の事を知っていた。この文献は魔術師に関わる物だった。つまり自分達を魔術師だと知って脅して来た事になる。相手も魔術師だと思いモゼレスの精神と接触を図ろうと試みるも出来なかった。精神が抜けていた。脅迫の内容は本当だったのだ!
この組織の噂は耳にしていた。薬師達を拉致していると、そして魔術師の国ハルフォード国が乗り出し情報を得て、その情報はエクランド国も共有している事を掴んだ。そこで、魔術師の組織の情報を得る為にこっそりと探りを入れる事にする。
こっそりとなので、それなりの体裁がいるだろうと、協定を結びに来た事にした。だがそこに、レオナールが登場する。勿論予定外だった。相手は魔術師。情報通りなら手を結んだ方がいい相手だが、もしかしたら裏で魔術師組織と繋がっていないとも限らない。彼が現れたタイミングが良すぎた為、そう勘ぐった。
早急に確認しなくてはと思っていたところに、ティモシーとレオナールが隠し通路に入って行ったのを目撃する。まずティモシーに近づき情報を得ようと試みた。だが、エクランド国に来ていた事が魔術師の組織に知れていて襲われた。
そして昨日レオナールから、襲ってきた相手は捕らえていたある魔術師の組織だと聞かされ、エイブも仲間だと聞いた。夢でとははっきり言わなかったが、ティモシーに接触を図っていたと聞く。そこで探りを入れる事にすると、ティモシーとエイブに接触したという訳だった。
「そういう事か」
ボソッとルーファスは声を漏らす。チラッとレオナールは彼を見て、目が合うと頷いた。ルーファスは、二人が抜け出して会いに行った人物こそが魔術師の組織を知るキーパーソン――ティモシーの母親だと気づいた。
「それで、エイブとは何を話したのでしょうか?」
「父上の話をしました。彼は何も知らなかったようです。そして、もう自分は向こう側の人間だから協力は出来ないと、あなたを頼れと……」
レオナールの質問に力なくイリステーナは答えた。
「そうですか。ではティモシーは起きてすぐ、本当にあなたに話を聞きに行こうとしていたようですね。ティモシーも魔術師の組織の情報を得たいと思っているのですから……」
ランフレッドは、ガッと頭をかいた。
「それって俺にも話せない事なのかよ!」
「近すぎる者には、時には話せない事があるものなのです。ティモシーの気持ちの整理が付けば戻ってくるでしょう。今、頼れるのは私だけでしょうから……」
「随分自信が、おありなのですね?」
レオナールの言葉にイリステーナな突っ込んだ。
「あなたのように、一人で解決できる問題ではありませんので」
「それってティモシーを探しに行かないって事なのですか?」
ずっと成り行きを見ていたダグが聞いた。
「そうですね。あなたになら近い存在なので、ティモシーも心を開きやすいでしょう」
レオナールの言葉に同じ薬師だからと捕らえるが、彼は同じ『魔術師』だからという意味で言っていた。
「じゃ、俺探してきます」
「お願いします」
「頼むな」
ダグは頷いて走って行った。




