第四十七話
レオナールは、ジッとティモシーを見つめ言った。
「あなたはつくづく災難にあう方ですね」
「………」
(それ、俺のせいじゃない……)
レオナールは、大きなため息をついた。本来ならティモシーがつくはずのものだ。
「今回は焦りました。しかし、命が狙われているのに出歩くなど、彼女は何を考えていたのでしょうか」
「狙われているって知らなかったとか?」
ティモシーがボソッと返す。
「協定内容や態度から言って、少なくとも何かが起こっているのでしょう。大体皇女と側近のみなど、昔から交流のある国でないとありえませんので、よっぽど切羽詰まっているとしか考えられません。皇帝の身に何かあったか、これからそうなると予測される事態になっているか……」
「……あの、俺になんでそんな話を……」
襲われた時の事を聞くのかと思えば、全然違う話を聞かせられた。疑問に思ったのである。
「あなたに正直に話して頂きたいからです」
「正直にって何をでしょうか」
ティモシーは、生唾をごくりと飲み込む。
「エイブとの事です。先ほど言った事は本当です。エイブと彼女には繋がりがあります。ですが、彼女達が彼らを逃がした訳ではないでしょう。トンマーゾから命を狙われたのが証拠です。彼女は、ここにエイブがいる事は知らなかったと言っています。ですがエイブが彼女達が来る事を知っていた可能性はあります。思い出せませんか? 彼との会話を」
レオナールは、エイブとの夢の話を聞きたいと言っているとティモシーにも理解できたが、どんな話をしたかを覚えているのは一回だけだった。それはもう、話した内容だ。
「すみません。本当に覚えてないんです」
ティモシーは、俯いて答えた。
「そうですか」
「あの、俺とレオナール王子が王宮を出たのを見たようなんですが、どうして見られたってわかったんですか?」
「彼女はあなたの存在は知らなかったはずです。あなたの事を知ったのだとしたらあの時しかありません。そして、接触を図った。何か私の事を聞けると思ったのでしょう」
「なるほど」
ティモシーは、レオナールの推理に関心して頷く。
「彼女は何かを隠しています。そして、簡単に助けを求める事も出来ない状況なのでしょう。それが、魔術師の組織に関わる事だとしたら放ってはおけません」
彼女は一体自分から何を聞き出したかったのか。ティモシーは俯いて考えていた。
レオナール事には違いない。だがあの時、別に脅そうとしていたわけでもなさそうだった。内容は物騒な事ではないだろう。
「ブラッドリーの事ですが、彼にはあなたが魔術師だという事はバレてしまいました。ですが、今まで通り振る舞う様に指示してあります」
やっぱりバレていたとティモシーは溜息をつく。
「あの、イリステーナ皇女には……」
「気づかれておりませんよ」
「え! だってあんな近くで使ったのに!」
レオナールはジッとティモシーを見つめる。
「あなたは本当に自分の事がわかっていないのですね。大抵の者は、使われた方向はわかりますが場所はわかりません。彼女は、ブラッドリーが魔術師なのを知っています。ですので、彼が使ったと思っているようです」
ティモシーは、レオナールの言葉に驚いていた。自分は特別魔術の練習もしていないのに普通にわかる。ただ魔術の種類まではわからないだけだった。だけど他の人は、それすらわからないものだったと今知ったのである。
「あなたが本気で魔術を学べば、ダグの上を行くと思いますよ。結界で言えば、あなたは、ブラッドリーと同じ事が出来ると思います。きっと母親もそれに気付いているはずです。だからこそ、そのペンダントを作ったのでしょう」
(俺は魔術師としては優秀だったのか……)
きっと魔術を使えば、ミュアンの子だともバレるかもしれないと思ってミュアンはペンダントを作ったのではないか。ミュアンに話を聞きたい。もう魔術師の組織からは逃れられない。向こうにはエイブがいる。自分が魔術師だというのも知っていてミュアンとも出会ってしまった。それを組織の者に言えば、自分もミュアンも追ってが来る。
レオナールの協力ではなく、してもらう方になるだろう。だとしたら、ミュアンの情報が必要だ。自分になら話してくれるかもしれない。
ティモシーは、そう結論を出した。
「あの、俺、母さんに連絡をとって話を聞いてみます!」
「そうですか。ありがとう。お願いします」
「はい」
ティモシーは、そう約束し部屋に戻った。
☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆
「ティモシーさん!」
そう呼ばれ、振り向いた。
「あ、エイブさん。……って、ここ夢!」
会うなと言われていのに、やはり無理だった。
「ごめんね。逃げ出しちゃって」
「……その、体は大丈夫?」
(何聞いてんだよ、俺)
「心配はいらないよ。ザイダさんが見てくれているからね」
「やっぱり一緒なんだ……」
ティモシーは、もうこうなったら何か聞き出そうと思った。
「ねえ、魔術師の組織って何が目的なの?」
「前にも話したんだけどなぁ。やっぱり覚えてないか。魔術師の世界の復活だよ」
(魔術師の世界の復活?)
