第四十六話
「まあ、座れよ」
部屋に着くとダグはそう言ってソファーに座った。ティモシーも向かい側に腰を下ろす。
「で、皇女の言っていた事って本当なのか? 俺の代わりだと言ったというのは……」
ダグの問いにティモシーは、小さく頷く。それを見て、彼は大きなため息をついた。
「マジか。あの人何がしたかったんだ? 何か聞いているか?」
その問いには、本当の事は言えない。ティモシーは首を横に振った。
「そうか。俺達が集まっていたら、皇女がいなくなったってフレアさんが来た時には驚いた。王宮内を探したら、ティモシーが見かけない女の薬師と出て行った所を見た人がいて、特徴から皇女とわかった時は焦った。慌てて三人が馬車で追いかけたんだ。配達に向かったのなら森の泉研究所に行ったはずだからな」
ダグの説明にティモシーはなるほどと頷く。
イリステーナは、ティモシーに聞きたい事があったのだろう。それはレオナールの事なのかもしれない。昨日こっそりと二人で出掛けるぐらいの仲なのだから色々知っていると思われたのだろう。
(俺に何か聞かれても何もわからないのにな……)
ティモシーは、そのお蔭でブラッドリーに魔術師だとバレてしまったと思い出す。ずっと騙していた事になる。睨まれて当然なのかもしれない。
「どうしたらいいんだろう……」
「大丈夫だって。お前にお咎めはないだろうから」
ブラッドリーの事だったのがだ、小さく呟いた声が聞こえたダグは、ティモシーを慰めるように言った。
「しかしあれだな。結局ティモシーも巻き込まれちまったな。トンマーゾの時だって本当は予定外だったみたいだし。ブラッドリーさんに復讐するのに巻き込まれたり……お前ってついてないよなぁ」
ダグにそう言われて、そう言われればそうだと思った。ついてない。
暫くするとダグだけでなく、ティモシーも一緒に呼ばれた。場所は、レオナールの部屋だった。
そこには丸く向かい合う様に椅子が七つ設置してあった。その一つにレオナールが座り右回りに、グスターファス、ルーファス、イリステーナそしてフレアの順に既に座っていた。勿論、ルーファスの後ろにはランフレッドが立っている。
フレアの隣にティモシーが座り、その横にダグが座る。彼のよこはレオナール。そして、そのレオナールの後ろに呼びに来たブラッドリーた立った。
「では、申し訳ありませんが、この国の方法にて聞き取りを行いたいと思います」
グスターファスが、イリステーナを見つめ口火を切った。
「イリステーナ皇女。あなたは何故ティモシーを騙し王宮の外へ出たのでしょうか?」
「……私は、ここに父の意思を告げに参りました。ですが、何やら慌ただしく、そちらにおられますレオナール様まで現れました。私にはそれが、不穏な動きに見えたのです。私が魔術師だと告げたせいだと思いました。それで……」
イリステーナは、フレアの横に座るティモシーをチラッと見た。
ティモシーは、ギュッと両手を握った。レオナールと出掛けた事がここで暴露されれば、ミュアンの事も魔術師だった事も全てこの場でバレるかもしれない。そして、夢を通してエイブと接触していた事実も公になる。レオナールが上手く皆を丸め込んだとしても、これには言い訳が出来ない。
「それで、ランフレッドと一緒に暮らしているという彼女にこっそり話を聞こうとしたのです」
「え……」
ティモシーは小さく呟き、イリステーナを見た。それからハッとしてレオナールを見ると、彼は小さく頷いた。
二人だけで話したのは、レオナールと二人で抜け出したのを見たと言わない様に口止めするつもりだったからと気づいた。どうして、それがわかったのかは、謎ではあるが。
「結局聞けずじまいでした。ある男が私を狙ってきたからです」
「すまない。その男は、トンマーゾだ。あなたが来訪した日に逃亡してしまい行方を追っていた。なぜ、あなたを狙ったのかは定かではないのですが……」
ティモシーはふと思った。トンマーゾは、彼女の事を皇女だと知って襲ってきた。しかも、魔術師だと知っていた。逃げる時に尋ねて来たのが皇女だと知ったとしても内通者がいなければ魔術師だとは知れないだろう。
(どうやって知ったんだ? この中にトンマーゾさんと繋がっている人が……)
「陛下、ここからは私がお話致します」
そうレオナールが申し立てた。
「わかった。お願いしよう」
グスターファスは許可する。先ほど、レオナールとイリステーナが二人で話している。先に聞いているに違いないからだ。
「では……。イリステーナ皇女は、このエクランド国と協定を結びたく来訪したと聞きました。その理由は、モゼレス皇帝の体調が思わしくなく、生存中に結んでおきたいとの事。これには間違いはありませんね」
「はい」
レオナールが確認をすると、イリステーナは頷いた。
「トンマーゾですが、あの場所で待ち構えていたという事は、後をつけられていた証拠です。ティモシー、彼はどなたを狙っていたのでしょうか?」
イリステーナに聞くとばかり思っていた質問が自分に振られ、本当の事を言ってもいいのだろうかとティモシーは動揺する。
「あ、あの、多分、イリステーナ皇女だと思います。トンマーゾさんは、私に殺せともいいましたし……」
だが隠した所で仕方がないので素直に話した。
「それはどういう事だ……」
グスターファスは問う。
「え? えっと……仲間になれと言われました……」
「ザイダだけではなく、ティモシーまでもか……」
ルーファスがポツリと呟く。
「あの……宜しいですか?」
ダグがそっと口を開いた。それにグスターファスが頷く。
「トンマーゾは、イリステーナ皇女が来ている事をどうやって知ったのでしょうか? 逃げる時にでも知られたのでしょうか? 一部の者しか知らなかったですよね?」
ダグの質問にグスターファスは、うむと頷く。
「おそらく、助けに来た仲間に聞いたのだろう」
「その事ですが、エイブはヴィルターヌ帝国の出身のようです。顔を見られたのかもしれません。ただ、それとすぐに命を狙う事とは結びつかないのです。彼らが王宮の近くに潜んでいた事から、偶然にイリステーナ皇女の姿を見つけて消しにかかったとは考えづらい。彼に与えられた命令と考えていいでしょう」
レオナールの言葉に皆、顔を曇らせる。もしそうならば、ヴィルターヌ帝国とエクランド国の協定を魔術師の組織は何らかの理由で阻止したいという事になる。しかも、協定を結ぼうとしている事がどこからか漏れている事にもなる。
そうなると内通者がいたとしてもエクランド国ではなく、ヴィルターヌ帝国にいる可能性も出て来る。
「困りましたな。協定内容からして阻止する内容ではないのだが……」
「陛下。宜しければ後で、イリステーナ皇女を交えその協定の内容をお教え願いたいの……」
「別に今お教えしても構いませんよ。グスターファス陛下が宜しいのであれば、私は構いません」
レオナールのお伺いを遮る様に、イリステーナは発言する。
「わかった。私もレオナール殿に力添えを頂きたい」
チラッとグスターファスは、ティモシーとダグを見た。これから聞く事は他言無用という事だろう。
「別に普通の協定です。私の国の魔術師とエクランド国の薬師とのトレードです」
「薬師と魔術師ですか……。エクランド国にとってメリットがあるように思えないのですが?」
レオナールがそう言うとイリステーナは淡々と答える。
「エクランド国はあなたの国と密かに協定を結んでいると聞き及んでおります。魔術師に対して寛容のようですので、こちらの国とも結んで頂きたくお願いに来ました。私達の国は、魔術師の国だとオープンにするつもりはありませんが、もし万が一戦争などがあった場合は協定に基づき全力で協力致しますという内容です」
レオナールは、明らかに怪訝な顔つきになる。
「私の国と協定を結んでいると噂されている国に戦争を吹っ掛ける国がいるとでも?」
「協定に盛り込んだだけですわ」
「逆ではないのか? 内容は相互だった。つまり、あなたの国が戦争になったら我が国からも応援を送らなければならない」
二人の言い争いにルーファスはそう進言した。
ルーファスの言っている通りとなると、いきなり協定の話を持って来たという事は、戦争になりそうな相手がいるという事になる。
「なるほど。あなたの国は危機迫っているという事でしょうか?」
「……いいえ」
レオナールの問いに、イリステーナは、一言だけで返した。
「では、何が目的でこのような協定を? 失礼ではありますが、こんな取って付けたような内容では協定は結ばないでしょう。……いえ、協定はダミーなのでしょう? 本当は何が目的でこの国に来たのです?」
「………」
その発言には、皆驚く。よほどの事がなければそんな事はしない。だが考えてみれば、命が狙われているのだから何かが起きていると考えるのが普通だ。協定を結ぼうとしたからではなく、助けを求めに来た。そう考えるのが妥当だ。
「わかりました。時間を差し上げます。元々私にではなく、陛下に求めに来たのでしょうから、内密に陛下にご相談しても私は構いません。ですが、相手は待ってはくれませんよ」
「………」
レオナールの言葉にイリステーナは、何も返さなかった。それが答えだ。レオナールの言っている事は、全てでなくとも合っているのだろう。
「協定の真偽は、明日以降話し合おう。イリステーナ殿もお疲れだろう。ゆっくり休んで考えてほしい」
グスターファスはそう締めくくると、立ち上がった。それに続きルーファスも立ち上がる。
「ティモシー、あなたには話があります。残りなさい」
立ち上がろうとした時、レオナールから声が掛かった。やっぱりそうなるのかと、ティモシーは頷いた。
ブラッドリーも出て行き、レオナールとティモシー二人になった。