だったら何故、魔術師のイリステーナを殺そうとしたのか。ティモシーは疑問に思う。
「ねえ、その組織って魔術師同士が手を取り合って魔術師の世界を作ろうとはしてないよね?」
「どういう意味?」
「どういう意味ってそのままだよ! イリステーナ皇女を襲っておいて! トンマーゾさんが殺しに来たよ! 知らない訳ないよね?」
「え……」
ティモシーの言葉にエイブは、本当に驚いた顔をする。
「今なんて……なんでイリスを? 何故彼女の事を君が知って……」
「え……イリス?」
エイブはハッとする。
「皇女を襲った話は聞いてないよ。俺、ほとんど寝たきりだからね」
ティモシーは、思ったよりエイブとイリステーナの仲は親密だと思った。彼は、イリステーナの事をイリスと呼んだ。
「ティモシー!」
突然、エイブの後ろから呼ぶ声が聞こえ見ると、そこにはイリステーナが立っていた。
「え……」
「もしかしてそこにいるのはエイブなの?」
ティモシーが驚いていると、エイブが振り向いた。
「……イリス! 何故君がここに!」
エイブは驚きの声を上げた。
「話は本当だったのね! 彼からティモシーが夢でエイブと会っていたみたいだって聞いて……。あなた何をやっているの? どうして父上を!」
「え……モゼレス皇帝?」
「知らないの? じゃ、あなたがいる魔術師の組織じゃないの?」
「まって! 話が見えないよ」
「父上が寝たきりになった。ううん。精神が空なの。こうやって見に行ったらいなかった! このままだと体の方が持たないわ!」
モゼレスの体調が悪いどころの話でなかった。だが、どうしてそれでエクランド国に来たのかはまだ疑問が残る。
「あ、あの、何しにこの国へ」
「………」
そう言えばティモシーが居たという顔でイリステーナは、彼を見た。
「悪いけど、言えないわ」
「え……」
「イリステーナ皇女、残念だけど皇帝の件は知っていても教えられないよ。俺はもう向こう側の人間だからね」
「エイブ! 一体何があったのよ!」
エイブはイリステーナから顔を背ける。
「別に。ただこの世界に嫌気が差しただけ。皇帝の事は……俺にはどうにも出来ないから……。頼るなら魔術師の王子にしなよ」
「エイブ……。そうわかったわ!」
そう言うとスッとイリステーナなは姿を消した。
「エイブさん、いいの?」
「いいのって。どうすれと? イリスが狙われた事さえ知らなかった俺に何が出来るって?」
「え? 本当に知らなかったの?」
エイブは小さくため息をつく。
「やめた。君をこの組織にと思ったけど……君には合わなさそう」
「待って! 皇女を助けないの? イリスって呼ぶぐらいだから親密な関係なんだよね? 彼女、側近の人と二人で来たみたいなんだ! きっと切羽詰まってると思う」
「……親密か。確かに他の者よりはね。俺は、彼女達と一緒に魔術を教わっていただけだよ。年も近いし遊び相手でもあったけど、それだけだ……」
「それだけって……」
エイブは見た事のない表情をしていた。切ないようなつらそうな顔だ。
「俺、エイブさんがイリステーナ皇女を助ける気なら協力するよ!」
「本当に君はお人好しだね。……だったら彼女の助けになってあげて」
「あ……」
そう言い残し、エイブもスッと姿を消した――。




